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「管理職になること」は唯一の道ではない!?

新年度が始まって2か月がたち、新たな職場や仕事にも慣れてきたと同時に、壁にぶつかる人もでてくる時期じゃないでしょうか。特に、最近管理職になった人にとっては、最初は順調に滑り出したように思っていたのに、どうもチームの雰囲気が落ちてきたなーと感じる時期でもあります。

私はグロービスで、「リーダーシップと人材マネジメント」を教えていますが、クラスには、これから管理職を目指す方や、現在管理職の方がたくさん学びに来られます。しかし、一方で、「自分は管理職に向いてないと思う」という悩みも最近多く聞きます。

今回は、「みんな管理職を目指すべきなのか?」をテーマに書きたいと思います。

管理職になるのは本当に得?

昔から日本では、「管理職になることが素晴らしい」という価値観でキャリアが語られてきました。しかし、最近はその考え方はむしろ少数派になりつつあります。

厚生労働省の「労働経済白書」(2018年版)によると、役職に就いていない人の中で「管理職に昇進したいと思わない」のは6割以上。みなさんの周りにも、「管理職になりたくない」という人は増えているのではないでしょうか。

まず、多くの日本企業では、管理職になるための試験があるため、うまくタイミングが合って受験資格を得て、合格する必要があります。それ自体が面倒に思う人も多いと思います。ちなみに、欧米企業では管理職試験は基本的にないため、管理職になったり外れたりすることは頻繁にあります。

待遇面でいえば、管理職になったあとも順調に出世すれば報酬も上がっていきますが、最近は管理職のポスト自体が減っているので、そうなる人はごくわずかで、実態としては「課長職」や「部下なし管理職」などに留まる人が大半です。

むしろ、管理職になることで時間外労働(残業)手当がつかなくなったり、一般社員のときには手厚かった手当や福利厚生が対象から外れてしまったりもします。

仕事面を見ると、自分の仕事をすれば良いだけではなく、部下を育成しながらミスをフォローしたり、他部署との調整や、上司からの無茶ぶりに板挟みされたりして、ストレスと大量の雑務を抱えている人も多いのではないでしょうか。

こうした上司の姿を目の当たりにしている若手社員からすれば、管理職に魅力を感じない人が増えるのも当然でしょう。

管理職にまったく興味を持てなかったキャリアのスタート

私は、前職のグリコで人事役員を退任するまで20年間管理職でした。そう聞くと管理職を目指してたように思われるかもしれませんが、実はキャリアを歩み始めたころは、管理職になることにまったく興味を持てず、それよりも「自分の専門性を磨いてプロフェッショナルとして生きていきたい」と考えていました。

ただ、外資企業でマーケターだった20代のあるとき、自分が打ち込んでいた仕事に対して、会社が下した意思決定にどうしても納得がいかず、上司に自分の考えをぶつけました。すると、「これが組織だ。気にいらないなら意思決定できる立場になれ」とあっさり言われ、呆然となってしまいました。そして、この経験が私の気持ちを大きく変えました。

「こんな意思決定は間違っているし、同じ意思決定をするにしても、チームメンバーが理不尽を感じないやり方があったはずだ」

自分と同じ思いを同僚や後輩が経験しないで済むようにするには、自分が意思決定できるところまで上り詰めるしかない。大きな組織でマネジメントとして自分で意思決定しよう。と決心して、とにかく組織の意思決定の場に関わらせてもらうように上司に頼み込み、管理職としてのキャリアを歩み始めました。

今考えれば、当時の上司の言っていることも判断も間違っていないと思うので、もしこの経験がもう少し後であれば、「了解ですー」で終わっていたでしょうし、特に管理職を目指すこともなかったかもしれませんが、このたった一言が、若かった私に火をつけ、その後の私のキャリアを180度変えました。

管理職としての自分のキャリアを振り返ると、仕事の時間のうちほぼ半分くらいはメンバーのために費やしてきたと思います。また、さまざまな社内政治や、時にはリストラなど、決して楽しくない仕事も多く経験しました。

自分の専門性を高めることだけを考えるのであれば遠回りだったかもしれません。しかし今の私があるのは、間違いなくこれまでのいろんな会社や組織のメンバーとの出会いと信頼関係があったおかげですし、リーダーとして重圧や責任を経験してきたことが、自分のビジネスパーソンとしての引き出しを何十倍にも広げてくれたと確信できます。

管理職を目指すとしたらいつなのか?

人事としてたくさんのリーダーを育ててきて、いまも年間1000人にリーダーシップを教えている自分の立場からすると、自分の仕事と矛盾するようにも思うのですが、結論から言うと、私は「みんなが管理職を目指す必要はまったくない」と考えています。

今はジョブ型人事制度に代表されるように、日本企業も専門性の時代になってきて、管理職にならなくてもプロフェッショナルとしてキャリアを作れるようになってきているので、給料を上げるという意味でも管理職になることだけが道ではありません。

なりたくないと思う人は無理になろうとせずに、専門性を磨いてください。しかし、私がかつて経験したように、もし何かをきっかけにして、自分のなかに「管理職になろう」と思う理由ができて、チャンスがあれば、そのときが管理職を目指すべきときです。

多くの人が勘違いしているのですが、管理職に向き不向きはありません。管理職として成功するためのリーダーシップスキルは学習して習得できるスキルなので、人によって得意不得意はあるものの、後天的にいつでも学ぶことでき、誰でも良いリーダーになれる可能性があります。若いから良い、年齢を重ねているから良いということもありません。私のトレーニングを受講される方も、最初は「自分はまったく管理職に向いてないと思う」と言っていても、最後には「できる気がする」といって帰っていく方がたくさんいます。

管理職を目指すタイミングはいつ来るか分かりません。焦らず、無理せず、自分のなかに火がつくタイミングがくれば、自分の視野を広げるひとつの経験としてぜひチャレンジしてみてください!


「人事や経営を目指す方の教科書」として多くの方に読まれてすでに8刷!人と組織の戦略にご興味のある方はぜひ読んでみてください。

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