お神酒じゃ車は動かない
離れて住んでいた家族が集まった。わざわざこの日のために、とっておきの晴れ着に着替えた妹家族は「来るとちゅうの神社でおみくじをひいたらみんな大吉だったよ」「その前の家族も大吉だったみたい」「あれはきっと全部大吉なんや」と、全部の大吉をひいてきたのに、数少ない大吉を引いてきた笑顔をしていた。
そのあとも、母の渾身のおせち重箱が出てきて、えびのゆでたのやら、卵焼きやら、黒豆やらを、ひとつひとつの手間と上手に作ることの意味をわかっている人たちが食べた。
それはもう、幸福としか言いようのない光景を炸裂させた。
そのあとに僕だけが仕事に呼び出されたけど、車のエンジンがかからなくなった。
あ、元旦の車って止まるんだ。
人がおみくじで大吉が出たって喜んでる光景を、そりゃ小さい紙に大吉って印刷されたものなのに、よくそんなに嬉しそうに喋れるなあ、と引いた視点で観察しちゃう人の車は元旦でも壊れる。
ふしぎと納得いった気持ちになった。キュルキュルキュル、と何とかふんばって動き出そうとしていた車も完全に沈黙した。
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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。