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スターバックス渋谷店の珍客たち

 スターバックス渋谷店には、妙な客が寄ってくる。

妙な客第一号「声がでかい女たち」
「スタバでさー、ジュース飲んでいいと思うー?」
「まあいいんじゃねー?」
「だよねー」
 二人の会話は、スターバックスの客全員に丸聞こえだった。隣に座る僕の鼓膜は、彼女たちの声によって破壊されていた。 
「ウチさぁ、かっこよすぎる人はタイプじゃないんだよね」
「へ〜、じゃあどういう人がタイプなの?」
「うーん、ザ・かっこいいみたいな人は無理かな。ちょっとダサいくらいがいいかも」
「えー、たとえば?」
「たとえば……」
 そう言って、女は二重振り子のごとく上半身と首を動かして店内を見回す。店内の男たちは目を伏せる。隣に座る僕は、二重振り子がコップを落とさないかヒヤヒヤしていた。僕を一瞥した後、二重振り子は言った。
「うーん、隣りに座ってる人かな」
 死んでくれ。

妙な客第二号「めちゃめちゃ換気を気にするおばさん」
 孫思いも、高じればただの毒になる。
「ゆうちゃん、この席で大丈夫?」
「ゆうちゃん、ここの空気、悪くないかしら?」
「ゆうちゃん、ガラス張りの建物って換気が悪いわよね」
「ゆうちゃん、ちょっと換気できないか確認してくるわ」
 「ゆうちゃん」の祖母(らしき人物)は、十秒に一回は「換気」と言わないと死ぬ病らしく、おかげさまで僕は「換気」という単語を一生分聞けた。僕はすこぶるご機嫌だった。
「ゆうちゃん、ガラス張りだけど通風孔で換気はできてるって」
「ゆうちゃん、今から弁当を食べるけど臭いは大丈夫かしらね」
「換気できているならきっと大丈夫よね」
 いや待て。換気は孫じゃなくて弁当のためだったというのか。
 僕はゆうちゃんを見た。そのとき僕は、彼の尋常ならざる表情を見た。弱冠十歳にして彼は、すべてを悟っているのだった。僕は心の中で合掌し、スターバックスを後にした。


※この文章は、「換気」「ジュース」「弁当」の三題噺として書かれました。

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