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カメバ―さんと桃のはなし④

「ねぇ、あなたが時間をつくっていらっしゃるの?」

「いや、わたしはそんなことはできないさ。わたしは人間に時間を配っているんだよ」

「時間を配るの?そう~時間は配られているものだったのね。ふ~ん、でも見えないけれど、風のようなものなのかしら?…それとも…音楽みたいなものなのかしら。まぁ~それで、こんなに時計をたくさん持っていらっしゃるのね」

「いや、これは、ただ趣味で集めたものなんで…ハトが時間を教えてくれるものだってあるんだ。この大きな古い時計は一番のお気に入りさ」

「素敵ね~♪ それで、この時計を人間に一つずつ配ってるの?」

「いや、そうじゃないよ。時計というものは、人間ひとりひとりの胸の中にあるんだ。だから、もし、その人間の心が時間を感じとってくれないと、その時間は配ってないということになるんだよ

「まぁ…配ったのにないなんて…もしかして配った時間はだれかに盗まれたのかしら…それとも自分で失くしちゃったのかしら…ねぇ…」

カメバ―さんは、誰と話をしているのでしょう。


実は…カメバ―さんの愛読書は、ミヒャエル・エンデの『モモ』なのです。桃のような顔をしているカメバ―さんは、モモのような女の子になりたいと思って、何度も何度も『モモ』を読んでいたのでした。

まだ子どもだった頃、自バッタさんや他イクツさん達と何もない空き地で遊んでいた頃を懐かしんで、散歩にやってきたのです。ところが…いつのまにか、ビルが立ち並んでいます。自分が今、いったいどこにいるのかさえもわからなくなってしまいました。

「あっ!…わたし、ほんとうにモモになったんだわ~♪」

あの頃の自分から逃げ回っていたのは、年老いた自分を守るためだったことに気づいたのでした。ずっと自分のことばかり考えて、寂しさや不安で頭の中をいっぱいにして…すっかり自分がやるべきことを忘れてしまっていたのです。

「あの人たちを助けることができるのは、桃のようなわたしってこと?…そうよ、モモのように桃のわたしはモモのように、桃らしくってことよね!」

なんだか、よくわかりませんが…カメバ―さんは、カゴを持ってさっそうと出ていきました。


「わたしは、ここよ~桃はここよ~桃はいらんかね~」



「ここなら、きっと、たくさんの桃を買ってくれるわね」

桃が入った箱を背に、カメバ―さんは桃のような桃色娘になってやってきたのは、白色の袴を着た男たちが集っている屋敷だったのでした。

「この桃を食べてもらって、みんながつくった桃もたくさん買っておう~♪」

(終わり)