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永田カビ「一人交換日記」

前作を闘病記とするなら、今作は共感を呼びかけるのではなく、現状そのままを描いた日常エッセイ。

作品を家族が理解してくれそうにない。孤独で泣けてしょうがない。呼吸が苦しい。
家族との意思疎通がうまくいかず、鬱というフレーズを簡単に使った父に怒り、部屋でひとり暴れる。
ヒット作を出した直後とは思えないボロボロの精神状態だが、観察力のアンテナはONのまま。部屋で暴れて「いなりずしの酢飯が傷にしみた痛み」、その一瞬を逃がさず描き残す。
前作で異様な迫力を見せた、「過食時にかじった、血に染まった生麺」。
体験した人にしかわからない、痛くて醜い一瞬を切り取る。作者の精神は血だらけなのに、まだ、私を見て、わかりやすく説明するから読んで!と身を削る。精神状態に比例して荒れるタッチ、酒量が増え、突然ぶちっと終わらせたような不完全さには、異様な迫力がある。

(2年前に他サイトで書いた感想です。思い出したので発掘)

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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。