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でんでんBOY

確か「天空の城のラピュタ」で、パズーが朝方に塔の窓から高らかに吹き上げるメロディ。
ムソルグスキーの「展覧会の絵」のプロムナードの淡々としたでも荘厳な調べ。
トランペットの軽やかで時に哀調を帯び、時に胸に突き刺さる音色が好きだった。

学生の頃の友人が吹奏楽部でその後輩の男の子がトランペットを吹いていた。家が近くの彼女を迎えにいったり何回かしてる内に話すようになり、時にふざけ合ったりするような間柄になった。

おちゃらけた人懐っこい子で誰とでもすぐ親しくなり、また好きな芸能人の真似をするなどミーハーでもあった。どちらかと言うとお笑い系な一種独特の顔つきではあったけど。

なぜこんな事を書いてるかと言えば、職場の男性(男の子?)にすごく感じの似ている子がいたからである。最初見た時、え??と思わずガン見してしまった。
もちろん別人である。懐かしい男の子は私の一個下なのだから、今は中年のおじさん、多分、お腹も出て頭も後退してきてるのではないかと思う。

だけど、私の心は一気にあの学生時代に引き戻されてしまった。最後に見たのは、いつだったろう。たしか、向こうが彼女連れ!で歩いてたんだ。ずいぶんと太ったな、と思ったっけ。
 
それ以来、私の中でその子は"でんでん''という呼び名になっている。直接関わり合いはないので、たまに挨拶する程度だけどその子を見るのが密かな楽しみになりつつある。
いまさら思春期?…まだ難解な業務の習得渦中にある私にはちょうど良い現実逃避なのだ。アイドル追っかけのような胸のトキメキはないけれど、一方的に懐かしさに浸らせてもらっている。あぶない人に思われるので、あくまで視線にたまたま入った時だけ。。

そういえば、あの子は、友人は元気だろうか。

ちょっとしんみりしたりもする。

「…見てるとこ、違いますよ」

背後からのひそっとした声で瞬時引き戻される。

さあ、今日もお腹空かせたイケメンBOYが待っている。
早く帰ろう。


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