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金なのか 愛が大事か 悩む冬 天狗の木前 答え求めて

「えっと、えっと」今日はオーナメントは焦っていた。向かっているのは近所にある大きな神社だ。もちろんオーナメントは本名ではない。本業が代々続く季節商品の装飾品を扱っている商店の子どもだから、まわりの同級生らに「オーナメント」と呼ばれているだけだ。

オーナメントは家業を継いで3年目であった。元々は大手企業で務めていたが、先代に当たる父から「そろそろ戻ってこい」と言われて戻ったら、いきなり家業を継ぐように指示される。といっても院政のように父が実権を握っているのだが。

そんなオーナメントが最近は恋愛問題で悩んでいた。
パートナーを選ぶ基準として、「愛か?お金か?」という問いがありますが、あなたが「お金ではなく愛だ」と答えるならば、あなたにとって愛は具体的には何を意味しますか?

これはもしかしたら婚約者になるかもしれない現在のパートナーとの会話の中のひとこまだ。最初は何気なく出てきた愛か金かという他愛のない話をしていたのに突然パートナーが真顔になって言い出したことだ。

「うーん、急に言われても」とその場で適当に返事をしたオーナメントだが、「大事なことだからゆっくり考えてみて」と返されてしまう。
ちょうどパートナーが出かけて夜まで戻ってこない日、オーナメントがひらめいたのは、年末の冬空の中、近くの神社で神様に問えば良いのではと考えた。

ところが、オーナメントは普段神社など行かない。だから普通に考えて神社の本殿に祀られている神様に相談するのがルールだと思うが、オーナメントはそんなルールなど知らないから、境内にあった「天狗様」というものが気になった。

「天狗様に聞いてみよう」こうしてオーナメントはる神木のほうにいったのだ。神社境内の森の中、オーナメントは周りとは違う白っぽい木の前に来た。天狗様と呼ばれている木の周りは石垣で囲まれている。

「お願いします天狗様、このオーナメントによき答えを」そう言って手を合わせた。だがルールを知らないオーナメント、正月の初もうでくらいしかしないのに、都合が良すぎである。それも本殿の神様ではなく、こちらのほうが聞いてくれそうという理由で、天狗様の前で手を合わせているのだ。これが良くなかったのか、天狗様からは何の答えも得られなかった。

「だめ、金以外の愛ってなに?」オーナメントは再度お願いするが何も浮かばない。「無理か帰ろかな。たぶんこんな質問のこと忘れてくれるだろう。だいたい金と愛の比較なんて、なんでするんだろう」そう思ったオーナメントは天狗様から離れる。
「短歌でも詠もうかな」帰り道オーナメントはそう言って短歌を口づさんだ。

 金なのか 愛が大事か 悩む冬 天狗の木前 答え求めて
(かねなのか あいがだいじか なやむふゆ てんぐのきまえ こたえもとめて)

今回は、毎週ショートショートnoteの企画に参加して短編小説を書きました。(お題:ルールを知らないオーナメント)

さらに山根あきらさん「あなたへの5つの質問」のQ.3も同時参加しました。

ちなみに今日はこちらの記事「富田林の神社の中にある神木」をモチーフにしています。

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