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【短歌&小さな物語】「スパゲティー」

スパゲティー
ゆでると春樹
思い出す
良からぬ読者
日曜の女

「スパゲティー」#今日の短歌(十七)

スパゲティーをゆでると村上春樹を思い出すようになったのは、いつからだろう。

例えば『ねじまき鳥と火曜日の女たち』の冒頭部分は、こうだ。

その女から電話がかかってきたとき、僕は台所に立ってスパゲティーをゆでているところだった。スパゲティーはゆであがる寸前で、僕はFMラジオにあわせてロッシーニの『泥棒かささぎ』の序曲を口笛で吹いていた。

『ねじまき鳥と火曜日の女たち』(村上春樹『パン屋再襲撃』文春文庫、p.181)


そして新刊が出れば、つい読んでしまう。これはもう習慣に近い。

村上春樹『街とその不確かな壁』新潮社

『街とその不確かな壁』は初期の中篇を書き直した作品であるためか、ゆっくりページをめくっていると、村上春樹の物語を読み始めた大学生の頃のことが自然に思い出された。

最新刊については、毀誉きよ褒貶ほうへん相半あいなかばするようだけれど、村上春樹の中にまだ初期の瑞々しい抒情が残っているのが感じられて、わたしは好きだった。

今日、わたしもスパゲティーをゆでた。(別に珍しくもない、ふつうのミートソースなので写真は無し)

それにしても、パスタをゆでると村上春樹を思い出すなんて、なんだかいかにも上っ面だけの、底の浅い読者みたいだ。その作品をずっと読んできたけれど、わたしはたぶん、いわゆる「いい読者」ではないのだろう。

あ、パスタじゃなくて、スパゲティーね。


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