見出し画像

Willem Kuyken博士インタビュー(Part3/3)

Oxford Mindfulness Center長であるWillem Kuyken博士への、Amir Imani氏によるインタビュー(Part3/3)です。
※なお、下記はInternational Mindfulness Center Japan担当者が概訳したものであり、内容の詳細に不正確な部分があり得ることをあらかじめご了解の上、ご覧ください。

(2/3からの続き

Amir:Kuykey博士、どうもありがとうございました。ただ静かに座るということについて、そのようにエビデンスによって効果が示されているというのはとても驚くべきことです。先日、あなたのビデオを拝見したところ、その中でこういうことをおっしゃっていました。静かさの中に座ることが、最高の静けさであると。そうすることは問いを投げかけることです。評価を加えず、優しさを持って、受容の心で座り、答えが出てくるのを待ちます。あなたがおっしゃったことは正しいことと思わざるを得ません。

そうでなければ、マインドフルネスが非常に多くの医療施設やオックスフォードのような大学で研究の対象となったり治療に用いられたりすることは無いでしょう。

それでは、わがままを言わせていただいて、私自身から最初の質問をさせていただきたいと思います。というのも、あなたこそが、科学者として、また実践に取り組んでいる人として、これから申し上げる質問について、回答いただくのに最も適した方だと思うからです。

先程、マインドフルネスについての発見は、2つのルートを通じてやってきたとおっしゃいました。一つは経験科学、もう一つは自分自身の練習ということでした。個人的には、ご自身のマインドフルネスの実践から生じているあなたの声を聞くことがとても重要なことだと思っています。科学的に証明されているかどうかは別にして、私達のところへやってくる患者さんたちが、ただ座るというシンプルな行為を通じて、自分が大きく変わるということが起きることについて、一体何が起こっているとお感じですか。

Kuyken:私の仮説についてお話したいと思いますが、これを考えるにあたって、John TeasdaleとMichael Chaskalsonに多くの助けを得ています。
この変革のプロセスには3つのフェーズがあると思っています。

最初のフェーズは、自らの注意を安定させるステップです。ここでは、注意や気づきを向ける力は、自らの意思に基づくコントロールでありトレーニングすることができるものであるということがわかってきます。

2つ目のフェーズは、一旦注意と気づきを安定させた後、新しいあり方にオープンな気持ちでのぞみ、一歩引いて眺めることを知ることです。すみません、いい直しさせてください。注意をいつもと違うように自らの体験に向け、その中に知の豊かさがあることを認識します。ここでいう知とは、概念的な知識ではなく、より体験的な知です。
ちょっとやってみましょう。マットの上に座り、注意を安定させます。自分を悩ませている問題が浮かんでくるかもしれません。なぜあの人といつも口論になるのだろうか、なぜ私のやることリストは常に一杯なのだろうか、なぜあの人は私をのけ者にしようとするのだろうか、といったように。これは問題を認知的に解決しようとしていると状態です。
ここで、それらを一旦横に置いて、今座っているここに意識を向けてください。ただ注意を安定させ、そのときに生じる体験と共にあり、何が起こるかを眺めます。これは異なるあり方で存在し、知る、ということです。池の水の比喩が用いられることもあります。思考は水中の塵や藻を生みます。そして、先程のような態度をとるということは、それらを池の底にそのまま沈殿させる方法です。そうすると水が透明になり、きれいに見えるようになります。

そして3つめは、視点が変わることです。これはとてもシンプルであり、同時に信じられないほど深みのあるものです。私はダメなやつだ、価値のない人間だ、この痛みは永遠に続くんじゃないだろうか、といったことは認知上の出来事です。
自分の心が想像や現実の世界をみて体験することは、実は過ぎ去っていく現象です。この瞬間から、次の瞬間へ、そしてまた次の瞬間へ。終わることなく状況が展開していき、変化していきます。これが練習を通じて徐々に起こってくる視点のシフトです。

ですから、これら3つの変化、つまり一つ目は、注意、二つ目は、違う方法で知りかつ存在すること、三つめは視点の変化または脱中心化、これがご質問への回答です。科学者であれ一般の人であれ、これは実際に自分自身で体験してみるのが良いと思います。

Amir:ありがとうございます。先月のJon(Jon Kabat-Zinn博士)の話を思い出しました。受講者から、Jonの部屋にかかっている書の文字はどのような意味か、という質問があった際に、Jonはブレークスルーする(突破する)ということについて説明をしてくれました。いま博士がおっしゃったのは、自らの破滅への鬱のサイクルを打ち破って抜け出ることのように感じました。ありがとうございました。

続けて質問をさせていただければと思います。
「私はマインドフルネスの練習を始めて、より敏感になりました。これまで気にならなかったことでさえ気になるようになり、以前より悲しみや怒りを感じるようになりました。これによって、友人との関係に影響がでてきました。とても親しい友人との関係に、ネガティブな影響が生じています。私は正しい方向に進んでいるのでしょうか。どうすればもっと柔軟になれるのでしょうか。」という質問です。

Kuyken:差支えなければご質問者の名前をお聞かせいただけますか。

Amir:ファリバさんです。

Kuyken:ファリバさん、ご質問ありがとうございます。
最初に申し上げたいことは、このような質問をするための信頼できる先生がいることがとても重要だということです。そしてもう一つ言いたいことは、一番大切な先生は自分自身であるということです。自分という先生のもとで、私たちは、自らの練習を見て、その結果によって、修正を加えていきます。

ご質問者のことをよく知らないので、個別具体的なことではなくここでは一般的なことをお話しします。
気づきを高め、マインドフルになればなるほど、間違いなく敏感さが増し、自分の感情や思考に適応していくようになります。ですから、思い出していただきたいのですが、マインドフルネスの定義の話をした際に、「マインドフルな態度が鍵になります」ということを言いました。これが重要なキーになる考え方です。こういう言われ方をすることもあります。注意は一つの要素であり、もう一方の要素が「マインドフルな態度」である、ということです。これは鳥が、注意と気づき、という片一方の羽だけでは飛べないようなものです。

飛ぶためにはマインドフルな態度も持ち合わせていなければなりません。そして、悲しみや怒りとあるときにカギになるのは、friendliness(友情、やさしさ)とcompassion(いたわりの気持ち)です。私は、悲しみや怒りに近づくときは、心の中でやさしさの気持ちとともにあるように心がけています。

やあ、こんにちは、親しい友よ、と。compassion、すなわちいたわりの心を持って、皆同じ人間であるという気持ちをもって、この痛みが和らぎますようにという気持ちを持って。ですから、ファリバさん、悲しみや怒りを、自分の親しい友人のように扱ってみてください。まずは少しずつ始めて、だんだんと自信と力をつけていってください。最初から大きな悲しみを扱うのでなく、小さな悲しみから始めてみてください。そして、それは徐々に身に着けることのできることのできる力であり、スキルです。

先ほどAmirの質問の際に答えたことを思い出してください。自分自身の体験がガイドになってくれるという話をしました。もしマインドフルネスの練習が、より自動反応的で人間関係の悪化を招いているのであれば、自分自身が安定するところに一度下がって、何が起きているのかを眺めてみてください。そして、少しの間、やさしさを持って悲しみや怒りと向き合ってみてください。

Amir:次の質問は、スラーさんからの質問です。マインドフルネスは、近代社会のどのようなことに挑戦しようとしているのでしょうか。彼の質問は、マインドフルネスが変革しようとしていることは、世界のどのような課題なのでしょうか、ということです。

Kuyken:ありがとうございます。とてもすばらしい質問です。これには100通りの回答方法があります。それぞれ1週間くらい話し続けられる程のものですが、ここでは2つだけ回答したいと思います。

まず一つ目。世界が発展し、技術が進歩し、見通しが変わるにつれ、多くに人にとって現実の世界はやや生きづらくなったのではないでしょうか。子供も大人も、絶え間なく、学校や職場で目標を達成するため苦労しています。私たちの心の概念的な部分や社会システムのモチベーションに関する事柄が、世界や私たちを駆り立て、Amirが先ほど言ったように、私たちはただ静かに存在し、自らの体験を経験的に知るということができなくなっています。
これが見えますか。振ると水中に塵が舞い起こります。

画像1

そして、静かに置いておくと、塵は底に沈み、水は透明になります。マインドフルネスは心に対して同じことを行います。マインドフルネスは、私たちが心を学び、クリアにすることで、物事を明確に見ることができるようなる手助けになります。

オックスフォードマインドフルネスセンターは、マインドフルネスの練習のための集まりを始めようとしています。これを通じてより生産的になることができ、この集まりが自分たちの価値観に合ったものにしたいと思っています。社会の様々なレベルで、マインドフルネスを用いた集まりが開かれると、議論や決定の質が高まると確信しています。

それから、最後に一つだけ見解を申し上げて終わりにしたいと思います。Jon Kabat-Zinn博士につながる話だと思いますが、いま、世の中は仮想現実や人工知能に信じられないほど興味を寄せています。そして、私たちはかろうじて、実際の人間の知性についての理解のほんの表面的な部分をかき集めているにすぎません。

Amir:Willem、ありがとうございます。もう少し質問にお答えになりますか?

Kuyken:そうですね、最後にもう一つお答えしましょうか。質問を選んでいただけますか。

Amir:匿名の出席者からです。「思考は思考にすぎず、現実ではない、という考え方は、現実の否定につながらないのでしょうか。」

Kuyken:これはよく質問されることで、とても重要な質問です。これには二つの答え方があります。一つは哲学的な問いとして、もう一つはマインドフルネスとしての問いとして。ここではマインドフルネスに関する問いとしてのみ回答をします。まず、マインドフルネスは、あなたの言うところの「現実」、についての私たちの理解を、より良いものにする助けになるということです。これは、まさに否定するというのとは反対のことです。

ドアの下から煙が入ってきたと想像してみてください。そして、外で何かが燃えている音がします。これは思考ではありません。私は窓を開けてすぐに外に飛び出します。ですから、もし、私は安全ではない、そして煙がドアの下から入ってきた、という考えが浮かんだら、まずやることは、その場から逃げて自分の安全を確保することです。これは疑う余地がありません。

しかし、この50年間私たちが取り組んできた主な精神病理学と精神疾患は、これらの精神疾患のそれぞれを、思考のタイプをカテゴリー分けしてきたのです。不安障害のなかの社会不安について例を挙げてみましょう。このような心の状態の典型的特徴は、人々が自分を評価している、自分に足りないところがあると思われている、といったことで、自分で自分自身を不安にさせています。

私がこういった形式で150名ほどの前で講演をするとした場合、どんな時でも、あくびをしたり眠たそうにしたりしている人がいるものです。これを先ほどの社会不安のモデルで考えると、眠ったり眠たそうにしたりしている人たちに注意がひきつけられ、私の頭の中で自分自身に関する物語が作られてしまいます。

マインドフルネスや認知行動療法がやろうとしていることは、そのプロセスをひもとき、違ったありかたで応答することができるようになることをサポートすることです。社会不安のある状態では、心がくじけ、ものごとから背を向け、心を閉ざします。マインドフルな場合は、心を開き、物事に向き合い、応答します。あの人は眠たい、気が散っている、退屈している、といったことは、本当はわからないことです。ですから、この意味で、思考は、あなたの言葉でいうところの「現実」、かもしれないし、そうでないかもしれません。いずれにせよ、私は、選択が可能なスペースを刺激と反応の間に創っています。
ここでファリバさんからの質問に戻ると、マインドフルネスの練習で大事なことは、安定し注意を保つことです。しかし、同時に、friendliness(友情、やさしさ)とcompassion(いたわりの気持ち)も必要であり、また、自らの体験に対してこれまでと違う関わり方をする、ということです。

私が鬱について取り組んできたことや、鬱が引き起こす悲惨さのない世界に向けた希望、鬱が引き起こす悲惨さ、マインドフルネスがそれらにとって希望になりうること、人々がいたわりや物事への関りについてより理解を深めて生きていける世界、そのようなことについてお話しさせていただきました。

Amir:ありがとうございました。つい先日、古くからの友人と道ですれ違いました。私は急いでいたのですが、気になったので立ち止まって話してみると、彼は娘が鬱を患っていて、とても心を痛めていました。そして、どうすればよいのかわからず、絶望的な気分になっていました。私は、今日あなたとお話しすることになっていたので、MBCTのことを思い出して、試してみたらどうかと勧めてみました。効果があるとされているからと。そうすると彼の顔はパッと明るくなりました。私はWillemがこのような仕事に取り組んでくれていることをとても有難く思っています。私にとっても、私の家族やコミュニティにとっても、大きな意味のある仕事です。

これで本日のセッションを終わりにしたいと思います。本日ご参加いだいた60名以上の皆さん、病院のマネジメントチームの皆さんのおかげで本日のセッションを行うことができました。次回お話しいただくのはSaki Sntorelli博士です。
Willem、いつかぜひイランにもお越しください。

Kuyken:ありがとうございました。またご一緒できる機会があると嬉しく思います。今日はお招きいただきありがとうございました。良い一日をお過ごしください。

(終わり)

------

募集中のプログラム

◎MBCT(マインドフルネス認知療法) 2020年8月22日

画像2

開講日:2020年8月22日〜10月17日 毎週土曜日19:45-22:15
講師:井上清子(MBCT Certified Teacher / University of California San Diego)
場所:オンラインZoom
詳細はこちらより

◎MBCL(コンパッションのマインドフルネス) 2020年9月14日

画像3

開講日:2020年9月14日〜11月9日 毎週月曜日19:45-22:15
講師:井上清子(MBCL Certified Teacher)
場所:オンラインZoom
詳細はこちらより

◎マインドフルネス・オンライン・スタディグループ

画像4

経験豊かなマインドフルネス講師を招いてのオンラインのスタディグループです。8月はErik博士にご登壇いただきます。
日時:8月6日、20日 いずれも20:00-22:00
場所:オンラインズーム
詳細はこちらより


最後までご覧いただきありがとうございます。一緒にマインドフルネスを深めていきましょう。お気軽にご連絡下さい!