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Willem Kuyken博士インタビュー(Part2/3)

Oxford Mindfulness Center長であるWillem Kuyken博士への、Amir Imani氏によるインタビュー(Part2/3)です。
※なお、下記はInternational Mindfulness Center Japan担当者が概訳したものであり、内容の詳細に不正確な部分があり得ることをあらかじめご了解の上、ご覧ください。

1/3からの続き

マインドフルネスは、様々な理由でとても説得力があり興味深い治療介入であることがわかりました。

実際にマインドフルネスを教えている立場から言うと、自らの拠り所になることの一つは、自分自身のマインドフルネス実践の経験です。マインドフルネスストレス低減法(MBSR)やマインドフルネス認知療法(MBCT)を教えるために、講師は自分自身の心を理解し、その心のあり方を変えるために、マインドフルネスの練習をする必要があります。私は、このことを一種の科学的なプロセスとして考えています。座って瞑想を行い、リトリートに参加することで、経験に基づいて自らの心を眺め、自分の心の地図を読み、自分の心を苦しみから喜びに変えるものが何であるのかを知ります。そこで、MBCTやそのほかのマインドフルネスベースのプログラムがどのように効果があるかということですが、これに対する最初の答えは、自分自身の練習を通じて、マインドフルネスのトレーニングがどのように心のあり方を変える手助けとなるかということを体験から理解する、ということです。

MBCTが特に依拠しているもう一つの理論は、心理学と認知科学であり、これは2つのレベルによります。最初のレベルは、とても個別具体的な鬱のレベルで、MBCTはそのために開発されたものです。そして、理論的には、MBCTにおいて鬱はシンプルでかつ複雑なものとして表現されます。つまりこういうことです。長く鬱を患っている人にとって、ちょっとしたネガティブな考えや感情でさえ、すぐにネガティブな思考の反芻やネガティブな記憶を燃え上がらせるきっかけになります。そして、ネガティブな考えや感情の下方スパイラルを引き起こします。同時に、私たちの心はどのように作用し、どのように苦痛により影響を受けるかといったような、心についての理解をすることです。

私が心の普遍的なメカニズムの領域で最も説得力があり理解しやすいと感じたことは、刺激と応答の間にはスペースがあるということです。そしてそのスペースには、選択する力と自由があります。そのスペースには、異なる応答をする力があります。このことは小さいことかもしれませんが、同時にとても大きな事かもしれません。しかし、同じプロセスです。例えば痒みがあるという場合、普通にまず行うことは掻くことですが、そこには、かゆいという感覚と掻きたいという衝動が生じており、その間にはスペースがあります。多くの場合、ただ反射的に反応して普通の状態に戻ることは問題にはなりません。しかし、もし私が乾癬を患っていて、その部分をかくことによって、乾癬を悪化させてしまうという場合を想像してみましょう。かかない、ということを知ることは違う選択であり、違う方法で反応、または応答することです。ここで挙げた例は些細なことですが、鬱や慢性的な痛みについてであれば話が変わってきます。より影響のある具体例としては、鬱に対する思考があります。「私はダメだ、私は失敗している」といった具合です。慢性的な痛みを体験している人、激痛を感じる人には、「この痛みと永遠に付き合っていけるだろうか」ということも考えも浮かぶかもしれません。そうすると、ものごとへの応答は、負のスパイラルになるかもしれません。その思考と対応の間のスペースにあって、違うように応答する選択が可能です。「ああ、いま起きているネガティブな考えは一つの反応なのだな」といったようにです。

もう一度画面を共有します。ここまでマインドフルネスやMBCTとは何かということをエビデンスや変化のセオリーを交えて話してきましたが、次にお話するのは、MBCTがどのように発展してきたか、ということです。

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前回のウェビナーでJon Kabat-Jinnが話をしたかわかりませんが、彼の言葉を借りると、マインドフルネスとマインドフルネスのトレーニングは、山から流れ落ちてくる水のようなものです。それは数千年前から続く理解であり英知であり、一連のトレーニングです。このスライドにあるように、Jonは、1980年代の末から1990年代初頭にかけての時期に、2つのものを合流させました。一つは、教育と医学。そして、もう一方はJoseph GoldsteinやJack Kornfieldといった人たちが著作の中で述べたところの「智慧の心の探索」である一連の瞑想的な伝統です。

それから15年下流に下ったところにZindel Siegel、Mark Williams、John Teasdaleが、次の革命的な物語を著しました。彼らが行ったことは、認知神経科学と認知行動療法の知識の豊かさを描き出し、それをマインドフルネス認知療法に結実させたことです。マインドフルネスプログラムの核となる部分は、MBCTにしっかりと受け継がれています。そのうえで加えられたものは、理論的な理解と、認知行動療法のテクニックです。ここ10年ほどの間は、とても興味深く、MBCTが育った期間でした。マインドフルネス認知療法は微修正が加えられながら、異なるグループの人々や異なる文脈の中で利用されてきました。理論的なメカニズムのところを少し変えたり、練習内容を少し変えたりといった具合です。例えば、MBCTが自殺願望のある人や健康上の不安を抱える人向けに応用された事例もあります。

先ほどマインドフルネスについてお話ししたことは、心についての普遍的な知見を前提としたものです。マインドフルネスを主流にするために、いくらか手を加える必要がありました。例えば、Mark WilliamsとDany Panmanが書いた”Finding Peace in Frantic World”(大変な世界の中で心の平和を見つけること)という本があります。これは、この大変な世界のなかでよりよく生きていくことをマインドフルネスやそのトレーニングがどのように助けになってくれるかについて書かれています。

もう一つ応用例を挙げて終わりましょう。Wellcome Trustの支援を受けて7年間ある研究を行いました。それはマインドフルネスを学校で若い人たちに教えることです。これははとても熟練を要する応用事例でした。子供たちにマインドフルネスのトレーニングに参加してもらい、鬱の発生を防ぐためのスキルを身に着けてもらいました。この中で、私たちは11~14歳の子供たちに学校でマインドフルネスを教えました。その時の問題意識は、子供たちみんなを、鬱のリスクを抱えている状態から、全体的にレジリエンスを備えた元気な状態にシフトさせることができるかということです。そして、子供たちに、注意をうまく向けることを教えて鬱が起きないように気づく鋭敏さを人生の中で保っておくことができるようにすることができるか、ということです。

それでは、先ほどお話しした男性の話で話を終わりにしたいと思います。彼は自分についての話を皆さんに紹介しても構わないと言ってくれました。彼は、MBCTのクラスを受講した後、ほぼ、鬱になることはなく、抗うつ薬も服用しなくてよくなりました。彼は、「もし自分が大人になって学んだことを子供のころに学んでいたら、自分の人生のあらゆる種類の問題は防ぐことができたかもしれません」と言いました。MBCTのクラスが終わって数年してから、骨肉腫を患った旨、彼からメールがきました。そして、そのやりとりの中で、マインドフルネスの実践を、いまは鬱のためにではなく、骨肉腫の痛みやその治療に伴う様々な困難にために用いていることを教えてくれました。

彼がこの世を去る数カ月前、彼はメールで「自分はもう長くはないことがわかっています。マインドフルネスのおかげで、自分は自分の家族や自分をお世話してくれる方々に対して、コンパッション(やさしさ、いたわりの気持ち)を持つことができるようになりました」ということを書いてきました。
私は、鬱により引き起こされる悲惨な出来事がない世界を目指して、自分の仕事に取り組んできました。科学が発達してきていること、先ほどの彼のような事例があること、こういったことから、このことは達成可能な目標だと思っています。50年前ならちょっとした心臓の不具合でも命が助からなかったのが今ではそうではないように、私の望みは、これから50年後、私たちが心やそのトレーニング方法について理解を深めることで、鬱やその他の精神疾患に苦しむ人がいなくなることです。

どうも有難うございました。

3/3へ続く

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募集中のクラス

◎MBCTマインドフルネス認知療法 2020年8月22日開講

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開講日:2020年8月22日〜10月17日 毎週土曜日19:45-22:15
講師:井上清子(MBCT Certified Teacher / University of California San Diego)
場所:オンラインZoom
詳細はこちらより

◎MBCL(コンパッションのマインドフルネス) 2020年9月14日

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開講日:2020年9月14日〜11月9日 毎週月曜日19:45-22:15
講師:井上清子(MBCL Certified Teacher)
場所:オンラインZoom
詳細はこちらより

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