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昭和行進曲

俺たちはいつも一緒だ。
昼は社員食堂で同じものを選び同じテンポで食い進める。
誰一人出遅れる事は無く取り残されることは無い。

生もので腹を壊す時も六人同時。
イカした話で笑う時も勿論同時。

「同僚」なんていう安っぽい仲じゃないが親友でも無い。

馴合いが過ぎれば秩序は崩壊し
離れ過ぎれば足並み乱れる。
俺たちはそれを心底理解し
適切な距離を保ちつつ日々を過ごす。

人生の瞬間瞬間にちりばめられた好機を俺たちは見逃さない。
満を持してその瞬間に全てを掛ける。

俺たちにとって写真撮影は人生の全て。
家庭や仕事より大切だ。
カメラをむけられたらナウくきめる。
一回の撮影に魂を燃やす。
ミスは絶対に許されない。
何故かって?
ベイビー、それは現像代が無駄になるからだ。
ベイビー、フィルムだって無駄になる。
俺たちナウな日本人。
「もったいない」精神は不滅だろ?

出張と社員旅行は俺たちの舞台。

奇妙なかたちのアトラクションも

意味不明なタワーも

謎めいたオブジェも
太陽の塔も関係ない

最高の一枚が撮れれば、それでいい。

出張・社員旅行は酒がつきもの。
飲み過ぎる前に撮影を済ます。

その基本的で初歩的な法則を無視した者は
人生という名のアルバムに多くの後悔を残す。
現像代もフィルムも無駄になる。


各々が視野を広げ、思慮深く生きる事で最高のチームワークを保つ。
それが俺たちのやりかた。

互いを信頼し
シャッターがきられる瞬間に全力投球。
目が半開きにならないように
動いて写りがぶれないように
チームの力が試される瞬間だ。


ある時
順調な俺たちに悲劇が起きた。

最高のパフォーマンスは
揺るぎない鉄則によって実現される。

自覚していたつもりだが
二日酔いで脳みそと鉄則が緩んだ。

責任の擦り付け合いなどしない。
現実を受け入れるしかない。
男はいさぎ良いほうがイカすだろ?


貸し切りバスの出発時間が迫っていた。
俺たちは焦り、六人揃った状態を撮影してくれる者が現れるのを待てず
愚かな判断をくだした。

「今回は仕方が無い。一人ずつ撮影役に回って、五人で写る道を選ぼう。」

六枚目の撮影をしていた俺たちの前に
その男は疾風のごとく現れた。
そいつは悪びれも無く俺たちの右側に立ち
俺たちチームの一員であるかのように振舞い
貴重な瞬間に写り込む。

↖大胆なボーズをキメる疾風の男

一瞬の出来事だった。
俺たちは混乱していたが疾風の男は信じがたいほど落ち着いていた。
こんなにも大胆に他人の写真に溶け込める奴を
俺たちは見た事がない。

バスの出発時間が迫る中、神が与えし撮影者が現れる。
天は俺たちを見放してなどいなかった。


俺たちはプロだ。
レンズを向けられれば石原裕次郎にでも
マヒナスターズにでも何者にでもなれる。

↖距離は少し遠のいたものの、写り込む疾風の男

俺たち昭和のサラリーマン。
三度の飯より写真が大事。
疾風の男は許し難い。
それでもベイビー
俺たち最高にイカしてる。


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