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ハフポスト日本版に、世界と自分がつながっていることを教えてもらいました【退職しました】

約5年間勤めたハフポスト日本版を、退職しました。

毎年、仕事の内容や職責が変わるダイナミックな場所で、ニュースやインタビュー記事の執筆・編集、イベントの企画・運営、出版プロジェクトの立ち上げ、ライブ番組の企画やMC業…と色々経験させていただきました。

(色々やったけど、一貫して「編集者」という意識で取り組んできました)

2017年5月に入社した時、世の中は、女性が生理のしんどさを語ることなんてご法度みたいな空気で、男性で育休をとる人もほぼいなくて、地球温暖化は「地球のバイオリズムの一部だろ」と思っている人もずっとずっと多かったです。

経団連には男性の会長・副会長しかいなかったし、テレワークも全く浸透していなかったし、私たちはまだ、グレタ・トゥーンベリさんを知らなかった。

それから5年で、世界も日本も私も、すごくたくさん変わりました。

ハフポストでの5年間は、人間がまるっきり入れ替わったくらい、学びが多いものでした。

ここに来る前の私は、「努力すれば必ず報われるんだ」「自分の運命は自分でコントロールするしかない」と信じて疑わない自己責任論者だったし、多少の違和感を感じながらもやっぱり、男性優位社会も、学歴至上主義も、ある意味で鵜呑みにして生きてきたような気がします。

ハフポストで学んだのは、そうした思い込みから自分を解放する方法でした。このnoteでは、5年間で学んだことのエッセンスをまとめてみたいと思います。

「いや、誰もアンタの退職エントリ興味ないやろ👊」と何度も自分ツッコミをして、今も公開を躊躇しているくらいなのですが、何とか書いています。

ハフポストで学んだことの最も重要なことの一つが、「個人的なことは社会的なこと」ということだったから。「私」ひとりの経験も、時代の空気、社会の景色を記録するのにまったくの無力ではなかろうと思うので、恥をしのんで書き進めていきたいと思います。

◆体当たりの挑戦の数々

ハフポストでの仕事は、一体これは働いてるのか、遊んでいるのか? と自問自答してしまうような面白いものばかりでした。

自分がドキドキワクワクしていると、読者の皆さんも一緒に高揚してくれることがわかって、手応えの連続でした(笑)。

忘れられない仕事をいくつか振り返ってみると、、
(2.5スクロールくらいで飛ばせるのでスーッといってください🙏スミマセン!!)

500人の読者にコーヒーをおごりました

歌舞伎町のホストクラブで読書会を開きました

みんなで「ヒロシマの空をピカッとさせる」を“二度見”しました

オードリー・タンさんを迎えた日英中3カ国語ライブ配信つくりました

SDGs番組を立ち上げて、二代目・番組パーソナリティを務めました

出演者の女性比率を上げる「50:50」プロジェクトを立ち上げました

能條桃子さんを「U30社外編集委員」にお迎えしました

他にも忘れられないような仕事がたくさんあって、初めてYahoo!トップに記事がのったのも嬉しかったし、ローソン竹増社長とのライブ配信も心臓縮んだし、マイケル・サンデル教授と平野啓一郎さんの対談も痺れまくって最高だったし…本当に数えきれません。

すべてが、形や規模、意味合いに違いこそあれ、公共に資するものであったなら嬉しいです。

(もちろん、どの仕事も「私が」成し遂げたものではなく、竹下隆一郎前編集長はじめ、上司や同僚、多くのパートナー企業の皆様とともに作ったものです。まるで自分の仕事みたいな書き方をしてしまっていますが、全然違いますのでご理解をば…🙇‍♀️)

◆個人と社会。「2軸」で考える。

退職エントリーということでここぞとばかりに色々とお仕事を列挙してしまいましたが……、ガムシャラに働いてきた原動力は何だったんだろう?と考えてみると、それまでの人生に対する後悔も大きかったように思います。

誤解を恐れず告白すると、ハフポストに入ってからの1年くらい、私はそれまでの人生を悔いてばかりいました。

「自分を生きやすくするために」してきたことが、社会の前進を阻んでいたのではないか?という罪悪感をおぼえるシーンが度々あったのです。

例えば、ジェンダーの問題。

10代、20代の自分は、女性としての生きづらさを感じながらも、やはり男性優位社会を所与のものとして受け入れて、内面化してきました。会議の資料もお茶も用意したし、「女性ならではの」意見も求められたし、仲良くしていた後輩の女性社員には、“男社会”をハックする術を語り継いできました。よかれと思って、です。

過去の自分を庇うわけじゃないけれど、「社会構造の歪みに、異議申し立てしてもいいんだ」ということを知らなかったのだと思います。

私は社会とつながっていて、私が声をあげることには「私」と「社会」にとって意味があるーー。

こうした視点を教えてくれたのはもちろん、ハフポストの取材で出会った方々です。

どんなバッシングを受けてもなお、社会を前に押し進めるために戦う人がいました。

あるいは、ニコニコとやり過ごしつつ目の前のチャンスをうまく掴むことで、社会をダイナミックに変えてやろうと企む人がいました。

いずれも、自分の一挙手一投足が、次世代へのバトンになっていく重みを感じている方々でした。

私が後輩にすべきだったのは、男性優位社会のハック術を伝えることではなく、新しい社会のあり方について妄想たっぷりに語り合うことだったのではないかな? と、今ならそう思います。

◆編集者として心掛けた4つのこと

入社当初は上に書いたような焦燥感や罪悪感が原動力でしたが、仕事を通じて社会と繋がることができるのが、どんどん楽しくなっていきました。

他者を知り、世界について学び、それを読者の皆さんに伝わるように「どう編集するか」工夫する日々でした。

「編集」という仕事は、本当に奥が深い。たった一つの正解がないので、時間があればいつまでもやってしまう仕事です(笑)。さまざまな観点が交錯する作業ですが、特に大事にしてきたことを4点、書き留めたいと思います。

これからも編集者として生きていく上で忘れたくない視点として、未来の自分への「申し送り」でもあります。

①情報収集は、「地理」と「歴史」で。

編集者の仕事は、毎日が新しいことの連続です。時事ニュースやトレンドだけでなく、自分が不勉強な領域にも常に乗り出していかなくてはなりません。

そんな時、「地理」と「歴史」で情報収集し、物事を把握するという手法を実践していました。

例えば、グレタ・トゥーンベリさんの学校ストライキ(Fridays For Future)が大きく報道され始めた頃、私は「気候変動」というテーマについて、それまで以上に関心を寄せるようになりました。

そんな時も、

・地理=日本はこうだけど、ヨーロッパはどう?アメリカは?アジアは?
・歴史=今はこうだけど、昔はこうで、こんな流れで変わってきた

の観点で情報収集する。そうすると、手早く解像度をあげることができて、本来自分が提示したい論点のブラッシュアップに時間と労力をきちんとかけることができます。

気候変動は本当に”待ったなし”の状況なので、手早いキャッチアップは超重要です

これは、竹下・前編集長に伝授してもらった文章術(何かを論じる時に、地理と歴史を書く)がもとになってします。

②みんながしんどい時、最初に死ぬのは誰?

ニュースの仕事をしていて学んだ・意識していた重要な視点の一つが「危機の時に最初に皺寄せがいくのは、普段から弱い立場に立たされている人たちだ」ということです。

新型コロナウイルスが世界に猛威を奮い始めた頃、女性にまつわる痛ましいニュースをたくさん報じました。失業や自殺は、女性により大きな影を落としましたし、DVや性暴力の問題も深刻に…。

先進国と途上国ではワクチンの確保・普及に大きな差がでました。一方、コロナ禍でお金持ちはさらにお金持ちになったとも言われています。

結局、“しんどいところが益々しんどく、オイシイところが益々オイシく”、という構造の中にいるのだと突きつけられます。

残念ながら、この構造的な歪みを一発で正す特効薬はありません。

ただひたすらに、貧困、ジェンダー不平等、教育・経済格差等さまざまな社会問題が、お互いに繋がりあっていることを知り、トレードオフ的な解決でなく"トレードオン"的解決を目指す姿勢を持ち続けるよりほかないのだと思います。

色々なことが「縦割り」で「効率化」される現代社会で、「総合的な」解決を目指すのは本当に難易度が高いことです。でも、だからこそ「みんながしんどい時に、最初に“死ぬ”のは誰なのか?」と想像する力が大いに自分を助けるのではないか、と私は思います。

この視点に興味を持ってくださった方は、酒井功雄さんのこちらの記事も是非お読みください👇

③多様性は「広がって」いるのではない

もう一つ、忘れてはいけない視点は、私たちはこれまで「本当はあるもの」を「ないもの」として隠蔽してきたという事実です。

ジェンダーやセクシュアリティついて議論される機会が増えてきたり、D&IやSDGsなどが語られるようになったりする中で、「多様性の時代なので」「最近はいろんな人がいるので」という枕詞をあちこちで聞くようになりました。

そんな時、「え、ちょっと待って」と内心思います。

セクシュアリティに関する多様性も、得意不得意や趣味嗜好の多様性も、生き方の多様性も、ずっとずっと昔からありました。私たちはそれを「見ないふり」をしてきただけです。

みんなが同じである方が社会全体として「合理性」が高いから。みんなが同じである方が、いま得をしている人が得をキープできるから。そうした理由で隠されていたものが、たくさんあります。

言葉狩りをしたいわけではないけれど、多様性は「広がって」いるのではなく「元々あったのだ」と意識することは、資本主義や社会経済システムのチューニングを迫られる現代においてとっても重要なことだと思っています。

編集者として「何がNew(新しい)のか」への嗅覚も大事ですが、「何が隠されてきたのか?」に目を向けることは同じくらい大切だと思っています。

④ファクトで現在地を確認し、意志で未来をつくる

ここまで書いてきたようなやり方で「世界への解像度」を高めたら、最後はどう伝えるか。

私が大切にしてきたのは、「意志で未来を切り拓く」ということです。

2019年、『FACTFULLNESS』が日本でも空前の大ヒットとなりました。このブームに端を発し、「ファクトやデータを持って語る」という話法がいろんな場所で流行したような気がします。(もちろん一次情報に当たって、ファクトで示すのは報道の基本ですが…)

しかし、こうした傾向と反比例するように「データやファクトで、人は動かない」ということも痛感しました。

(この辺りについては、『事実はなぜ人の意見を変えられないか』(ターリ・シャーロット/ 白揚社、2019年)や『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』(原野守弘/ クロスメディア・パブリッシング、2021年)などが個人的にはめちゃくちゃ刺さりました)

何かを伝えたい時、データだけだとなぜか人は動かない。そこに「意志」と「方向感」がなければ、耳を貸してもらうことはできない。それは記事のpage viewsなどからも明らかでした。

私の場合、直近の1年半は「SDGs」の報道に力を入れてきたのですが、国連で採択された2030年までに達成すべき17のゴール「SDGs」は、ファクトだけを見れば、とても達成できそうには思えません。

「きれいごと」「胡散臭い」と何度も言われました。「”SDGs”なんて言ってるのは日本人だけだよ」と揶揄られることも…。

それでも、「SDGsが達成された世界線に向かっていくんだという意志」を示すことが何より重要だと思ってきました。

時代が「次の一歩」をどちらに踏み出そうとしているのか? 意志を持って読み取り、語り継ぐことが、「ペンは剣より強し」とも言われる「ペン」を持たせてもらっている私たちが果たすべき役割だと思います。

もしもこの先、誰かに何かを伝えたい時に、「こんなにたくさん根拠を示してるのになんで分かってくれないんだろう?」と思ってしまったら、自分の意志と未来への方向感が、プレゼンテーションに含まれているか、体重がちゃんと乗っているか、焦らずサボらず確認したいな、と思います。

◆もう、ほんとに終わりますから…!(笑)

どうしても書き加えたいことをどんどん書いていたら、案の定長くなってしまいました。スミマセン(と、空に向かって謝る)。

奇跡的にここまで読んでくださった方がいらっしゃったら、本当に本当にありがとうございます。

結局、私は何を学んだんだろう?と聞かれたら、要は「世界と自分は繋がっているということ」だと答えたいです。

「自分を幸せにできるのは、結局自分だけ」と思わされるような言説が世の中に溢れているけれど、その「自分」は、実は社会や世界とめちゃくちゃ繋がっています。

「だから何?」と言えばそれまでだけど、「だから何?」のその先を、これからも色々な方々と、あーだこーだお話ししていきたいです。

去ることにはなりましたが、今後もハフポスト日本版が、人の暮らしを照らし、誰かの人生を肯定するメディアであり続けることを祈っています。

そして私は今後も、一人の編集者として、ハフポストに教えてもらったことを世の中にじんわり広めていきたいと思っています。世界を知って、自分を知って、生きやすくなる人が増えるように。

「湯気」という屋号の会社を作ったので、是非お気軽にお声がけください♨️♨️♨️

お世話になった皆様、本当にありがとうございました。

これからもよろしくお願いいたします。

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