海ドラマガジン【第84回】決めつけず好奇心を持て AppleTVドラマ『テッド・ラッソ』
アメフトのコーチが、プロサッカーチームの監督に就任するという異例の人事。イギリスに渡ったアメリカ人テッド・ラッソが、文化の違いに戸惑いながらも、持ち前のポジティブさで突き進んでいく様子をコミカルに描いた物語。
【海外ドラマファンのためのマガジン第84回』
コメディアンのジェイソン・サダイキスが主演を務める『テッド・ラッソ:破天荒コーチが行く』。日本ではAppleTV+で視聴することができます。
2021年のゴールデン・グローヴ賞のコメディ部門作品賞にノミネートされているコメディドラマですが、製作には(Apple / Doozer Productions / Warner Bros. Television / Universal Television)という4社がクレジットされています。
テッド役のジェイソンと、ビアード・コーチ役のブレンダン・ハントほか、12名が全10話の脚本にクレジットされているという多数のお笑いセンスを集結させて作られた物語です。
アメフトのコーチが、英国のサッカーチームの監督になるという無謀すぎる人事には、クラブのオーナーであるレベッカ(ハンナ・ワンディガム)の策略がありました。
クラブのオーナーだった元夫ルパート(アンソニー・ヘッド)が愛していたクラブを滅茶苦茶にしてやろうという思惑があるのです。だから、サッカーについては素人のテッド・ラッソをわざわざカンザスから引き抜いたのでした。
第83回で取り上げたNetflixドラマ『エミリー、パリへ行く』は、アメリカ人がフランスで働く物語でしたが、本作ではアメリカとイギリスの文化の違いを描いていきます。
車の左側通行とか、コーヒーと紅茶とか、スパイクをブーツと呼ぶとか、文化の違いに戸惑うテッド・ラッソですが、何といってもテッド自身がイギリスではかなり浮いた存在なんです。
テッドのたとえ話やオヤジギャグなんかも、ネタ元の映画やドラマがイギリス人には馴染みがないものなので、「なんのこっちゃ」という感じでまるで刺さらない。
みんなと心を通わせて家族のようなチームを作るというスタイルのテッドにとっては、まずチームのメンバーに受け入れてもらうことが重要なんですが、選手たちにしてみれば「ハンバーガーの国のド素人にコーチされるとはな」と相手にされないんですね。
このドラマのオープニング映像で、テッドがサッカースタジアムのブルーのイスに座ると、彼の周りが徐々に赤くなっていくという描写があるのですが、まさにそんな感じでテッドの人柄にふれた周囲の人々の中に、徐々にテッドマインドが広がっていくというポジティブなストーリーです。
ドラマを見ていて、テッド役は、生きていればロビン・ウィリアムズが演じていたような役柄だなぁと思いました。
ポジティブな男ですが、ただ明るいだけじゃなくて、ほんとは心が弱い部分んがあるんじゃないのかなと感じさせる「いいヤツ」なんですよね。
踊ったりギャグを言ってはしゃぐちょっとウザイ系の男ではあるんですが、根本的には真面目な人間だから、憎めない。
人柄の良いひとが上に立つと、意地の悪い人に潰されてしまうという危険性があると思うのですが、テッドにとっては敵になるはずのチームのオーナーレベッカも、テッドの人柄に惑わされる部分があって、人たらしテッドの魅力にハマってしまうんです。
視聴者としては、テッドにハマるかハマらないかでドラマの面白さが変わると思うのですが、私はイマイチ、テッド本人にはハマり切れませんでした。
でも、チームのオーナーレベッカと、チームのスター選手の恋人だったキーリー(ジュノ―・テンプル)が魅力的だったので、二人の女性に注目して鑑賞しました。
文化の違いの描写も笑いを交えつつも、「なるほどな」と思わせてくれてなかなかパンチも効いています。
テッドは、アフリカ出身の選手に、息子がくれたアメリカ兵の小さな人形をプレゼントするのですが、「うれしいけど、監督ほどアメリカ兵を崇める気持ちがないから、これはお返ししていいですか。」と言われて、「あ、そうか帝国主義的だったね」なんて言うセリフが、センスあるなぁと思ったりしました。
サッカーの知識はまるでないのですが、テッドはコーチとして人を伸ばすという面では才能を持っていて、彼の言うセリフはなかなか名言も多いです。
テッド「オレは大したことないヤツだと決めつけられてきた。オレを小物扱いしてきたやつらは、好奇心がなかったんだ。それに彼らがオレを軽んじたところで、オレ自身は何も変わらない。」
この言葉はいい視点だなぁと思いました。このセリフを導き出したときに、テッドが目にしたホイットマンの言葉、「決めつけずに好奇心を持て」もなかなかの名言です。
サポートは、サークル活動&交流サイトを作る基金に使用させていただきます!