第19回「2022年のはじめに」
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第19回「2022年のはじめに」

Yasumune MINAMITANI

 目の前に広がる景色に驚いて、思わず江ノ電を降りました。下車して小走りに海岸線に近づく行動は、今年50歳をむかえる男のそれではないかもしれません。僕を本能的にそうさせた景色は、文字通り筆舌に尽くしがたく、慌ててスマホ片手に動画を撮りましたが、レンズ越しに見るのはもったいなかったので、ブレた動画のみが記録されました。
 相変わらずうまく撮れていないことに苦笑しながら、僕は海から吹く凍てつくような強い風を全身で感じ海沿いの道を二駅分歩きました。もとよりキレイな景色も冷たい風もインスタでは伝えきれません。

 利用された方なら共感されると思うのですが、鎌倉から江の島に向かって江ノ電に乗ると、稲村ケ崎を過ぎてほどなく七里ガ浜の海が目前に広がります。その景色は進行方向にむかって左側なので、鎌倉駅では、あえて列の後ろの方に並び、乗車してすぐ反転し入口近くに立ちます。青い空と海とが一度に視界に飛び込むその瞬間は、それが日常であっても小さな感動を何度も呼ぶのです。
 今日は、観光地ならではの年始の交通規制を避けて夕刻に移動したため、家路の景色には少しも期待もしていませんでした。あたりは暗くなり始めていて、青い海は見えるはずもありません。

 ところが、そこには驚く光景が。表現できないような色のグラデーションが空に広がり、澄んだ濃紺の上天には星が光を放っていて、大地のラインがくっきり力強く描かれ、その一本が日本一の山まで続いています。不意を突かれるとは、まさにこのことなのでしょう。思わず声が出ます。下車した七里ガ浜駅からは、その景色が少しだけ見えていました。「早くしなければ日が沈んでしまう」その一瞬を逃したくない一心が僕の歩みを早めました。押しボタン式の歩行者用信号機が青色になるのがとても長く感じます。

 なにか、得をした気分になりました。感動することに対して鈍くなっていた自分を反省する気持ちにも。身近にある美しさや親から授かった丈夫な身体や環境、いまここにある当たり前に急に感謝しました。
 出会いや縁を心から大切にしていたのか、軽薄に物事に対峙していたのではないか…ありとあらゆる自戒の念が頭に浮かびます。
 失ったときその大切さに気づくであろう様々なことに感謝することから、今年を始めることにしました。チラシの溜まったポストに着くころ、先ほどの景色は漆黒の闇へと変わっていました。年はじめ、まずはこの地球に感謝です。



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