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短編小説作品集2

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短編小説第2集。身近な日常にある幸せ、ちょっと不思議な物語。心に響く作品をお届けします。
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記事一覧

小説『泡沫(うたかた)の初恋』(全文/約7200文字)

 一.椿 君と初めて会ったのは、僕が齢十二を迎えた年だった。    父さまに連れられて、日…

連載小説『泡沫の初恋』 二.千草(は)(最終回)

 八日後の夜、婚礼の儀はひっそりと行われる。  つい先日、伊沢家より「婚礼も祝言も、でき…

連載小説『泡沫の初恋』 二.千草(ろ)

 目を覚ましたのは、その翌日の夜のことだった。  尾花家は、突然駆け落ちした花嫁を必死で…

連載小説『泡沫の初恋』 二.千草(い)

 二.千草  約束の暮六ツをとっくに過ぎても、「椿」と名乗った男子は現れない。  今日は…

連載小説『泡沫の初恋』 一.椿(ろ)

 屋敷へ到着すると、父さまの帰りを待ちわびていた番頭がやって来て、日本橋での商いについて…

【新連載】小説『泡沫(うたかた)の初恋』 一.椿(い)

 一.椿  君と初めて会ったのは、僕が齢十二を迎えた年だった。    父さまに連れられて、…

短編小説『半透明な熱帯魚たち』 Ⅲ.陽花(Haruka)(2)

(2) 「皆、いつも番組を聴きに来てくれてありがとう。実はね、今日は皆に話があるの。昨日、『お悩み相談』企画をしたけど、実は私にも悩みがあるんだ。聞いてもらえるかな?」  遠慮がちに話し出すと、リスナーから次々とコメントが届いた。 Nana「なに、なに? 全然聞くよ!」 Masa「もちろん! なんでも話して」 Riko「いつも相談聞いてもらってばっかだよね。Harukaの悩みも聞かせてー!」 「皆、ありがとう。今まで話さなかったんだけど、実はね、私にもすごく苦手

短編小説『半透明な熱帯魚たち』 Ⅲ.陽花(Haruka)(3)

(3) Hizuki「Harukaだけに守らせるなんて、やだ。私だって、Harukaを守りたい。しつこい…

短編小説『半透明な熱帯魚たち』 Ⅲ.陽花(Haruka)(4)(最終話)

(4)  決して話すことが得意でないHizukiとSeinaが丁寧に伝えてくれた思い。  それは、…

短編小説『半透明な熱帯魚たち』 Ⅲ.陽花(Haruka)(1)

Ⅲ. 陽花(Haruka) (1) 「さあ、今日も午後4時になりましたー! Harukaの部屋へ、今日…

短編小説『半透明な熱帯魚たち』Ⅱ.星那(Seina)

Ⅱ.星那(Seina)  星那は、いつも微笑んでいる。  高校でも、バイト先のコンビニのレジでも…

短編小説『半透明な熱帯魚たち』Ⅰ.燈月(Hizuki)

☆この作品は、一年少し前に書いてずっと眠らせていました。  いじめに触れる内容を含みます…

【縦スク文庫】「虹の彼方に」

🌟ミムコさんの【縦スク文庫】のテンプレートをお借りして、  短いものがたりを書いてみまし…

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【短編小説】桜の花びらの下には(4)最終回

 それは、「河合宗次郎さんは」で書き始めなかった唯一の原稿用紙だった。 『私は、河合宗次郎さんを今でも愛しています』。  そこに書かれた私の言葉は、あの人の手紙に応えるように私の元にやって来た。 「私たち、毎年同じ桜の花を見て、毎日同じ珈琲を飲んでいれば、それだけでふたりの心がひとつに溶け合って、陳腐な言葉で気持ちを確かめ合う必要なんてないと思っていたけれど、やっぱり言葉は必要だったのかもしれないわ。あなたに、ちゃんと言葉で伝えていればよかった」 『大丈夫だよ。ちゃん