【短歌&小さな物語】「ボール」
小さい頃から、運動が苦手だった。
短距離走なんかすると、ほぼ確実に転んでいたため、小学校低学年の時、「ミナミノさんは、次は転ばずに走れるように頑張りましょう!」と担任の先生に言われた。屈辱の記憶である。
そんなわたしでも、時には思い切り体を動かしてみたい時がある。
例えば、今日みたいに――
澄み渡った秋の空の下を、スニーカーで駆けてみたい。
それから、ボールも投げてみたい。
考えてみれば、ボールって不思議。
投げるための、ただそれだけの物。
投げるだけじゃなくて、棒で打ち返したり、抱えて走ったりもするけれど、そんなのは後から、しかつめらしい顔をした人たちが、しかつめらしく決めたルールに決まっている。
最初はただ投げる物が欲しくて、人間はボールを創ったのに違いない。
投げたかったのだ。純粋に、遠く高く、何かを投げてみたかったのだ。
だからわたしもボールを一つ、思い切り抛り上げる。
高く高く、空に向かって――
落ちてきたら両手で受け止めて、また抛る。
次はもっと、もっと高く――
そのうちだんだん、自分が空の底にいるのだか、空の底にボールを落としているのだかわからなくなってくる。
わたしの体と丸いボールが、秋の空の奥へと吸い込まれていく。
舞い上がるように、あるいは落下するように吸い込まれていく。