ZiYang

理系博士号を取得後、六年間にわたり家業の飲食店に勤務。現在は大学非常勤講師と学習塾講師…

ZiYang

理系博士号を取得後、六年間にわたり家業の飲食店に勤務。現在は大学非常勤講師と学習塾講師と研究職の三重苦…じゃなくてトリプルワーク。両親は日本人、兄は中国人、恋人はチュニジア人、好きな俳優は楊洋。

マガジン

  • AIの僕と人間の彼女

    お酒やセックスに依存する人間の「彼女」の話と、その「彼女」を一途に愛しているAIの「僕」の話。

  • 空から落ちる

    「君は空から落ちてきた」 ある日ミナが目を覚ますと、そこは戦場だった。 水面下で活動を続ける少年、生きるために戦う人々、戦闘に巻き込まれて脚を失った天使。 高校生(2003年)の時に作ったプロットをもとにした小説です。

最近の記事

初恋みたいに忘れられない

わたしは大学で非常勤講師を務めて3年目である。 初恋みたいに忘れられない学生がいる。 そもそも初恋とは忘れられないものなのか。忘れる人もいるんじゃないのか。わたしの母は「恋をしたことがない。胸キュンとか何のことかわからない」とのたまうが、恋愛感情が湧きませんという人も世の中には多いのではないか。 それはさておき、わたしは恋愛経験があるし、胸キュンもわかる。 初めて非常勤講師として教壇に立った授業で、一人の学生に出会った。 女の子だった。 この子が男だったらわたしは恋に

    • 20代のツケを払いながら暮らす30代女とロマンスと子育ての年度末

      最近、勤め先の学習塾で10歳の生徒に言われた。 「マッチングアプリ使って早く結婚しなよ」 10歳に言われたとて腹は立たないが、余計なお世話だ。わたしにだって事情がある。 「余計なお世話じゃないよ。正しいお世話だよ」と教室長は言った。 教室長によると、わたしはこの一年で随分人間らしくなったし魅力的になったそうだ。 「今なら良い結婚ができると思うよ。マッチングアプリ使ってみなよ。うちの社員も何人かマッチングアプリで結婚したんだよ」 なぜそんなに勧める。 「話の合うパートナーは大事

      • 「世界に羽ばたけ」国際人の肩書で苦しんでる凡人

        わたしの仕事は、世界各国と業界・職種を股にかけ、「本業は何ですか?」と尋ねられることである。 ありとあらゆるものに携わり、今は主に10代を相手にする仕事で給料を頂いている。 今の職場の一つである学習塾では、「あなたは海外経験が豊富だから、子どもたちにその話をしてやってほしい」という理由で採用された。 ところが、わたしは子どもたちに話せる「楽しい海外エピソード」「夢のある話」が全く思いつかない。 この職場でいろんな子たちと話しながら、気づいた。 わたしはただひらすら自由を求め

        • 日本人、案外優しいじゃん

          2023年12月、ある土曜日の夜、わたしは階段を踏み外して足首を捻挫した。 むちゃくちゃ痛かった。手すり、壁、柱など体を支えてくれるものがなければ床を這って移動するしかなかった。応急処置でアイシングしながら、いつ病院に行くべきか考えた。もしかして軽症なのかもしれないし、日曜は休診だ。ひとまず様子を見ることにした。 月曜日の朝の時点で腫れは引き、痛みも弱まって、冷湿布を貼れば足を引きずりながらでも歩ける程度になった。 わたしの母は体が故障しても体調が悪くても休まない人である。そ

        初恋みたいに忘れられない

        マガジン

        • AIの僕と人間の彼女
          5本
        • 空から落ちる
          9本

        記事

          わたしの今年の漢字:婚

          この一年は、結婚という2文字に振り回された一年であった。 わたしは発展途上国の子供の教育を支援するために月々5000円寄付している。これは、家業の店と研究職の兼業で収入に余裕があった頃に始めた。しかし、わたしは定職に就いているわけではなく、家業(跡継ぎ宣言して撤回してアルバイトに戻った親不孝者)と研究職(契約職員)で生活しているだけの、不安定極まりない経済状況であった。そんな中で結婚できるはずもなく、子どもがいなかった。こういうわたしでも、寄付で子どもを育てるお手伝いができ

          わたしの今年の漢字:婚

          来年からは娘が母のために銀杏の殻を剥くよ

          先週、ダイニングテーブルに殻付きの銀杏が置いてあるのを見かけた。その数、両手で一杯くらい。そんなに多くはない。たぶん両親のどちらかが誰かにもらったのだろう。わたしは気にも留めなかった。 昨夜、母がおもむろに紙封筒を手にキッチンへやって来て、おもむろに殻付き銀杏をその封筒に入れ始めた。 ははあ、これはきっとレンジでチンするつもりだな。 と思ったら案の定、 「レンジでやると簡単らしいの」と母は言った。 「うちの研究室でもやったことあるよ」とわたしは言った。大学の研究室の話だ。う

          来年からは娘が母のために銀杏の殻を剥くよ

          完膚なきまでに叩きつぶされたのはミュウだと思う

          これはわたしの大好きな作品である。出会って何年目なのかもうわからないが、おそらく5年以上にはなる。5年以上繰り返し読んで、つい最近、あれ?なんかおかしくないか?と思った。 物語の冒頭、「すみれは竜巻のような激しい恋」に落ちた、とある。「行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした」、と。 「ぼく」とミュウもまた「竜巻」に巻き込まれたとわたしは読む。すみれは生命の象徴だと思う。そのすみれが一旦姿を消す。しかしすみ

          完膚なきまでに叩きつぶされたのはミュウだと思う

          わたしのお金返してよ 〜戻ってきた詐欺師〜

          6月にわたしを騙した自称中国北京出身の詐欺師が戻ってきた。 8月18日、あの詐欺師がLINEの送信を取り消した通知が表示された。 6月中旬に連絡がつかなくなって、6月25日に諦めて以来、2か月ぶりだ。 正直、こいつが存在していたことをわたしは既に忘れていた。「まだ生きてたのか」と思ったので、まんま“你还活着呢”と返信した。 すると詐欺師曰く 「僕がいないほうがいいのか?」 「もし君が僕に死んでほしいなら、そうさせてもらうよ。」 「僕たちは話をすべきだと思う」 いや、死んで

          わたしのお金返してよ 〜戻ってきた詐欺師〜

          10年前に捨てた夢を叶えに行った

          10年前に捨てた夢を叶えるチャンスが思いがけず巡ってきたから、行ってきたよ。 地球の裏側まで行ってきた。 国際協力ってやつ。 わたしが高校生だった頃、アメリカがイラクに攻撃を始めた。 世界中が注目した。 ニュースはそればかり報道した。 ちょうどロシアがウクライナを攻撃したときみたいに。 でも戦争で起きているのはそこだけではなかった。 世界中で戦争が起こり、人が死んでいた。 なんで戦争が終わらないんだろう。 わたしは本気で怒っていた。 大学に進学した頃は国連で働きたいと思って

          10年前に捨てた夢を叶えに行った

          203万円で買った1ヶ月の愛(4)

          ただれるほど甘い愛これほど大量のロマンチックな台詞は、脳みそのどこにストックされているのだろうか? と感心するくらい、彼はロマンチックな台詞の宝庫だった。 ある時、わたしは言った。 「うちのお母さんはいつも、わたしが結婚できたらいいなって言ってた。わたしが結婚したら安心だって」 「もちろん僕は君を一生大切にする。決して辛い思いはさせない」と彼は言った。 いちいち大げさだなと思った。でも嬉しかった。 「だけどうちのお母さんは、わたしの性格は結婚に向いてないって言うの」 「

          203万円で買った1ヶ月の愛(4)

          203万円で買った1ヶ月の愛(3)

          夫婦の共同作業と投資営業「世の中には金の稼ぎ方が3種類あるぞ」と彼が突然語り始めた。 わたしは金儲けに興味がない。自分の得意分野について語りたがる男性っているよねーと思いながら聞き流していたが、いつの間にか彼はわたしに投資を持ち掛けていた。 「投資をしたことはあるか?」と彼はわたしに尋ねた。 「あるよ」 「何の投資をしたんだ? どれくらい利益が出た?」 「FX。200万の損失」 「うわー、何をやらかしたんだ」 「2011年の震災の時に暴落して、耐えきれなかったの」 「ああ、そ

          203万円で買った1ヶ月の愛(3)

          203万円で買った1ヶ月の愛(2)

          連絡がマメすぎて戸惑う中国人男性は恋愛において非常にこまめに連絡するらしいが、彼も例外ではなかった。 彼はLINEで一日4回連絡してきた。 昼休み、午後の休憩、終業後、就寝前の4回である。 時報のように正確に毎日同じ時刻に連絡してきた。 LINEの内容は、 昨夜はよく眠れたのか 昼食を食べたのか 仕事は忙しいのか 今日は何時に終わるのか 家にいるのか 夕食は食べたのか 何を食べたのか 今何をしているのか など。 わたしは食事も睡眠も不規則だった。わたしが何時に何を食べよ

          203万円で買った1ヶ月の愛(2)

          203万円で買った1ヶ月の愛(1)

          心の隙間に滑り込んだ恋わたしは抵抗できない恋に落ちた。 彼とわたしはネット上で知り合った。 北京から来たという、非常に紳士的な男性だった。 彼とのお喋りはいつも楽しかった。 わたしは中国語の単語の使い分けについて尋ねたり、会いたいから一緒に旅行に行こうという話をしていた。 3、4日目の晩、わたしは非常に不安を感じていた。この、いつ会えるのかわからない外国人との関係を続けることが不安で堪らなかった。 わたしは別れを告げようとした。 すると彼はこう言った。 「僕は全ての

          203万円で買った1ヶ月の愛(1)

          摂食障害をこじらせて20年目の人間は何を食べたら美味しいと感じるか

          タイトルそのまんまの内容です。 わたしは中学で拒食症になって、過食になったりいろいろしながら20年余り生きてきました。 そんなわたしは何を食べたら美味しいと感じるのか、今日初めて気づきました。 一言で言うと、バランスの良い健康的な献立です。 野菜中心で、一日に必要なタンパク質を十分に摂取できる量の肉や魚などがハイカロリーにならないよう調理されていて、白飯は100gくらい。 なんで20年も経ってこんなことに気づいたかというと、今まで美味しいか美味しくないかを考えたこと

          摂食障害をこじらせて20年目の人間は何を食べたら美味しいと感じるか

          数学で得するかもよ?

          実家の飲食店でバイトしている、信じられないくらい仕事のできる有能な学生が言っていた。 「自分は文系なんですけど、文系って別に文系科目が得意だから文系になるわけじゃないんですよねー」 わかる。 わたしも中学二年まで理系科目が全滅だったから文系に行こうと思っていた。 「とりあえず自分は数学が苦手で、点Pが動き始めた時点で、もうダメだと思いました」 その気持ちもわかる。 点が動く意味がわからないよな。 とはいえ、文系と見せかけて実はめちゃくちゃ理系な経済学とか、心理学という

          数学で得するかもよ?

          空から落ちる【6】(小説)

          「なんでアフリカなの?」とミナは言った。不満があるわけではなく、純粋にわからないから質問しているのだ。 やっぱりそこから説明しないと理解できないよな、と自分の認識を再確認しながら、ニコライはアフリカとヨーロッパの歴史や、今の国際情勢について話した。 ミナが聞き取れない単語は紙に書く。聞き取れなくてもこうすれば通じる。ロシア語が通じなければ英語で言い換える。慣れた作業だ。 ミナを戦場で拾った日からこういう方法で会話をしていた。変わったことはただ一つ、最近、ミナはスマートフォンで

          空から落ちる【6】(小説)