【短歌&小さな物語】「背中」
歩いていると、後ろで鋭い犬の声がした。
振り返ると、今通り過ぎた郵便局の前に白い犬がいて、吠えている。
郵便局の入口の前は幅の広い段々になっているのだが、そこに所在なげに座っていた男の人に向って吠えている。
――小白じゃない?
小白はこの通りの先にあるかき氷屋さんの白柴だ。わたしの短歌シリーズの第一回に出演している。↓↓
小白には会える日と会えない日がある。会えない日の方が多い。小白は忙しいのだ。
小白に吠えられて、男の人は明らかに困惑している。別に犬をいじめそうな人には見えない。結局その人は立ち上がって、少し離れた場所に移動した。
それで満足したのか、小白は自分の家の方へ戻りかける。
「小白!」
と呼んだら、こっちを振り向いて立ち止まった。
「あ、お前か」そんな顔をしている。
わたしは近づいていって訊ねる。「あなた、通りのパトロールをしてるの?」
マイペースの自由人(犬)だとばかり思っていたら、もう一つの顔もあるらしい。なかなか新鮮だ。
でも、さっきはどうしてあんなに吠えていたのだろう。「管轄地域内にあやしい人物発見!」ということだったのかしら。(どうあやしいのかはよくわからなかったけれど)
わたしの疑問をよそに、小白は座ってわたしに背中を向けた。
「撫でていいぞ」ということらしい。
わたしもしゃがんで、やわらかいお腹を撫でる。ついでに目やにも取ってやる。ふと見ると、しっぽにいっぱい草の実がついている。
「またどこで、こんなものつけてきたの?」
思わずしごくようにすると、ぷるるんとしっぽを揺らしたが、別に怒りはしない。
――ふと、なんだか切なくなった。
通りすがりのわたしを、そんなに信じちゃっていいの?
ねえ、白いおまわりさん。