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マインドフルネスを伝える全ての人に知っていてほしい事 〜トラウマに配慮したマインドフルネス〜(インタビュー)

本日は、臨床心理士、スクールカウンセラーで、Oxford Mindfulness Centerでトレーニングを受けたマインドフルネス認知療法(MBCT)講師である、金ヌルプルンソルさんに、David Treleaven氏のトラウマセンシティブ・マインドフルネス(TSM※)についてお話をお伺いしました。
臨床心理士として、また異文化で生活する個人として、TSMの学びを通じ、どのようなことを感じられたのでしょうか。

※トラウマセンシティブ・マインドフルネス13ヶ月コース
ビデオ教材を元に、ピアグループでのディスカッションや全体でのミーティング、David氏のウェビナー(不定期)などを通じた学び。

そもそも、マインドフルネスの文脈で、なぜトラウマ、というものが話題に上がるのでしょうか。

インタビュアー:宮本賢也

―――本日はよろしくお願いいたします。ソルさんとは、トラウマセンシティブ・マインドフルネスを一緒に13ヶ月学んだ仲間です。臨床心理士としての職業上のご経験、またご自身が韓国ご出身で女性という個人的な観点から、このトラウマやマインドフルネスについて感じていることを伺っていければと思います。
まず簡単にご経歴を教えていただけますか。

私は、韓国の出身で、高校時代はニュージーランドで過ごしました。その後、そのままニュージランドの大学に進学し日本語と中国を専攻していたのですが、1年通った後、新しいことを学びたくなり、日本に留学することにしました。

来日してからは、1年間日本語を学んだ後、早稲田大学に入学し大学院まで学びました。大学入学前に臨床心理学の説明会を聞く機会があり、興味が湧いて、心理学を専攻することにしました。それ以来、今に至るまで心理学を専門にしています。

―――大学ご卒業後はどのようなお仕事をされ、その中でどのようにマインドフルネスに出会われたのでしょうか。

もともと、大学時代に、授業でマインドフルネスについて学んだことがあり、興味がありました。ただ、時間がないとの言い訳で、毎日の実践はせずに過ごしていました。

卒業後、心療内科で心理士として4年ほど勤務していたころ、大学時代の恩師の研究室から、勤務先の病院に実習生の方が来られる機会があり、その際にマインドフルネスのプログラムを導入する事になりました。大学の研究室とやり取りしながらプログラムを行い、その実習生の方が大学に帰った後も継続してマインドフルネスプログラムを行っていました。

そうしているうちに、実践も含めてよりしっかりとマインドフルネスを学びたいと思うようになり、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)の8週間コースを受講しました。

―――その後、マインドフルネス認知療法(MBCT)を学ばれたのですね。

はい、Oxford Mindfulness CenterのMBCTのトレーニングを、2021年に終えました。

その際のトレーナーの一人のAlison Yiangou先生(※)から、今後日本でMBCTを教えるなら日本語でMBCT一度受講することを勧められ、井上清子さんのMBCT for Lifeを受講したのがIMCJとの付き合いのはじまりになります。

※Alison Yiangou氏は井上清子、宮本のMBCTのスーパーバイザー

―――そうしてマインフルネスを伝える立場になられたわけですが、臨床家としての立場から、トラウマセンシティブ・マインドフルネスをどのように捉えられていますか。その必要性とはどのようなものでしょうか。

一言でいうと、必要な時にかける「ブレーキ」のような役割だと思っています。ここ10年ほど、マインドフルネスの人気が高まり、テレビや雑誌、YouTubeなどでも、そのメリットが語られています。ただ、そこでは良い面が全面的に語られる傾向があって、そこには健康を害するリスクが有るという意識が足りないように聞こえる場合もあり、アクセルが踏まれ続けているような感じがありました。

例えば、MBCTがうつの再発予防に効果がある、という科学的なエビデンスはあるのですが、それが「マインドフルネスはうつ再発予防に効果がある」という言われ方をしたりと、必ずしも正確でない伝わり方を耳にすることがあります。MBCTは、うつ再発予防のために構造化されたものであるのに対し、すべてのマインドフルネスがそのようなことを目的としているものでもなく、そのような効果が持つということは言われていません。

TSMは何かを治したり、瞑想自体を楽に感じるためのものではなく、窓の幅を広げて、自ら安全を保ちながら、必要に応じてアクセルとブレーキを上手に使えるようになることが目的であることが、私自身の実践にも、教える場面でも良い影響を与えています。

―――TSM13 ヶ月コースでは30本以上のビデオをご覧いただき、ピアグループ(4人一組)で毎月集まって理解を深めていただきました。どのようなことが印象に残っていますか。

ビデオの中で、David先生が自分の経験したクライアントの話を(※)してくれたので、まだ自分が出会っていないケースに事前に心づもりができたり、脳や神経系の話もあったりで体系的に理解が深まったと思います。TSMのテーマ自体は、13ヶ月という長期間でなくても、マインドフルネスを伝える人には、何かしらの形で知っておいていいただくと良いものではないかと思います。

例えば、こういう例を耳にしました。
ある入院患者さんにボディスキャンのガイドを行った際、練習後にその方が起き上がることができなくなりました。そのとき、そこに居合わせた人たちは、起き上がることができなかったのは、その方がもともと抱えていた疾患に起因するものだろう、と判断をしました。それが、TSMの視点から見ると、それはトラウマに起因していた可能性があり、ボディスキャンのガイドの仕方を調整することで、その患者さんにとって、よりサポートになる方法でボディスキャンを実施することができた可能性があります。

※David氏自身が出会ったケースを、プライバシーに配慮した形で、名前や属性を変え、ケースとして提示したもの。

―――そうですね、TSMは、そのように参加者の方の安全への配慮が一番の目的ですし、また調整の仕方を知っていれば提供する側としても、マインドフルネスの限界を知りつつその範囲内で安心して伝えることができるように思います。
いま、MBCTでマインドフルネスを伝える中で、どのように感じていますか。

韓国の方に向けてクラスを行っているのですが、TSMの学びはそこでも生きていると思います。

たとえば、MBCTでは、クラスとクラスの間に自宅で毎日行うホームプラクティスと呼ばれるものがあります。毎回クラスの際に、先週一週間のホームプラクティスを行って感じたことをお聞きする機会があります。あるクラスで、とある受講者が、ホームプラクティスをあまりしていない、ということがありました。

それについて、これは本人の努力が足りないからである、とう解釈もありうるのですが、その時に私が感じたのは、「この人は耐性の窓(※)の外に出ているために取り組めなかったのではないか」ということでした。そこで、そのクラスの中で、耐性の窓の概念を説明し、まずはその窓の中に戻ることが重要であり、そうしてこそマインドフルネスの実践を継続することができることを伝えました。そのことは、その参加者の方にも伝わったと思います。

耐性の窓:TSMの重要概念の一つ。詳細は以下参照。

https://note.com/mindfulnessjapan/n/ne63dfe5326b4

―――ここまではマインドフルネスを伝える立場からのお話を伺いました。次に、個人的な体験として、韓国ご出身で、日本で生活をされている上で感じる、文化的な相違といった点からはTSMをどのように捉えているかお伺いできますか。

TSMの重要な概念の一つで、社会的コンテクストというものがあります。David先生はアメリカという人種問題が大きな争点となっている社会の中で、その社会の構造的な力によりトラウマが生じることにビデオの中で触れています。

私自身、日本に15-16年住んでいるのですが、差別を受けたと感じることが未だにあります。日常の生活の中で、外国人というマイノリティの立場として感じたことを共有する機会はあまりなく、もやもやとした気持ちを抱えていました。ときには、日本人のようになれない自分に対して、日本人と同じようにならなければ、と厳しく接することもありました。

しかし、TSMの学びや様々な体験を通じ、日本人と同じになる必要はなく、自分らしい形で日本の人々と共生すればよいのだと感じられるようになりました。そうして、いまでは、日本に住む外国人をサポートしたり、韓国人の皆さんと交流する機会を持つようにしたりしています。

―――そのような場に参加することで、どのようなことを感じていますか。

TSMの学びの中で、「帰属意識」という概念がでてきます。私は、先程言ったようなグループに自分自身が参加して帰属意識を感じ、その土台の上に、他の人が帰属意識を持つサポートができると思うようになりました。

私の場合であれば、韓国の方と一緒にいるとか、家族と一緒にいるとか、自分の所属しうるグループがいくつかあって、そのそれぞれに帰属意識を感じ、それが積み重なることで、自分の中に全体としての帰属意識が生まれるように感じています。

―――TSMでいう「帰属意識」は、グループに受け入れられているという感覚、ここにいても良い、という感覚ですね。

この「帰属意識」は、TSMででてくる他の概念である「レジリエンス」や「コンパッション」とも深くつながっていると思います。帰属意識により、自分の内側がサポートされれば、それがレジリエンスにもなるし、コンパッションがそこから生まれても来る。

私は、スクールカウンセラーとして、学校に来ることが難しい子どもたちや、それに関わりご両親、先生方と接する機会があります。そういった子どもたちは、学校が自分の身方に感じられない、と思っています。そういった子どもに、自分が属して良い、サポートされている場、としての帰属意識を提供する必要があると思います。こういった視点は、TSMを通じて改めて学んだ点です。

―――個人の抱えるトラウマと社会構造の関係について、今の時点でどのように感じられていますか。

個人が、トラウマを感じた時、「なぜこんなことが起きたのか」と、自分に非があるかのような問いかけをすることがあります。

ただ、トラウマという体験は、必ずしも個人の責任で生じたものではなく、社会自体が生み出すこともありえます。社会構造が生み出すトラウマであれば、社会のみんなが考えるべき宿題です。

また、なぜ起きたか、の前に、そこに起きていることが何であるのか、を共通の理解にすることも大事だと思います。なぜを追求し、それをどう改善するかも大事なのですが、まず何が起きているかを認識、100%でなくても理解しようとする努力をする、その姿勢が必要だと思います。
そのことが、トラウマを完全治癒させることにはならなくても、そのサポートにはなるように感じます。

David先生もおっしゃっていたように、多くの人が心的外傷ストレスを体験していると思われますが、その体験のあとに、自分が他者から理解されないと感じれば、それがその体験を、心の傷としてより深く残す方向に作用するのではないかと思います。

例えば、性的な被害にあった時に、そんな格好をしていたあなたが悪い、と言われれば、被害者であるにも関わらず自分を許せず否定するような心境になります。そうすれば、誰からも受け入れられないと感じ、安心を感じることが出来なくなります。

―――帰属意識が生まれる場を作るとは、そこに傷ついている人がいることに気づき、完全でなくてもそれを理解しようとすることであり、その事によって、傷ついた人が癒やされていくプロセスに進む、ということですね。

そういうことだと思います。完璧にはできなくても、理解をしようとする態度が大事だと思います。そうして、自分が理解しようとする気持ちになれば、それが他の参加者の人にも伝わり、そこから相互理解の雰囲気がグループに広がってくるのだと思います。

マインドフルネスのクラスを行う上では、講師と参加者という立場はありますが、これは講師が参加者に教えるという上下関係ではなく、同じ目線で実践を行っていくものです。

その際に、講師がグループに帰属意識を確保したいと思う気持ちが場の雰囲気を作り、ひいては、それによって講師自身も安心する場ができる、ということだと思います。

―――このTSMの13ヶ月コースでは、動画を見た上で、グループで一緒に学ぶというスタイルが取られました。グループで学ぶということはどのような意味がありましたか。

まず、動画で見た内容について、様々な職業の人たちと話すことになったので、価値観が広がりました。また、日常生活の中で、文化や差別の話をする機会も無いのですが、それを共有することで見えてくることもありました。私のピアグループには、ドイツ在住の日本人の方もいたので、国は違っても、異文化で暮らすという体験を共有することもできました。

―――今後、マインドフルネスを伝える文脈でトラウマに配慮する、ということがどのように社会に捉えられると良いとお考えですか。

まず、マインドフルネスを実践する場には、トラウマに配慮が必要な人がいる、ということをみんなが認識することが当たり前になってほしいと思います。トラウマへの配慮は、いまでは、イギリスやアメリカのマインドフルネスのトレーニングでは、当たり前に織り込まれているテーマです。私がOxfordでトレーニングを受けた際にも、David先生の本を勧められました。

心理学を学んだ方にはトラウマというテーマは馴染みがあるかと思いますが、マインドフルネスが広がるにつれて、さまざまなバックグラウンドを持つ方もマインドフルネスを伝える立場になってきます。そこでは自分自身の経験を元にマインドフルネスのベネフィットだけを語るということも起こりうるのですが、同時に、マインドフルネスを伝えるすべての人がリスクを理解していることも必要だと思います。

そうでなければ、実際にマインドフルネスを提供して、受講者の方が傷つき、それにより講師も受講者もどうちらもショックを受けるということが起こりかねません。
マインドフルネスを伝える方には、David先生の本は日本語もでているので、本だけでも読んでみることをお勧めしたいと思います。

―――まずはそのような問題があるということを知ることが入り口ですね。本日はありがとうございした。


より深く学びたい方は・・・

書籍
トラウマセンシティブ・マインドフルネスの基礎がわかる1冊です。

コミュニティで学ぶトラウマセンシティブ・マインドフルネス13ヶ月コース

David氏やゲスト講師の動画講義を見ながら、グループで学ぶ13ヶ月のコースです。

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International Mindfulness Center Japan
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