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【文学フリマ東京39/ せ-04】おしながき(2024/12/1/sun)




鳩のヒトの小説屋<波間文庫:せ-04>です

湊乃はと・星結莉緒います
スペース:西3・4ホール せ-04(入ってすぐ!)
開催日時:2024 / 12 / 11 / sun. 12:00〜17:00

【お品書き】 旧字体使用文庫(鳩)と、現代が舞台の小説2種(星結)です。

新刊

失楽園

表題作「失楽園」収録。
初刷 2024/12/11 / 文庫判(A6) / 本文138ページ / ¥800

あらすじ
文明を失った世界への旅立ち。
誰かの気配をひたすらに探す記録。

瓦礫と樹木だけの世界。
鳥も昆虫も動物もいないこの場所で、人間は私一人。
ともかく暮らしをしていれば、まだ見ぬ誰かにどこかで出会すんだろう。

いつかの記憶と、今ここの記録と。
これをあなたが読んでいるのならば、いつか私とどこかで出会ってほしい。

……ほら、また音楽が聞こえる。
あなたもどこかでこれを聞いている?

いつともどこともわからない世界。
誰かを探しながら、文明の頃を懐古する。
ゆるっとふんわりなんとなくSF。


冒頭
   再啓
 炭だ。ほんとうに書けるものなんだな、これは木炭で書いています。
 ええいままよとここまで来たが、案外生きていけるらしい。あらかたこの辺りも見て回ったし、誰もいないようなので、火を崩して少しぼんやりしていたら、この炭を見つけた。冷めた端の方を手にとって、そこいらに散らかっているコンクリート片に線を引いてみれば、思った通りの木炭の書き心地なので、今後はこうして色々なところに記録を残そうと思う。
 思えば昔、画用木炭の作り方を何かで覚えたことがある。その当時はそんなこと、雑学収集の一端で、へえと思ったのみ。作ってみたことはなかったけれど。ようやくそんな、遊びの知識が役に立つ時が来たようだ。次に火を熾すときに作ってみようと思う。この木炭よりはもう少し精度が良くなるかもしれないし、そうでもないかもしれない。でもまあ、必要なものはどこかしらに転がっているだろうから、なんとでもなるだろう。ここはもう数年来、知っての通りがらくたのみ、でたらめの世界だから、なんでも揃っているし、何もないのだ。
 日が落ちるのが早くなってきた。それに異様に埃っぽい。前の季節はこんなだったっけ? 一応、四季というものは残っているから、私が今、だいたいどのくらいの月に生きているのか、またどれだけ月日が経ったのかを推測することはできる。……しかしこんな生活の中で、一体幾年を生きてきたのかは、正確なところはわからないな。やっぱり記録をしておけば良かったんだ。少し前までそんな余裕もなく、筆記具も今、新たに手に入ったばかりではあるから、それは不可能な話であったのは、確かなのだが。
 次はできれば紙が欲しい。廃墟と樹木のみの地上で、紙になりそうな繊維を見つけること自体は容易かもしれないが、紙を漉くために叩いたりなんたり……そんな手間をかけられるほどの細やかさが私にはない。良い感じに落ちていたりすまいかと、辺りをちょっと見てみたが、もちろんあんなぺらぺらの、繊細なものが、この世界に残っているわけもなかった。
 だって、あれだけ頑強に見えた建築物すらも、植物の前に粉々なのだ。頽れた建築物に巻きついていく樹木の強大さ。もともとそれを破壊したのがなんだったのか、今となってはわかったことでもない。建築物だか植物だか、そのものらから記憶を取り出すことができない限りは、人類は永遠に答えを得られないだろう。あなたは、正確なことを覚えているか? 果たしてこれを読む人間がいるのか、わからないが……。
 人の手がなくなれば植物は大きく繁殖すると、知識では知っていたが、よもや本当だったとは。だいたい、私がせっせと貯めてきた無駄な知識が、ここにきて活きてくる暮らしぶりになるとは思わなかった。……いや、活きてはいないか。確認せざるを得ないだけ。もしきちんとそれらを活用できていたのならば、もう少しはマシな生活で、すぐさま誰かを見つけることもできたかもしれない。
 人工物でなく自然のものが、簡単に文明を破壊する。文明を破壊するのは人間でしかないと信じていたのは、人類の最後の傲慢だったなと、今となっては思う。自然はしたたかだ。人間が少なくなった途端に、世界はこの様。地上は樹木の楽園となった。
 しかしこっちの方まで来てみれば、一人くらい誰かに出会すだろうと思っていたけれど、全く当てが外れてしまった。道中にもこの辺りにも、誰一人いない。もっと移動すれば、誰かしら一人くらいはいるものと思うけれど……。だがまあともかく、平和ではあることだ。他者によって脅かされる心配や恐怖感から、幾年ぶりに解放された。おかげでこんな記録を、書きにくく読みにくい筆記具でも書こうとすら思えている。まったく以前とは比べものにならないほど、静けさが心安い。
 ……さてやれるだけ書いてみたけれど、この記録は、一体どのくらい保つのだろう。フィキサチーフがあるわけでもなし、雨ざらし日ざらしで……。

11月30日まで予約受付中(文学フリマ東京39終了後に発送)・完売しなければイベント後通販あります。




既刊

2冊とも残り少ないのでお早めに。

「……と、いう夢を見たのサ。」で終わる、
オムニバス夢日記短編集。

一、幾度も来た、いつも歩くあの道
二、秘境食レポハンターの味噌汁ルポ「やまやま」
三、虫封じと厄除けの神事
四、当てどない街歩きと、舟の仏事
五、行きっぱなしの路面電車
六、絵描きは絵描きを辞めるのか
七、観覧車にぬいぐるみを乗せる仕事、父との散歩
八、前世に龍であった女と、飢饉の話
九、夢の中で夢を思い切る
十、役割と束縛と安定、恋と自由と不安定
文学フリマ等で無料配布として既出の小説(再録)五編・
新規書き下ろし五編。

【収録作品】
夢現つ* / 味噌汁旅行記 / こども流鏑馬 / おふな祭り* / 途中下車* / 生活の記憶 / 遊園地* / 龍の女 / 逝く春 / 待ち人*
*書き下ろし


盗蜜

傍から掠め取る蜜は甘い。
銀座のカフェーで生きる女給の物語。

ある男との心中から生還した廣谷松は、神田榮と名を変えて、カフェーの女給となった。
いつしか榮は、その接客を受けるだけで客が繁栄する〝幸運の女〟として人気となる。
榮は、女一人自活するために必死であったけれど、たったそれだけのことがこんなにも難しい。
松を求めまつわりつく男。
己のために榮を欲する客たち。
そんなら榮は、その猥雑を己のために利用する。
大正初期の東京・銀座。
喧騒のカフェーを舞台に、心中から生まれた榮の人生が動き出す。

冒頭
   吾妻橋心中
 人目を忍んで吾妻橋まで駆けて行った。喉も通らぬ夜御飯をなんとか済ませ、日付を越すのも待ち遠しく、それからまた数時間辛抱強く待って、ようやく家を抜け出す。生温い夜道は季節を違えたようで、走るうちに身体が汗ばんでいく。待った甲斐もあり寝静まった町には、あれだけ煩い春の猫一匹見ることもなく、吾妻橋に辿り着いた時に見つけた人影を、その男と決して疑わないほどであった。
「お松ちゃん」
 その頃、私は松であった。男が私を呼ぶ声を今はもう思い出すこともない。呼ばれる声をそのままに駆け寄ると、男はその当時よく見た、眉を下げた情けない顔をしていた。
「本当に来たんだね」
 何を当たり前のことを、と思ったものだ。来いと言ったから来たのである。来ると約束したから来たのである。私はただ殊勝らしく「うん」と頷いて……、いや、心からただ男に尽くすために頷いた。あの時の松はそうだった。「でもいいの」と一言も尋ねなかったのは、それでも女の意地である。
 男には妻子があり、松は二号とも五号ともいえない女であった。男は女々しいもので、何かあるとすぐに松に(他の女にも)泣きつきに行き、甘言を吐くのが常であり、松はそんな男の頭を胸に抱くことが好きであった。男はそんな中でついに言ったのである、「もういっそ死のう」と。男の声はそれに裏をつけているのを松は分かっていた。だから敢えて言ってやったのだ。「それでは松もいっしょに死にます」と。その言葉に男はさめざめと泣いた。今思えばそれは酒のなせる業だったかしれないけれど、ともかく涙々の中で決めた約束がそれだった。今生ではどうにもならないだろう二人の満足を得るには死ぬしかないと、しかし松は本気で思っていたのだ。しゃくりあげる中でも冷静に頭を回して、仔細を決める。それがその、春の中頃の生温い夜であった。




これが見えたら波間文庫

きてね〜


場所はこのへん。


湊乃はとは普段このへんにいます


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