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東大・本郷キャンパスのK教団

 東大には、妙なカルト集団がいる。
 仮にK教団としよう。

 K教団は洗脳しない。強制もしない。人には危害を加えない。
 彼らはただ、スズメのひなどりを殺す。そして現場にスズメの置物を残す。

 K教団に入っている友人に、話を聞いてみたことがある。
「なんでスズメを殺すかって?」、と友人は顎に手を当てて考える。
「うん。だってさ、スズメじゃなくてスズメバチを殺してくれても良くない?」
「ああ、この前も工学部の人が刺されたらしいね」
「そう。スズメバチを殺してくれたほうが、みんな助かるよ」
 東大・本郷キャンパスには、定期的にハチの巣が出現する。そしてちょっとした騒ぎになる。いくつかの教室には、〈ハチが入ってくるので、窓は開けないでください〉などと貼ってあるくらいだ。
「うーん、仕方なくない?」、と友人は笑う。無垢な子どものそれだった。「私たち、人の役に立ちたいと思ってるわけじゃないし」
「でも、スズメじゃなくても良くない?」
「うーん、前から決まっていることだから仕方ないよ」
「前からっていつ」
「知らないけど」
「はあ……」
 ちなみに言うと、この友人は秀才である。入学試験では主席だった。彼女の成績表には〈優〉の文字しか並んでいない。しかし、真面目な人ほど不可解なカルトに邁進するという話も聞く。
「K教団には教義とかないの? スズメを殺さなきゃいけない理由が書いてあるお経とか」
「まあ、あるっちゃあるよ。スズメが増えると、キャンパスにカラスが増える。そしてカラスが増えると、キャンパスの衛生が悪くなる。だから、スズメを殺せって」
「それ、カラスを殺せばよくない?」
「とにかく、スズメを殺すことになってるの」
「ふうん」
「私は馬鹿らしいと思ってるけどさ」
「馬鹿らしいと思っているのに、スズメは殺すの?」
「うん。だって、殺したくない?」、と彼女は目を輝かせて言うのだった。


※この文章は、「ひなどり」「増える」「置き物」の三題噺として作られました。


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