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【読書記録】父の詫び状/向田邦子

父の本棚を整理するとき、読みたいなと思った本をいくつか
持ち帰った。
読みたい読みたいと思いつつ、なかなか進まなかった向田邦子さん。
なぜだかわからないが、今回読んでみたらスルスルと心に入ってきた。

読書にはいつもなんだかタイミングがあって、不思議に思っている。

私が生まれる前に亡くなりになった向田邦子さんだが、
そのお名前はもちろん知っていた。
昭和の名作ドラマの紹介番組などには必ずお名前が上がっていた。
私は昔からこの類の番組が好きだった。
昭和の名作ドラマ。
昭和の名作アニメ。
今、平成の懐かし番組も特集されているのを娘が楽しそうに観ている。
私が青春時代に観ていた番組が懐かしアニメや懐かしドラマとして
紹介されているのは不思議な気分である。

父は昔から向田邦子さんが好きだった。
父の本棚には装丁を変えつつ、向田さんの書籍が常にあったように思う。

向田邦子さんのドラマは何度もリメイクされているし、
向田邦子さんをモデルにしたドラマを観た記憶もある。
確か山口智子さんが演じておられていたような。
その時は「なんだか暗いな」と思った記憶がある。(失礼)
今回「父の詫び状」を読んでいて思ったのは、そのカラリとした明るさ。
でも、その中に時々ある「影」
戦前戦後の様子だから影のあるもの、と思い込んでいたが、
今回読んでいて私の心に入ったのは、からりとした明るさの方だった。
昔見たドラマへの印象が先にたち、暗いと思い込んでいたのだろうか。
なぜか1年ほど前に読もうとした時は、読み進むのに気が重く感じて後回しにしていた。
父の死後間もなかったのも影響していたのかもしれない。
なんだか気持ちが重かったのかもしれない。
向田さんのお父様への恨み言の方が、私の心に響いてしまったのかもしれない。
けれど、今回手に取ってみたら、
恨み言ではないのだ。
お父様と反発しあった心の裏にある懐かしみがちゃんと見えてきたのだ。
いやだなあと思ったこともありのままに、そしてなんだかおかしみを込めて、
幼い頃の思い出や、ご家族のこと、愛情も妬ましさもないまぜになった微妙な心境がきちんと伝わってくる。
昭和の生活への憧憬や、新鮮さもある。
「これ、聞いたことある」ということもある。
「へえ、こんなふうに生活していたんだ」という感想もある。
とにかくいろんなことが新鮮だった。

父はどんなふうに向田邦子を読んでいたのだろう。
昭和の生活への懐かしみだろうか。
幼い頃の情景を思い浮かべていたのだろうか。

父はどちらかというと「クスリ」と笑えるような話が好きだった。
「ブラックユーモアが好きだ」と言っていたが、本人が口にするのは
「ブラックユーモア」ではなく行き過ぎた皮肉、と母に捉えられることが多かったが。
だから、このからりとした明るさを好んでいたのではないか、と私は思っている。
空襲で仕方なく土足で畳に上がったことが後ろめたいながらも楽しく感じた話。
トイレにバッグを落としてしまった話。
個性あふれるタクシー運転手の話。
全然古くなくて、全然暗くない。

もちろん、中にはハッとさせられるような影のあるエピソードもある。

ごく普通の家庭のごく平凡な人生だ、とご本人は仰るが、
その淡々としたエピソードの中にある家族の明るさと影のおり重ねが
なんだか我が家族にもごく平凡ながら、その一つ一つの感情の複雑さが
あって、共感できるものとなっている。

私の本棚にはあと3冊、向田邦子さんの文庫がある。
感想を言い合えるはずの父はもういないけれど、
どんなふうに感じたのかな〜なんて想像しながら読もうと思っている。

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