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もう地球人が信じられないあなたに「銀河核へ 上巻」

これはSF小説好きよりも、さいきんアニメでまま見る
「獣人との交流」「異種族もの」好きに愛されるのでは。


異星人との交流経験はないが、事務と他惑星言語を勉強したローズマリー。彼女を軸に、さまざまな種族が、「トンネル工事船」に乗りこみ、時空を越えるワームホールを掘るSF小説だ。

作業船でローズマリーを待っているのは、たとえば女性に生まれて産卵をすませると男性になるグラム人の「ドクター・シェフ」。
本名が地球人にはとうてい発音できない。

シアナット人のオーハンは、他の種族には実感できない「ここではない次元」のことを考えて計算できる人材。

技師のジェンクスは身長が低く、2020年の地球では「障害者」とされている存在だ。ローズマリーは初対面で、遺伝子操作で体が小さいほうが都合がいいから、そのような体に改造したのかと思いこむが、生まれつきのものだとわかる。
あらゆる障害を出産前に知ることのできる時代に、彼の存在は何を意味するのか。

特に作者の思い入れを感じるのは、地球の爬虫類に近い特徴をもつ「シシックス」。
ウロコと羽を持つ彼女は、ローズマリーらとお風呂グッズを買い出しに行くだけのエピソードまである。長旅のまえには、ウロコ用洗浄スクラブとか、触手のケアとか、種族によって必要な日用品がある。
爬虫類の特徴をもつので冷えに弱くて、アイスを食べたら口元が動かなくなるとか、脱皮の時期になると神経質になり、パートナーのささいなことが気にさわるなど、不安定な面も持っている。


こういった民族が入り混じっているのに「武力担当」がいなくて、全員が知的職業についているのが新鮮だ。みんな武器の扱いにも慣れていない。

どちらかというと、地球人が、広い宇宙の中でもわりと野蛮な部類のようだ。船団の仲間には差別的な扱いをされることはないけど、恵まれた資源を持ちながら争いをやめられず、自滅しかけた歴史がある。
作中でチェスをやるシーンがあるが、ボードゲームすら侵略をモチーフにしていることを不思議がられる。


上巻でうちとけた仲間たちはいよいよ下巻で本格的に、未知の空域に乗り出し(たぶん)、未開のエリアとバイパスをつなぐビッグビジネスに挑戦する。
付近には攻撃的な種族がいるらしいが、武力の衝突はあるのか?
それとも、危険な種族だと報道されていても、先入観と実際の印象は違っていて、友好的に迎えてくれたりするのか?
(そのほうが、現代の世界を反映させた、今読まれるべき内容である気がする。)

名前からキャラクターの姿が浮かびづらくて、何度も前に戻って
「えー、こいつはこんな姿でこの仕事で、」
とか確認しながら読まなきゃいけなかったし、いちばん人気が出そうなシシックスも、体がウロコに覆われているのか羽があるのか、じゃあ今研究されている恐竜のような両方を備えた身体なのか、いろいろ想像を「描き直し」しながら、こんな感じか?いや、羽根を送る習慣があるのか、じゃあこうか?と、考えながら読んだ。
パーフェクトな名作というわけではなさそうだけど、愛されるSFだ。


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読書感想文

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。