哲学の博士課程の学生が、24時間365日頭痛と向き合う話④〜ペインクリニック編その1〜

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20代で「ペインクリニック」という語を耳にしたことがある人がどれくらいいるのだろうか。少なくとも私は2019年2月に頭痛を発症してからその約半年後までは知らなかった。なぜそこに行き着いたのかも忘れたが、頭痛の治療法をあれこれ探していたときにたまたま、自宅から1時間くらいかかるペインクリニックのホームページに辿り着いた。ここに至るまで、実のところ別の神経内科にも行っていた。しかし、そのときも確定的な診断は出ず、最初と同じように頭痛薬をもらって特に効果が感じられなかった。少なくとも街中にある神経内科に頼るのを諦めていた私にとって、今まで聞いたこともない病院らしき名称と普通とは違う治療を受けられそうな雰囲気が少なからず希望に見えたのを覚えている。

予約制と記してあったので、意を決して電話した。

私「初診の予約をさせていただきたいのですが」

向「予約が大変混み合っておりまして、最短で○月〇〇日(約1ヶ月後の日付)になりますが、、、」


予約が最短で1ヶ月後?ミシュランで星でも獲得してるんかここは?

今まで大病などもしたことがなく、病院に予約をして行くという経験が記憶の限りではなかった私にとって、最短で1ヶ月後の予約になるというのには大変驚かされた。正直ここで、「あ、行くのやめよ」という気持ちが出かけた。実際にやめてしまう人もいるだろう。ただ、この時の私は何とか踏ん張れた。

私「じゃあ、その日でお願いします。。」

その後症状を説明し、初診の際の注意点などを言われて、その電話は終わった。治る手掛かりも見出せていない頭痛とまたさらに1ヶ月付き合っていかないといけない憂鬱さがのしかかってきた。

そして、1ヶ月後、電車を乗り継いで1時間ちょっとかけてペインクリニックに足を踏み入れた。

なんてことはない、普通の小さな診療所である。初診表を書き、どうやら毎回血圧を測るのが義務のようなので血圧を測った。自分の順番になるまでの間、これから受ける「星状神経ブロック注射」の説明をされた。私のざっくりした理解だと、首の星状神経というところに麻酔を打ち、そうすると頭に向かう血流がめちゃめちゃ良くなって、頭痛が軽減するという治療である。緊張型頭痛について色々調べる中で、血行の悪さとそれによって脳に酸素が行き渡りづらくなることが頭痛を引き起こす的なことをどこかで読んでいたので、これによって頭痛が改善するというのは合点のいくものだった。

そしてなぜか、ここの医院長が書いたという本を贈呈された。

この時点で胡散臭さが出るが、待ち時間の間にとりあえずそれを読んで、自分の順番になるのを待った。

「〇〇さんどうぞー」

ここは珍しく?番号ではなく名前を呼ぶ式である。

しばらくして自分の名前が呼ばれた。

医院長とご対面し、自分のこれまでの経緯を説明し、再度星状神経ブロックの説明をされた。首に麻酔を打つという時点で結構ビビるのかもしれないが、この医院長自身が100回以上この治療を自分が受けているとのことだったので、それなりに安心できた。ベッドが10台くらい並んでいる部屋に通され、そこに寝かされ、(コロナのおかげで?今や世間に知れ渡っている)パルスオキシメーターを指にはめられて寝ながら待った。

数分後に医院長がやってきた。これまで聞いたこともない治療で、しかも注射をされるので結構ビビっていたと思う。

鎖骨の少し上あたりをぐりぐりやられ、

「チクッとしますー」

とかなんとか言われ、注射器を刺された。

おん、痛い、、んんんっあ、、、

首や肩の裏側、肩甲骨の上あたりに独特の痛みが走る。おそらく5秒くらいだった。注射器を抜かれ、注射された箇所を押さえるよう言われ、小さい専用の器具を渡され鎖骨の上あたりを押さえる。

.......

.............!!!

!!!!!!!!!!

間もなく注射された右側半分の頭の血流が明らかに爆上がりした。首から一気に血が上がってきているのを、顔半分全体で感じていた。その間、今まで日夜感じていた頭痛は鳴りを潜め、とにかく顔面と頭に溢れてくる血流に感嘆していた。たとえて言うなら、長距離走や長時間の運動をした後に、血流がよくなる感じと似ている。が、(私の元々の体調の悪さもあいまってかもしれないが)そんなのは比にならないくらい血流が頭にくるのを感じる。


今まで経験したことのないような感じに驚きつつ患部を抑えていると、看護師さんが注射された首の血が止まったかを一度確認しに来た。もう少し押さえてよう言わ、結果的に10分くらい患部を押さえていた。血が止まった後は15分くらいは安静にしなければならないとのことなので、そのままベッドで横になり、眠りに落ちた。

時間になり看護師さんに起こされ受付に戻った。自分の右瞼が垂れ下がっている。待合室にあった鏡でもそれを確認できた。ついでに充血もしていた。最初に説明された通りなのだが、星状神経ブロック注射を受けると大体このような副作用?が出る(大体1時間くらいで治る)。

その後受付でお会計となった。未知の治療だったのでいくらかかるのかとビクビクしていた。初診料などなどで結構お金がかかったが、星状神経ブロックの治療自体はそれほどでもなかったので少し安心した。処方箋をもらい、次の予約の話になった。どうやら毎週1回受けるというのが通例らしいので、それに従って次の週の同じ時間に予約を入れてもらった。ちなみに星状神経ブロックは月に4回までは保険適用で打てる治療らしく、それを越すと自費になる。だから週1ペースなのだろう。星状神経ブロックは施術後に肺に血が溜まってしまうことが20万分の1くらいの確率であるらしく、体調の異変があった場合には電話するよう言われた。結局のところ何もなく終わったのだが、ドキドキしながらペインクリニックを後にした。

ついでに書いておくと、瞼が垂れ下がって充血する以外にも星状神経ブロックの愉快な副作用がある。声が出なくなって飲食もできなくなるのである。理由は忘れてしまったが、とりあえず施術後1時間くらい声が出なくなり、この副作用が出た時に水を飲むと必ずむせるということがたまに起きる。通い始めてから、3-4回目くらいでこの副作用が出た。一生このままだったらどうしようかと思ったが、しばらくしたら少しずつ声が戻ってきたので安心した(麻酔が切れたということだろう)。何というか愉快な経験だと思う。


さて、そこから毎週私はそこのペインクリニックにお世話になるようになる。気になる効果だが、星状神経ブロック注射は、確かに打ってから数時間はかなり効く。おそらくこの頃から、頭だけではなく首の後ろや上顎、舌、目や鼻の奥まで、日替わりで顔面全体に違和感や痛みが広がっていてかなりしんどかったのだが、星状神経ブロック注射後はそういった違和感はだいぶ消えていた。それこそ、施術後の2-3時間は本や論文を集中して読める程度には集中力の維持もできていた。しかし、私の場合、一回の注射ではそれほど効果は長続きしなかった。毎週金曜日に注射を打ちに行っていたのだが、大体土曜日にはリセットされ、水木にはかなりつらくなる、ということが繰り返された。この辺りは人によるのだろう。

2回目に行ったとき、この注射をあと何回くらいやればいいのか聞いてみた。

「20回くらいですね〜」

とお年を召した医院長に笑顔で言われた。約半年。。。先は長い。星状神経ブロックの効果は一時的だったが、徐々に良くなるのだとうと信じて、毎週金曜日に電車を乗り継いで、ペインクリニックに通うのが日常となった。

このペインクリニックには今も通っておりそろそろ2年になる。ここに通い出して自分の病状や置かれた環境に向き合う中で、価値観が少しづつ変わっていった。少し長くなってしまったので、この点についてはペインクリニック編その2としたい。

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