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【歌舞伎鳩】夏祭浪花鑑、於染久松色読販ほか(四月大歌舞伎 / 歌舞伎座)

毎年四月は、仁左衛門さんと玉三郎さんの公演なんでしょうか。
昨年のこの月にうっかりビビり散らしながら歌舞伎座に行ったのが全てのはじまり。なんともう一年も経ちました。光陰矢の如し、恐ろしいですね。何より恐ろしいのはそこからほぼ毎月歌舞伎座にいることでもある。
歌舞伎、恐ろしい。恐ろしく素晴らしいので、まあ皆さんもぜひ幕見にでも行ってみてください。
👒は鳩的好きな演目




👒夏祭浪花鑑なつまつりなにわかがみ

ざっくりとしたあらすじ:
出牢した団七九郎兵衛片岡愛之助)は、妻・お梶中村米吉)や息子・市松中村秀之助)、釣船三婦中村歌六)らに迎えられる。髪結床の外で渡り合い、義兄弟の契りを結んだ一寸徳兵衛尾上菊之助)らとともに、団七は玉島磯之丞中村種之助)とその恋人・琴浦中村莟玉)の窮地を救うことに。ところが強欲な舅・義兵次嵐橘三郎)が琴浦を攫ってしまい……。
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夏に見たい演目だった。まだ春……。
最終的に舅は殺されても仕方がなくないですか? というくらい、本当に嫌な男に演じられていた。大詰で出てきた舅がわざと?汗の滲んだ着物を着ていて、そこに体臭やむさ苦しさ、小汚さのようなものが見えてほんとうに嫌な感じ。だいたいこの男が悪いのですが、殺してしまって罪悪感を感じている団七もえらいな……。まあ元凶は磯之丞ですが(反省しろ)。この殺しの場面で本当に泥を使っている(本物?)のが臨場感あって良い。そしてこの場面、後ろの植物がかぼちゃなのも面白いですね。歌舞伎って雑草とか作物とかを背景の植物にチョイスしてくるのがなんか面白いのですが、これは当時どこにでも、身近にあったものだったのだろうな。
出てくる男女全員が粋で格好よかった。団七が顔を剃って出てくるところ、喧嘩を仲裁するお梶、請け負ったことのために美しい顔を焼けるお辰……。こんな侠気溢れる面々の中、守られる磯之丞がどうしようもなさそうなのがこう……。あんなかわいい琴浦がいるんだから浮気なんかすんなよな。初めから終わりまで何をやっているんだ。


そのほか細かいこと

  • 神社のところの立て札とか、部屋の隅で魚焼いているっぽいやつとか、不思議な小道具がいいぱいあるな〜と思っていたというか、なんとなく目についていたものたちに全部意味があって、その点もすごかった。舞台上に配置されているすべてに意味がある……。

  • お梶が椅子に腰掛けて汗を拭うなんでもない仕草がものすごく色っぽくてびっくりしてしまった。

  • お辰の紗の着物、紗の着物の魅力をここで理解してしまった。なるほどあれも色っぽい。

  • 釣船夫婦の着ているのは藍染の疋田三浦ですか……? なんというか、歌舞伎は衣装がほんとうに素晴らしいですね……見応えある……。



👒神田祭

ざっくりとした解説:
恋人同士の鳶頭片岡仁左衛門)と芸者坂東玉三郎)が「天下祭」の情景の中で踊る。
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いつ見ても美男美女がいちゃいちゃしており、見ているこっちが困る。世が世なら拝まれていると思うし、根拠はないがこの演目は万病に効く可能性がある。この演目、見ている客席が妙な雰囲気になるのがもはや面白いですよね。またかかったらぜひ見てほしいんですが、こう……客の方が囃し立てるでもなく照れてしまうというか……華やぐというか、うふふふふふみたいになるというか……。
拗ねた芸者が、鳶頭を通せんぼしたり、後ろから身体を当てて揺らして、構って〜〜〜みたいにしたり、頬をつんつんしてみたり……、照れ……見てるこっちが照れる……何見せられてんのよ…………ありがとうございますもっとやって。玉三郎さんの芸者は佇まいから美しく、あだで色っぽくて本当に最高ですね。
これは戯言なんですが、鳶頭が見得で決まった時に、ちょうど視線がこちらの方にきてオペラグラス越しに目線をもらい飛び上がりました。うっかり目を逸らした。びっくりしちゃうんですよ格好良いので。
仁左衛門さんと玉三郎さんの神田祭を見るのは2回目なんですが、これはどなたが芸を継ぐんでしょうね。別の役者さんがやるとどうなるのか見てみたい。仁左衛門さんと玉三郎さんも末長くやって、何回でも客席におかしな空気を漂わせてほしい……。




七福神

ざっくりとした解説:
海の向こうから宝船に乗った七福神が現れる。酒盛りをし、めでたく舞い踊り、また帰っていく。舞踊。
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2〜3柱ずつ前方で踊りますが、他の神々は、踊っているうしろでひたすら酒盛りをしていてただただ平和。良いですね、めでたいです。偶然前日に、映画「オッペンハイマー」を見ていたためか、この美しくめでたい演目が滲みました……。賑やかになんでもなく平穏にめでたく、ただ美しいだけの世界があってくれてとてもありがたい。
また、衣装がすごかったです。布袋中村鷹之資)の伊勢海老?が染めてある着物とか、毘沙門天中村隼人)の唐織の布地が袖のところで色違いの布になっているのですが、綺麗に柄合わせされていたりとか……。さすが神様といった感じの煌びやかなお衣装で良かった。
弁財天坂東新悟)を遊女に見立てて踊っていたのはちょっと面白かった。いいんだそれは。


於染久松色読販おそめひさまつうきなのよみうり

ざっくりとした解説:
莨屋を営むお六(坂東玉三郎)のもとに、かつて仕えていた家の女中仲間から手紙が届く。紛失していた宝刀・牛王吉光とその折紙が見つかったため、百両の金を工面してほしいという内容で、お六が思案しているところに、夫・喜兵衛(片岡仁左衛門)が帰ってくる。実は名刀を盗み出したのは、他でもない喜兵衛であった。髪結に貸した軒先で盗み聞いた話から、二人は百両の金を騙し取る計画を企てる……。
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元が心中の話というし、今回出てくる二人も強請りをするというので薄暗い話なのかと思っていたら全然そんなことなかった。というか強請り失敗パターンあるんですね!?普通に見破られちゃうので笑いました。面白かった。
しかもあの「この金でふぐを食おうかな、駆け落ちしようかな」という丁稚が伏線になっているとは思わなかった。というか、死体の顔を見間違えるものか?と思ったけれども、鳩なら見間違えそうな気がしたのでそこは不問です。
軒先の床屋と薬売りの話をじっと聞いている夫婦の雰囲気に凄みがあって特に素晴らしかった。悪巧みというか、何か計略を巡らしつつ、じっと耳を澄ませて盗み聞きをしているところ。最終的に見破られて、駕籠を担いであっさり引き下がって(十五両はせしめる)帰っていく幕引きも気持ち良くて良かったですね。短い幕だけど満足感がありました。


四季

ざっくりとしたあらすじ:四季それぞれの踊り。
春:紙雛が桃の節句に一晩だけ動きだし、宴し踊る。
夏:大文字の送り火を前に、若旦那と舞妓の恋模様を踊る。
秋:戦から帰らぬ夫を、砧を打ちながら若妻が一人待つ。
冬:森の中、みみずくと木枯らしに舞う木の葉が舞う。
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春:ファンタジックで可愛らしいですね。くるみ割り人形みたい。いつも隣にいるけれど、隣なので顔が見えない(見たい)というのもロマンチック。お人形に戻る時の、だんだんぎこちなくなっていく動きなど、動きの変化も面白かったです。しかしやっぱり酒盛りをするので、踊りと酒は不可分だなあと思うなどしました(宴と踊りかな?)。
夏:送り火って厳かなイメージがあったのですが、当然その麓には生活があり、いろいろなことがあるんだな。夏祭りのように。恋人になる目前の二人の初々しさと、それを取り持とうとする人たちの微笑ましさが楽しかった。
秋:打って変わってあまりに物寂しい。虫の声がするのもまたそれを助長する。踊る人の後ろに紗が降りて、その後ろに女義太夫さんがいたけれども、視覚的なところからも物寂しさを演出していてとても良かった。
冬:みみずくかわいい……。みみずくが煙草を吸って、フーと吐くと、周りの木の葉たちが舞うのが面白かった。群舞で結構な人数がいるのにちょっと寂しい感じが漂っているのは、木枯らしだという先入観からかなあ。みみずくがフーして終わった(かわいい)。


3階4列35番あたり

公演概要

四月大歌舞伎
2024年4月2日(火)~26日(金)

第一部:双蝶々曲輪日記 引窓・七福神・夏祭浪花鑑
第二部:於染久松色読販・神田祭・四季
歌舞伎座

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