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note徳力基彦さんが現場視点で選ぶ3冊:マーケターの本棚

世界中に数多あるマーケティング関連本。どれを読めばマーケティングが分かるようになるのか。何から読めばマーケティングを理解しやすいのかを見極めるのは大変困難です。

「いっそ、あのマーケターの本棚をのぞき見できたら良いのに……」

そんな願いを実現したのが、連載「マーケターの本棚」です。今回は、noteプロデューサー/ブロガーで、企業のSNS活用やブログメディアマーケティングに造詣が深い徳力基彦(とくりき・もとひこ)さんが、若手マーケターや知見を深めたいマーケターにおすすめの3冊を紹介してくれました。

<プロフィール>
徳力基彦
新卒でNTTグループにて法人営業やIR活動に従事。その後IT系コンサルティングファームなどでブログを活用したマーケティングやPR業務を経験。2006年、アジャイルメディア・ネットワークにブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任し、2019年6月退任。現在は株式会社noteでnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートをしている。


現場の視点から若手や知見を高めたいマーケターへ向けたおすすめ本

私は基本的に初回の高広さんと同じで「まずは古典から学んでいくこと」が大切だと考えています。実際、私自身もコトラーやアル・ライズの著書などを一通り読んできました。

しかしそれをそのまま紹介しても、高広さんと文脈がかぶってしまうので、今回はあえて逆の現場視点から、若手マーケターや知見を深めたいマーケターに向けたおすすめ本を紹介します。

私は前職でソーシャルメディアマーケティングを提案する企業を経営しており、マーケティングについての情報発信もしていました。しかし当時は、厳密にいえば「現場側」の人間ではなく、企業に対してソーシャルメディアを提案する立場でした。

そんな中、実際に企業のマーケターとして現場のど真ん中を歩いてきた凄腕マーケターの方々と実際にお会いし、交流させていただくようになり、自分のマーケティングに対する知見の無さを痛感することになりました。特に大きな影響を受けたのが元P&Gのマーケターである西口一希さんと足立光さんです。

お二人ともマーケティングや仕事術の書籍を複数出されていますが、私のような代理店の立場よりも、事業会社の方は実際に自分たちが責任を持って投資をし実施してきた戦略について執筆しているので、生々しく学べる事柄がたくさんあります。

そこからまず1冊選ぶとしたらこちらです。


多彩な業種を経験したマーケターのロジックが詰まった必読本

『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』
著者:西口一希

実は私はこの本が出た当初、noteで「マーケティングの本はいろいろありますが、この1冊は間違いなく現在のマーケティングに携わる方は必読の本だと言えると思います」から始まる書評を書きました。

その書評でも触れていますが、この本はびっくりするぐらい論理的で、理詰めでマーケティングを考えていきます。一度さらっと読んだだけでは全ては理解できないかもしれませんが、この本を読んで実際に同じような顧客分析を行い、それで成功したというケースもたくさん聞いています。業種・業態に関係なく、マーケティングの初心者からベテランの方にまでお勧めできます。

なぜこの本があらゆるマーケターに役立つのか。

それは西口さんが多くの業種を意図的に経験された方だからだと思います。西口さんは外資系のP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)から日本企業であるロート製薬に転職し、ロクシタン、そしてスマートニュースと、大手からスタートアップ、メーカーからアプリサービスまで幅広く経験し、企業のステージ別のマーケティングの課題と向き合ってこられました。

1社だけの経験を基にしたマーケティング本はあまり普遍性がありませんが、西口さんはキャリアを切り替えるたびに「この会社ではこんなふうにやった方が良いはずだ」という自分の持つロジックを、データを基に当てはめていき、どの会社でも高い成果を出してきたのです。

スマートニュースではそのロジックを当てはめて戦略を立て、実際にテレビコマーシャルでさらなる成長に貢献されていますが、この本ではそのプロセスも細かく明かしています。自らの経験を基に生み出された普遍的なマーケティングのロジックが詰まった本です。

「マーケティングできます」という人にこそ読んで欲しい“マーケティングの全部入り”本

『The Art of Marketing マーケティングの技法―パーセプションフロー・モデル全解説』
著者:音部大輔

この本は「日本マーケティング本大賞2022」を受賞しています。著者の音部さんもP&G出身のマーケターです。

音部さんも理論派の方です。特にこの本は“マーケティングの全部入り”ともいえる感じで、少々内容も難しく、重い本ですが、レベルアップするには読んでおくべきということで今回おすすめ本に挙げてみました。

ちなみに音部さんもP&Gやダノン、ユニリーバ、資生堂などさまざまな企業でマーケターとして活躍された方で、「パーセプションフロー・モデル」というマーケティングモデルを開発しています。

パーセプションとは「認識」という意味です。パーセプションフロー・モデルとは、消費者の認識の変化をフローとして捉え、そのフローを中心にマーケティング活動全体の戦略やKPIを設計するという考え方です。

私もこの考え方に強く影響を受け、前職でもこのモデルを活用してソーシャルメディアマーケティングや口コミマーケティングの役割を企業に提案していました。

単に「こういう施策をやりましょう」とメニューを提案しても事業会社のマーケターの方の心は動きませんが、このパーセプションフロー・モデルのような全体のフローを共有して、具体的な課題に対して提案をすることで理解してもらいやすくなりました。いわば共通言語になるわけですね。

あえて言うならば、この本は「私、マーケティングできます」という方にこそ読んでいただきたいです。特にデジタルマーケティング分野でCVRやCPAのような数値だけを追っていると、お客様の気持ちや認識の変化について無関心になってしまうことがあります。

この本を読めば、数値には出にくいところからマーケティングを考えられるようになると思います。


「消臭力」のマーケターが重視する、ロジックと“心の動き”の見方

『「心」が分かるとモノが売れる』
著者:鹿毛康司

ここまで元P&Gのマーケターの著書を紹介してきました。そんなP&Gに日本流でガチ対抗できるマーケターが、最後におすすめするこの1冊を書かれた鹿毛康司さんです。

今は独立されていますが、2003年からエステーの宣伝担当として活躍された方です。2011年の東日本大震災の後、ミゲルというポルトガルの少年が熱唱する「消臭力」のCMが話題になりましたが、あのCMを世に出したのが鹿毛さんです。

当時、消臭力のライバルであるP&G社内では「なぜ消臭力はあの歌のCMで2桁も成長できるんだ」と本国の人に聞かれて、日本の担当者がうまく説明できずに頭を抱えていたそうです。ですがあの震災直後の雰囲気や、企業CMが全部ストップしてしまった中で突然登場した歌のインパクトは、震災を経験した方なら今でも思い浮かぶでしょう。

鹿毛さんはそんな「心」の部分をしっかりと考え、ロジックを組み立ててマーケティングを展開している方です。これまで紹介してきたようなP&Gの方のマーケティングに比べるとある意味「日本人ならではのマーケティング」と言えるかもしれません。

鹿毛さんはご自身で作詞作曲もしますし、CM監督も手掛けて消費者の感覚や心に直に訴えるユニークなアイディアを出していくので、天才肌と言えなくもない。ですが実際はMBAも取り、PRについても研究し、消費者の心について真剣に考えている非常にロジカルな方でもあります。

この本では、そんな鹿毛さんのノウハウを余すところなく赤裸々に明かしてくれています。リサーチ過信に陥らない「心のマーケティング」の進め方から、震災直後に消臭力CMを復活する際に全役員に送ったメールも全文公開されています。

ロジックだけではなく「“心の動き”の見方」を磨くことはマーケターにとって大切なことです。マーケティングの論理やロジックは、古典のほか西口さんや音部さんの著作などを幅広く読んで身に付けつつ、そのうえで自分らしさや日本人らしいマーケティングを考えるうえで鹿毛さんの本は参考になるはずです。

最後にもう一つ。

今回はマーケティングをテーマにした選書として3冊を選びましたが、冒頭で紹介した足立さんの『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』という本もおすすめです。上記3冊のあと、ぜひ『〜「劇薬」の仕事術』も読んでみてください。

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