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【歌舞伎鳩】妹背山婦女庭訓 第二部(初代国立劇場さよなら特別公演 10月歌舞伎公演)

令和5年9月歌舞伎公演『妹背山婦女庭訓』<第二部>
2023年10月4日(水)〜26日(木)
国立劇場


<第一部>の感想はこちら↓




あらすじ

ざっくりとしたあらすじ
序幕 布留の社頭の場「道行恋苧環」
杉酒屋の娘お三輪は隣家に越してきた烏帽子折求女と好い仲に。
互いに苧環を取り交わして夫婦の誓いを交わしたものの、求女の元には夜毎訪ねてくる別の女がいる。
求女は実は烏帽子折に扮した藤原淡海であり、夜毎訪れる女は朝敵蘇我入鹿の妹・橘姫であった。
七夕の夜、ついに求女が橘姫の素性を明かそうと、その後を追って家を出る。それに気づいたお三輪も、求女の後を追っていき、ついに三人鉢合わせて揉み合いに……。

二幕目 三笠山御殿の場
明け方、蘇我入鹿の御殿である三笠山御殿に戻ってきた橘姫。
後を追ってきた求女は、官女たちに迎えられて奥の間に連れられていく。
その後にようやく辿り着いたお三輪。御殿の様子に途方に暮れていると官女たちがきて事情を聞き取り、お三輪が橘姫の恋敵であると悟る。
求女に会わせると言って近づき、散々にお三輪をいじめぬく。

大詰 三笠山奥殿の場
同  入鹿誅伐の場
結局求女には合わせてもらえず、お三輪がしょんぼりと立ち去ろうとしたその時、奥の間から求女と橘姫の祝言を祝う声が聞こえてくる。
理性を失い嫉妬に燃え上がるお三輪。
そのまま御殿の奥へ駆け入ろうとするお三輪に、鱶七は刃を突き立てる……。

きちんとしたあらすじはこちら


蘇我入鹿:中村 歌六
漁師鱶七 実ハ金輪五郎今国:中村 芝翫
宮越玄蕃:坂東 彦三郎
烏帽子折求女 実ハ藤原淡海:中村 梅枝
荒巻弥藤次:中村 萬太郎
入鹿妹橘姫:中村 米吉
大判事清澄:河原崎 権十郎
杉酒屋娘お三輪/采女の局:尾上 菊之助
豆腐買おむら/藤原鎌足:中村 時蔵


感想

あんなに、あんなに可愛い女になんてことしてくれると!?!?!?!?!?!?

お話の筋を予習して、またひどい話だなあと思って見に行ったわけですが、想定以上にお三輪が可愛らしく、あんなに可愛い女を、しかも落ち度のない女を、どうしてそんなことするんですか!? 顔がいいからなんだっていうんだ。お役目があるからって許されるわけじゃないからな!!!!!
台詞も少なめの藤原淡海、お三輪を袖にしたという一点だけで鳩のヘイトをだいぶん買っています。なんなら悪役のはずの蘇我入鹿よりひどい。可愛い女が酷い目に遭う話に怒りがちという自覚はあります。
映画「Swallow / スワロウ」の可愛い女が酷い目に遭うのもしばらく怒っていました(ものすごくとても良い映画なのでおすすめです)。


「道行恋苧環」
この演目がとても素晴らしくて、今現時点で見た歌舞伎の演目の中で、これが一二を争うほど好きな演目になりました。
平たくいうと、お三輪と橘姫が求女を巡ってキャットファイトする舞踊劇なわけですが、同じ振り付けで踊るので、その役どころで動き方が違うのがとても面白かった。
お三輪は町娘なので、ちゃきちゃきと素直で元気のよい感じで動き、橘姫はお姫様なので、しなやかにしとやかに動く。手先の見せ方なんかも違うんですね。町娘とお姫様を並べて見ることなど今までなかったので、自然に見ていたけど、こんなにも違ったんだなあと新鮮でした。

舞踊劇ですので、ずっと音楽があるわけですが、最後の最後、お三輪が持っている苧環の白い糸が切れた時に、その落胆を表すかのように無音になるのが、ぞっとしました。急に手を離された時の心細さのような。お三輪の悲しみが迫ってくる。音でその緩急がつくのが素晴らしかった。
また、一幕目から舞踊劇だったので大向こうはかからなかったのですが、最後のところで真隣から大向こうがかかり、椅子の上で跳ねました。びっくりした……。一瞬すべての感想が飛んだ。大向こうさんのお隣になったのは初めてです。

もうこの幕で終わりにしよう。ここから先を見たくない……。


(休憩)

3階8列30番あたり
休憩の間じゅう、もうこの先見たくない……となっていた。げんなり鳩。


「三笠山御殿の場」「三笠の山奥殿の場」「入鹿誅伐の場」
お三輪が大好きになってしまったため、受け取れる感想も、シンプルに酷い……となるばかり。
お三輪はただ隣人の男に恋をしただけで、その男が自分を裏切って女を追っていったから悋気に駆られただけじゃないですか……。それで朝まで追っていくのが健気では……? というか第一、求女は潜入している先で女作って何やってんですか??? ここまで見越してやってたの??? もうただ最低では??????????????(鳩もわかっていますともそういう大義のための犠牲が美しいのだということくらいは)

いじめの官女たちの、意地の悪さとコミカルさの兼ね合いがすごかった。ほんとうに意地が悪いし酷いんだけど、きっちり観客を笑わせにくる。酷いまま、こちらから笑いを引き出してくるので、つい笑ってしまうし、それではっとしてしまう。わざとがさつに見えるような動きをするのがまたそれを引き立てていた。

お三輪の最期のあたりはほんとうに酷いしほんとうに怒っているんですが、しかしあの、生身の女が怨念を募らせてだんだんと狂っていく様、あれ自体はほんとうに見どころであり、きっと役者としては表現のしどころであり、やはり大変素晴らしかった。
その後、お三輪がずっと大切に持っていた苧環を、手繰り寄せて息絶えるところ、その白い糸が血に染まるのが見えるようでもう……。
最期に「あちらでは求女と夫婦に」のようなまた健気なことを思ってお三輪は死ぬわけですが、絶対その男そんなこと忘れるじゃん。そもそもそんなこと言って死なせたのを知らんのでは?(大変評価が低い)
来世だろうとあの世だろうと、絶対にその男はやめたほうがいいと鳩は思います。


細かいところ
・橘姫が死んだ理由がいまいちわからない。好いた男と大義のために身を犠牲にするというのが婦女の庭訓ということなのだろうけど、ちょっと唐突というか……?
・中村米吉さんのお姫様を初めて見たけれども、色っぽいしお人形さんみたいだった。お人形さんみたいなのに色気があるので、なんだか見ていて混乱する。
・酒に毒が入っているかもしれない、といって、鱶七がその酒を近くの植物にかけると、みるみるうちに植物が萎れるの、あれはどうなってるのだろう。きっとものすごく単純な仕掛けなんだろうけれど、こういう演出が満足感を高めてくる。こういうの大好き。
・藤原鎌足なので……武器は……鎌なの……???


まとめ

蘇我入鹿を誅伐してめでたし! だけども、演目で見ているだけで雛鳥と久我之助(第一部)とお三輪(第二部)が犠牲になっているし、ぜんぜんめでたくない……。この犠牲の姿が美しいのだと言われても、永遠にお三輪の結末に駄々をこねそうです。
やんややんやと散々言っておりますが、かといってこれは物語に対する否定では決してありません。鳩がこれだけ喚くことができるということは、それだけ物語に筋が通っていて、物語として力強さがあるということ。
それぞれの登場人物が信念を持って行動し、それが結果としては誰かの死や、それに伴う大きな悲しみに繋がるというだけであって、誰も悪事を働こうと思ってやっているわけではない。このそれぞれの強い信念を貫く姿こそが、物語としての面白さの基盤であり、美しさでもありますね。

おみやげに買ったお菓子。太宰府天満宮で売っているもの?らしいです。
梅の味の砂糖に、お餅が埋まっていました。おいしい。
苧環を持った鷽が埋まっていました……お三輪……。


おまけ:さようならば、また他日

この日が鳩のラスト国立劇場でした。建て替えを行うつもりのようですが、工事をする業者も決まっていないまま?現在は閉場中。
鳩は今年になるまでとんとご縁がありませんでしたから、この劇場に入ったのは、ここで感想にあげている4公演のみです。確かに年季の入った建物ではあるなと思いましたけれども、綺麗に整備されているし、何より内装が美しい。耐震工事をすれば使えるのでは?という言説も見かけましたが、実際のところはどうなのでしょうね。
最近の建物は、こうシンプルでスタイリッシュな、光にあふれ、圧倒的に広い空間、それは目立った装飾がないだけ、というような、そういうものが多いような気がしています。そういう建物の良さはもちろんありますけれども、鳩は国立劇場においては、そうならないでほしいと願っています。
文化の発信地である国立の第一の劇場として、どうかこの風格を保ったまま、荘厳な佇まいであってほしい。どこにでもありそうな、なんでもないように見える建物にならないことを、願ってやみません。

さよなら国立劇場

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