『モノクローム』
他人(ひと)に振り回されるとき、心の内はざわざわと音を立てる。
自分が他人を振り回してしまうときも、何だか落ち着かない。
どちらのときも、わたしの気持ちは波立ってしまう。
言葉の波が一気に押し寄せると、わたしの心は迷い、流されそうになる。
波に揉まれ、手足をばたつかせながら、何とかせねばと懸命に判断を急いでも、
答えはすぐには見つからず、波は一層激しくなるばかり。
少しで良いから、考える時間がほしい。
一瞬だけでも、モノクロ写真のように世界が止まってくれたらいいのに──!
大きな波がわたしを丸ごと飲み込もうとした瞬間、はっと気付く。
わたしは、「一人で何とかできる」と頭のどこかで頑(かたく)なに思っているのではないか。
まるで、「かなづち」なのに波に逆らって泳ぐように、必死で何かに抗(あらが)っているのではないか、と。
──例えば、ボートがあったら、何か変わるだろうか。
手を伸ばせば、誰かがボートを貸してくれることがあるかもしれない。
もしボートに乗れたとしても、急に天候が変わるはずもなく、時化(しけ)の波を越えて行かなければならないだろう。
けれど、そこから見えるものは、絶え間なくわたしを飲み込もうとする波ではなく、空や海の先の景色のはずだ。
その時、わたしはきっと、苦しいまま時間を止めたモノクロームの世界ではなく、カラー動画の世界にいる。
ボートの上から太陽や流れる雲を眺め、動く波の様子を観察してみよう。
再び大きな波がやって来ても、簡単には流されないように。
海の先を見つめるわたしは、何かに抗っていた手にオールをしっかりと握って、前へ進もうとするのだ。
(完)
(2021.9.8修正)
【修正前】
他人(ひと)に振り回されるのも、
ざわざわと心の内が波立つけれど、
他人を振り回すのも、落ち着かない。
どちらの場合も、気持ちが揺さぶられてしまう。
自分の芯を持って、揺らがないことがきっと大事。
でも、芯が強いことは時に、「頑固」になる。
イレギュラーなことに対応するには、
頭を柔らかくして、心を遊ばせる幅を持つことがきっと大事。
情報の波が一気に押し寄せて、流されそうになる。
波に揉まれ、手足をばたつかせ、何とかせねばと判断を急ぐ。
けれど、どうすればいいのかが分からない。
考える時間がほしい。
モノクロ写真のように、一瞬で良いから、
少しで良いから、世界が止まってくれたらいいのに――。
波に飲まれそうになって、はっと気付く。
「自分で何とかできる。」と、頭のどこかで頑なに思っているのではないかと。
押し寄せる波に、素手で立ち向かおうとしているのか。
はたまた、泳ぎが下手なのに、流れに逆らって泳ごうとしているのか。
自分自身が、何かに抗っているようだ。
――ボートを用意して波に乗ってみたら、
何かが変わるだろうか。
もしかしたら、他人がボートを貸してくれることがあるかもしれない。
揺さぶられ方は、その時の波やボートによって違うだろう。
けれど、そこから見える景色は、
自分を飲み込む波ではないはずだ。
見えるのは、空であり、海の先だろう。
きっと、時間の止まったモノクロームの世界ではなく、カラー動画の世界にいる。
動く景色と時間の中で、波に揺られながら、
進もうとするのだ。
(完)
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