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今週読んだ本。ポール・オースター「ガラスの街」

読みました。先月「ザリガニに鳴くところ」が面白かったので、海外ミステリいける!昔は読めなかったはずなのに、それは翻訳が合わなかっただけで、むしろ現代日本の小説よりも、一生知ることのできない文化に触れられる感じが面白い!

と、なりまして、全く知らない作者の本を、表紙と見出しと、ミステリーらしいというだけで買ってしまった。

ガラスの街。

主人公は「ウィリアム・ウィルソン」というペンネームの推理作家。本名クイン。
彼のもとに、探偵のポール・オースターさんに依頼したいと、間違い電話がかかってくる。

推理作家で名前を使い分けている人物に、探偵のポール・オースターさんですかと電話がかかってくる。(ポール・オースターは作者と同名だが作家ではなく探偵)もう導入から不穏だ。

間違いでかかってきた依頼に興味を持ったクインは、ポール・オースターと偽って依頼主のもとに出かけて、依頼主のピーター・スティルマン夫妻と会う。

ピーター・スティルマンの何もかもが白かった。襟元の開いたワイシャツ。白いズボン、白い靴、白い靴下。青白い肌。薄い亜麻色の髪にそうした服装をしているものだから、ほとんど透明なような、顔の皮膚の奥を流れる青い血管まで見通せそうな見かけが生じていた。その青は、ミルクのような不透明さを帯びた、彼の目の青とほぼ同じ、空と雲の混合物へと溶けていくと思える青だった。

ピーターは落ち着かない挙動で、何が言いたいのか話題がこんがらがって行ったり来たりしながら自分について話すのだが、要約すると、

父親によって9年、監禁されて育ったらしい。
父親は狂った宗教思想の持ち主で、生まれた子供を完全に外部と遮断して、人間の言語をいっさい知らずに育てれば、やがて神の言語を話しだすと信じていた。
危険な思想の父が帰ってくるので、尾行して、危害をおよぼさないかどうか調査してほしい。


主人公自身が名前を偽り、登場人物がどこまで真実を語っているのかもつかみきれない。危険な父親とやらはいつまで調べても無意味に街を放浪し続けている。何を考えているかわからない登場人物たちが、いつ途切れてもおかしくない関係でつながっていて、30年以上前に書かれた話なのに、どこか今っぽい。都会の人間関係っぽい。

短めのミステリーだと思ったら、謎が謎のままの変な小説だったんだけど、単純に話を追うだけで面白い。お薦めです。


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読書感想文

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。