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LINE Payの思い出

LINE PayとPayPayの連携が発表された。

僕とLINE Payの出会いは3年前に遡る。
2018年1月にLINE Fukuokaに転職するまでは、圧倒的現金ラバーだった。
郷に入っては郷に従え精神で使い始めたものの、あの頃はまだローソンくらいしか使える店が無く、「うーん」という感じだった。

ところが同時期に政府が「2025年までにキャッシュレス比率40%に」という目標を打ち出したことをきっかけに、社会の空気がガラッと変わった。

すでにLINE社としては「FintechとAI」を戦略事業と設定しており、LINE Payはその筆頭だった。
それに加え、福岡市の高島市長がいち早く本気でキャッシュレスに取り組むことを宣言。官民連携で「キャッシュレス実証実験」が行われることが決まり、2018年5月に事業者の選定(公募)が行われることになった。

福岡市公募の思い出

公募は2つの部門から成る。

(1)公共施設
博物館や美術館など市の施設の利用料金をキャッシュレス化する
※1社のみ採択
(2)民間施設
福岡市が仲介役となり、タクシー協会や屋台や空港などをキャッシュレス化する
※複数社採択

ちなみに、当時のキャッシュレス業界の勢力図はこんな感じだった。

・すでに多くのユーザーを抱えている楽天ペイとLINE Payが有力
・ヤフーとメルカリが決済サービスを立ち上げることが決定
・Origami Payなど、新興のFintech企業
・銀行や通信業界も次々にFintechサービスを企画

すでに戦国時代を予感させる構図になりつつあった。

で、結果としてはこの公募、LINE Payが(1)も(2)もダブル採択という最高の結果になった。

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採択式には、新生ZホールディングスのCo-CEOの出澤さんも福岡まで駆けつけてくれた。

この公募採択に至るまでの紆余曲折を公開しようと思う。

誰も手を挙げない
当時のLINE Fukuokaには現在僕が担当する組織(Smart City戦略室)は存在しておらず、僕自身も経営企画のマネージャーという立ち位置だった。せっかく福岡市の後押しを得ながらLINE Payを推進するチャンスが目の前にあったのに、その提案を考え、採択後にプロジェクトをリードする役割がいなかった。「誰もやらないなら自分がやる」と手を挙げたことで、僕がこの公募を担当することになった。

こわすぎるヤフーとメルカリ
この2社がいつ決済サービスを出してくるのか、全く予想がつかなかった。ヤフーはYahoo!BBで一気にマーケットを制覇した大胆な戦略と営業体制が恐怖だったし、メルカリはフリマの売却金をリアル店舗で利用するエコシステムの魅力さ、それから福岡に新しい拠点を設置したりメルチャリをヒットさせるなど地場での勢力も増していた。この2社がどんな提案をしてくるのかを暗中模索で想像しながら、LINEならではの提案を考えていった。

他社との差別化ポイント
LINEの強みは圧倒的なアクティブユーザー数(現在8600万人)。新たなアプリをダウンロードすることなく、多くの人が毎日使っているアプリ上で決済できる点は、圧倒的な優位性。
また、LINEというコミュニケーションツールとのシナジーによって、決済前後のプロセスにイノベーションを起こせる可能性がある。
それを踏まえ、「決済+α」「決済コミュニケーション」というコンセプトで企画を立案。
ただLINE PayのQRコードを増やしていくだけでなく、ユーザーの行動や店舗経営の変革に向けたマイルストンを描いた。(下図)

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結果的にヤフーとメルカリは参戦せず(この数ヶ月後にPayPayやメルペイが爆誕)、上記のようなLINEの優位性を評価いただき、公共施設・民間施設の2部門での採択に至った。

動物園の思い出

福岡市公共施設のキャッシュレスは、博物館・美術館・動物園からスタートした。特に注力したのが、利用者数が多い動物園。

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今では考えられない、半額キャッシュバックのキャンペーン!このお得さを武器に、真夏の動物園の入口に立ってうちわを配ったりして、みんなで啓蒙活動をした思い出・・・本当に暑かったし、蚊が多かった。
なんとか結果を出したくてそうやって人力で頑張ったし破格のキャンペーンもやったけど、それでも全体の数%程度の人しか使ってくれなかった。

屋台の思い出

福岡といえば屋台。
アナログなイメージの屋台とキャッシュレスのギャップ、福岡を象徴する観光資源、といった要素からPR効果もあると思い、屋台への導入に注力。

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屋台で半額キャッシュバックってやばい・・・
これは2018年の9月〜10月頃やったキャンペーンなのだが、まだその当時もスマホ決済は黎明期で、これもあんまり利用が伸びなかった。
もし今同じキャンペーンをやったら(コロナは一旦考えないものとして)、多分殺到してえらいことになる。

PayPayの衝撃

屋台のキャンペーンの直後、ついにPayPayが爆誕。年末商戦、特に家電に狙いを定めたプロモーションを実施。

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景表法ギリギリラインなのでは?と思わせるほど大胆かつ巧妙なマーケティング。ビックカメラをメッカとしてユーザーとメディアを集め、一気に話題をつくり、そのバラ撒かれた100億円の恩恵を受けるために加盟店申込が殺到。ほんの数ヶ月で、勢力図を塗り替えた。

福岡におけるLINE Payの天下

これは、2019年4月時点での福岡県民942人を対象とした調査結果である。
PayPayの100億円キャンペーンの勢いを感じながらも、かろうじて首位を維持していた。

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理由は2つ。
1つは、前述の半額キャンペーンなどが地味に効き、着実にユーザー数を伸ばせていたから。
もう1つは、福岡市との連携。

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福岡市の区役所にはこんな懸垂幕が掲げられていて、LINE Pay=福岡市のオフィシャル決済サービスのような印象を与えることができていた。
ゆえにPayPayが全国制覇し始めた2019年4月時点でも、かろうじて福岡はLINE Payがその座を譲っていなかったんだと思う。

LINE Payの300億円キャンペーンと、コスト適正化

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PayPayと真っ向勝負。PayPayの100億円を圧倒する、300億円のキャンペーン。これも強烈なインパクトがあった。
この時期、メルペイやd払いなど他社のサービスも次々とキャンペーンを打ち出し、ユーザーもイナゴの大群のようにキャンペーンごとに複数の決済サービスを転々とするようになった。

これは、市場としては非常に危険な状態である。ネット上では札束の叩き合いといった表現がされ、悪く言えば「金でユーザーを買っている」状態。
ピュアなサービス競争ではなくなってきたいた。

LINEの冷静な経営ボードはマーケティングコストの適正化を行った。

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福岡独自で取り組んでいた、決済サービスの磨き込み

僕はLINEの社員である以前に一人の消費者であり、LINE Payのユーザーである。正直なところQRコード決済そのものだけでは便利とは言い切れないと思っている。
あくまでも現金の代替手段であって、消費行動そのものに変化がないからだ。

私たちLINE Fukuoka Smart City戦略室では、2019年1月から消費行動そのものに変化を与える、新しいキャッシュレスのかたちに取り組んできた。

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これはフードコートでの利用を想定し、博多駅前での1dayイベントで導入したプロトタイプ。決済だけでなく、「注文」や「呼び出し」というコミュニケーションもLINEが担うようにサービス設計した。

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これまでLINE PayやPayPayのプロモーションの中心であった「お得さ」ではなく「並ばない便利さ」によって、利用を促進することができ、手応えを得た。このプロトタイプをもとに、すでに福岡市内の至るところでサービス化されている。

・西鉄電車の柳川、太宰府などの観光切符購入
・木の葉モール(SC)のフードコート
・福岡空港のお土産事前購入


近しい取組みで、「粗大ごみの申請」もある。

福岡市の粗大ごみ申請のLINE公式アカウントは友だち数10万人を超え、粗大ごみを申請する市民の3割が利用している。

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このような圧倒的なプロセスイノベーションを実現している。


LINEとPayPayのシナジーでDX加速間違いなし

上記の福岡独自の取組みにより、やはりLINEは「注文」「申請」などコミュニケーションの部分に強みがある。
またPayPayは2021年3月現在、国内で圧倒的No.1のスマホ決済サービスになった。
経営統合のシナジーは、まさにこの部分から生まれる。
例えば自治体DXにおいても、「申請する」だけではなく、「決済する」だけでもなく、「申請して決済する」という便利な体験をつくることができる。
ちなみに前述の粗大ごみについては、市民の3割がLINEで申請するが、そのうちLINE Payで決済までシームレスに完結させるのは、全体の数%程度である。これは、LINE Payの利用者数の問題が影響しており、PayPayとの連携により数値がさらに増えることは明らかである。

コミュニケーションも決済も、DXにおいてキーワードとしてあげられることが多い。経営統合のシナジーにより、日本のDXは大きく前進すると思う。


LINE Payが教えてくれたこと

福岡でLINE Payと向き合い続けて3年。本当に色んなことがあった。そしてたくさんチャレンジをし、学んだ。

サービスづくりをする者として意識すべきなのは、
ユーザーにお金をバラ撒いて"使わせる"ことではない。
ユーザーの困りごとを解決しユーザーが自然と"使いたくなる"ことだ。

このことを痛いほど気づかせてくれたLINE Payに感謝しつつ、これからも福岡から便利なサービスを作り続けていきたい。



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