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ターンテーブル

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。
テーマは、ダークマター に続き 「ターンテーブル」 です。

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疲れ果てて家に帰る。
ビールの缶を開け、最近気に入っているレコードをかける。

仕事に追われている。
家のソファーでひとり音楽を聴きながらビールを飲むこの時間がなければ、
わたしの暮らしはもうわたしのものとは言えなくなるだろう。
仕事のために起き、仕事のために着替え、
仕事のために食事をし、仕事に備えて眠る。

レコードが回る。
わたしはターンテーブルを見つめる。

曲の始めから終わりまで、ただ規則的に回る。
ずっと同じところを、ずっと同じように回る。
見ていて飽きない。

だんだんと、自分の意識がその規則的な回転の繰り返しに溶けていく。

終わりも始まりも分からなくなって、
追っているのか追われているのかも分からない。

結局のところ、ずっと同じが気持ちいいのだ。
何も考えず、ただ繰り返す。
動き続けていられることは、気持ちいい。

気持ちいいまま、動き続けて、立ち止まるのが怖くなった。
だから動き続けてきた。
大きな渦の中を、止まることなく。

同じように見えていても、
そこにはちゃんと坂があって、凹凸があって、波がある、のかもしれない。
そうだとしても、気が付くのはもっとずっと後のことだろう。

今はただ、同じところをぐるぐると回る。

自分にとって気持ちいいように。
自分のリズムで回れば、それでいい。

A面が終わった。
レコードを裏返し、針をのせる。
わたしはまた、その回転を見つめる。

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次回は
ターンテーブ → 「留守」です。
友人の、なしころもサクサク(@jupiter_00270)が担当します。

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