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小説・物語・エッセイ

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小説や物語系を入れたマガジンです。黒あげまんじうアカウントで投稿した作品も入れていきます。
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#短編

そうであることは

これはいたって当たり前の話ではあるが、人間は空気を吸わない事には生きていけないのだ。

それと同時に生きているということは何かを得て生きるという事なのだ。

そうとは知らずに生きている人間がたくさんいる事を知ってか知らぬか彼女はまた何も知らないご様子で味噌汁をすすって文句を言ってきた。

「味が濃い」

いつもながら我儘ではあるのだけれど、彼女も何かを得ない事には生きていけないわけでそれを提供する

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短編小説【○れ】

人気のない暗い夜道に酔った男が、道に落ちている黒くブヨっとした何かを見つけた。

「これはなんだ~?」

男は酔が深いせいかなんの躊躇なしに好奇心だけでそれをつまみ上げた。

おおよそ20センチほどだろうか、そのブヨブヨしたそれはあまりに柔らかく、少しの振動で大きく上下に揺れていた。

スライムとも違う。スライムよりかはもっと硬い。耳たぶよりも柔らかい。餅とも違う。引っ張っても弾力があってちぎれそ

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短編小説【はな】

「あれ?ないなぁ…。」

声のする方を見てみるとそこには同僚がカバンを漁っている背中があった。

夕方、仕事が終わって俺とその同僚以外はみんな帰ってしまったが、その同僚は少し薄暗くなった部屋でガサガサとしつこくカバンを見ていた。

「何がないんだい?」

そう声をかけると同僚はカバンを漁りながらこう言った。

「僕のはながないんだ。」

「花?男が花を持ってるなんて珍しいな。」

「いいや、僕の顔

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短編小説【庭】

2メートルほどの塀に囲われた50坪ぐらい庭。その中心にある小さい小屋が私の住まい。
私の仕事はこの庭の雑草を抜いたり手入れをすることだ。

週に2日ほど塀に直接埋め込まれた大きなポストに生活に必要な物資が届くが、それ以外に私はなんの変化がない生活。
本棚にある本と対話するだけが私の唯一のコミュニケーションだ。

毎日聞こえるのは風の音か雨の音か草木が揺れる音か鳥たちの鳴き声。

手には雑草を抜き続

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