見出し画像

シリア”オリエントの真珠” | ミュージック・ジャーニーvol.75

皆さん、民音ミュージック・ジャーニーへようこそ。

今年は、日本とシリアの外交関係樹立70周年となります。しかし、両国における文化や経済の交流は、シルクロードを通じた数千年前にまで遡ることができます。

今回は両国交流の一環として、駐日シリア・アラブ共和国大使館の皆様とともに、豊かな文化を持つシリア・アラブ共和国を巡る旅に皆様をご案内いたします。

シリアの旅のしおり
・世界最古の首都ダマスカスの歴史を学ぼう
・シリアの6つの世界遺産を見つけよう
・何千年もの歴史をもつ手作りの伝統工芸品を見てみよう
・豊かな太陽と自然の恵みがたっぷりのシリア料理を味わってみよう
・シリアの人々やその文化、伝統について知ろう
・寄木細工の技術でできた「ウード」の音色を聴いてみよう

シリアは日本と同じくアジア大陸に属し、地中海に面した中東に位置しています。シリアの地形は、中央部から東部にまたがる半砂漠地帯、東部から北部、南部にかけて広がるユーフラテス川に恵まれた農業地帯、西部の美しい原生林など、地域によってさまざまな特徴を持ちます。そのため、気候の性質もエリアによって異なります。内陸部では夏は暑く乾燥し、冬は寒くなるのに対し、沿岸部では穏やかな気候になるのが特徴です。過ごしやすい気候で晴れた日を楽しむには、春(3月~6月)と秋(9月~11月)にシリアを訪れるのがおすすめです。

編集部の“イチ押し”アーティスト:サバーフ・ファフリー

今回の旅は、アラブ世界で最も著名な歌手の一人とされるシリア出身の歌手「サバーフ・ファフリー」の楽曲から始めましょう。

彼は、ムワッシャフ(9世紀にアンダルシアのアラブ人が確立したアラブ音楽と歌)の普及と発展、マカームなどのアラブ古典音楽の保存に尽力しました。ベネズエラのカラカスで、10時間休みなく歌い続けた偉業はギネスブックにも登録されています。

また、70年以上にも及ぶキャリアでの功績が認められ、シリアのバッシャール・アサド大統領から、シリア・アラブ共和国の功労勲章が授与されました。

本日は、「サバーフ・ファフリー」による音楽の夕べをご覧ください。
※冒頭はシリアの伝統楽器カーヌーンの演奏があり、開始4分頃から「サバーフ・ファフリー」が歌い始めます。

世界遺産にも登録された古代都市 首都ダマスカス

首都のダマスカスは、古代より「オリエントの真珠」と称されてきた世界最古の都市の一つです。紀元前8000年から人が住んでいたとされており、人が居住し続けてきた都市として、世界でもっとも古い歴史を持っています。

紀元前3000年頃にメソポタミアと地中海を結ぶ要衝地として発展し、紀元前1世紀頃にはヘレニズムやローマ文化の中心地として栄え、7世紀には中央アジアからフランスまで広がるウマイヤ朝の首都として、世界有数の文明を開花させました。多様な文化の影響が残るダマスカスの旧市街は、その歴史的価値が評価され、1979年には世界文化遺産に登録されています。

ダマスカスの歴史を示す代表的な建造物としては、イスラーム教4大聖地の一つである「ウマイヤド・モスク」が有名です。

シリアの世界遺産

シリアは耕作や牧畜の発見、車輪のついた乗り物の発明、情報の記録や発信を容易にしたアルファベットに至るまで、数多くの重要な発明がなされたことから、「文明のゆりかご」と考えられています。これまで、以下の6ヶ所がユネスコの世界遺産に登録されています。

古都ダマスカス(1979年登録)

古代都市ボスラ(1980年登録)

パルミラの遺跡(1980年登録)

古都アレッポ (1986年登録)

クラック・デ・シュヴァリエとサラディン城 (2006年登録)

シリア北部の古代村落群 (2011年登録)

伝統を守り受け継ぐフレンドリーで寛大なシリアの人々

シリアの人々はとても親しみやすく、観光客も笑顔で迎えてくれるフレンドリーな気質を持っています。必要があれば手助けや道案内も積極的に行い、お店ではお菓子などの試食もさせてくれるなど、「おもてなしの精神」は日本と共通するところといえるかもしれません。

そんなシリアの人々にとって、家族は欠かせない要素であり、ほぼ毎週のように集まります。親や高齢者への敬意、困っている人への援助などは、シリア文明やイスラム教から長年受け継がれた大切な価値観の一つとされています。

現在のシリアの人々は、経済的な苦しみなどを抱えながらも、こうした伝統を大切に守り続けています。また、ダマスカス、アレッポ、ホメス、ラタキアなどの主要都市では、少しずつ社会的安定を取り戻し始めたことで、さまざまな国からの訪問者を受け入れはじめています。

“美食の国”シリアの料理とお菓子

シリアは中東のなかでも美食の国として知られています。シリアの料理は、中東料理の起源とされており、地中海料理とメソポタミア料理の両方に影響を与えたと言われています。

長い歴史を通じて、シリアで暮らす人々の習慣と融合することで発展してきました。代表的なシリア料理を通して、その豊かな食文化を探ってみましょう。

前菜(メッゼ)

シリア料理には数十種類の前菜が存在しますが、なかでも有名なのは、フンムス(ひよこ豆の料理)、ムタッバル(ナスの料理)、ムハンマラ(赤ピーマンの料理)、タッブーレ(細かく刻んだパセリの料理)、ヤランジ(ブドウの葉で包んだ料理)、ファターエル(生地に肉や野菜を詰めた料理)、マアムーニーエ(砂糖の入ったセモリナ粉のお菓子)、ファッテ(パンを漬したひよこ豆のペースト)などです。

ヤブラク

ブドウの葉で米と肉を包み、ニンニク入りのレモン汁で煮て、子羊のモモ肉に乗せて食べるメインディッシュです。調理に時間がかかりますが、「あまりのおいしさに食べ終わるのはあっという間」「一度食べ始めるとお皿が空になるまで止められない」などと言われています。

シャーワルマー

シャーワルマーは、味付けしてマリネした羊肉、牛肉、あるいは鶏肉を薄く切り、1メートル20センチほどの長さの串に刺して、モーターで動くヒーターの前でゆっくりと回転させながら、外側から焼いていきます。この時、ジューシーさと風味を出すために、脂身も加えるのがポイントです。その後、切り落とした肉にクミン、カルダモン、シナモン、ターメリック、パプリカなどのスパイスを馴染ませて仕上げます。

焼き上がったシャーワルマーは、平たいパンにガーリックソースやタヒニソース、フライドポテト、ピクルスをサンドイッチのように挟んだり、包んだりして食べるのが一般的です。

なお、シャーワルマーはおよそ120年前にダマスカスで考案された料理で、トルコやギリシャのドネル・ケバブやジャイロとは起源が異なります。

ソウルフード「クッべ」

クッベはブルグル小麦と肉を細かく叩いてペースト状にし、焼いた松の実やクルミ、スパイスとともにボール状にした料理です。シリアで生まれ、その後周辺国に広まったとされています。食べ方にはさまざまなバリエーションがあり、お盆の上に重ねて焼いたり揚げたり、ザクロなどのジュースと一緒に調理をしたり、ときには生で食べたりすることもあります。シリアでは、90種類以上のクッベが知られており、親戚や近所の人が集まって、一度に何百個もまとめて作ることもあります。前菜にもメインディッシュにもなる料理です。

奥深い魅力を持つシリアのお菓子

甘いもの好きの人が多いシリアには、名物のお菓子が数多く存在します。たとえば、小麦粉やセモリナ粉でできた生地にナッツなどを混ぜ、その中にデーツペーストやピスタチオ、クルミを入れて焼く「マアムール」は、可愛らしい見た目と素朴な味わいが愛される焼菓子です。

また、世界有数のピスタチオの産地でもあるシリアでは、ピスタチオを使ったお菓子も有名です。サックリとしたパイ生地に刻んだクルミやピスタチオを挟み、甘いシロップをかけた「バクラヴァ」は、ザクザクとした食感と自然な甘さが後を引く伝統菓子です。

シリアの伝統工芸

数千年の長い歴史を持つシリアでは、さまざまな文化が発展していきました。そのなかから、まずは伝統工芸についてご紹介します。

ダマスカスの寄木細工

ダマスカスで発展した寄木細工は、精巧な仕上がりと品質の高さに特色があり、世界でも広く知られる伝統文化の一つです。その技術はシルクロードを通って日本にも伝来し、箱根寄木細工のルーツになったとも言われています。

サーブーン・ハラブ(アレッポ石鹸)

アレッポ石鹸は、シリアのアレッポ市にちなんだ手作りの固形石鹸です。オリーブ油と灰汁から作られる固形石鹸で、カスチール石鹸(天然オイルを元にした石鹸)に分類されますが、成分にローリエオイルを含む点がその他の石鹸との大きな違いです。アレッポ石鹸の起源は不明ですが、エジプトのクレオパトラ女王やシリアのゼノビア女王が使用していたとされるなど、その歴史はとても古いです。

ブロケード(ダマスク織)

ダマスク織とは、王や皇帝のために作られた、シャトル織り機で作られる装飾性に富んだ織物の一種です。通常は色彩豊かなシルクのみで作られますが、金糸や銀糸が使われることもあります。先代のエリザベス女王の有名なウエディングドレスには、2羽の愛の鳥がキスをしている絵が描かれており、ダマスカスから輸入されたダマスク織生地が使われていました。種類やデザインが日本の絹織物と似ていることから、シルクロードを経由していたのではないかとされています。その起源についてはさらなる研究が待たれます。

日本とシリアを結ぶアラビア語

ここ数十年で、アラビア語を学ぶ日本の若者は増え、なかには実際にシリアで学んでいる人もいます。日本の多くの大学でもアラビア語を教える授業があり、何百人もの日本人学生が受講しています。

シリアは、愛や情熱で満ちた詩など、アラビア語の文化の保存を主導してきた国としてアラブ世界のなかでも知られています。昨年は、日本の学生がシリアの詩を朗読するコンクールが開催されました。ここで、その模様をご覧ください。

シリアの音楽文化

音楽が人類の誕生とともに生まれたように、シリアでも人々が暮らし始めた当初から音楽が育まれてきました。古代都市のマリやエブラなどでは、音楽の旋律や楽器が発展しました。

シリア国立博物館には、紀元前1400年、世界最古の歌の記録とされるマリ王国のイシュタル神殿(紀元前2900年)の歌手ウル・ナンシェ(オルニナ)の像や、シリア北部の岬にある古代アムル人の都市ウガリットから出土した粘土板が展示されています。

ここで、歴史上最古と言われるシリア音楽の演奏をお楽しみください。
※映像の4分45秒から、歌が始まります

シリアの伝統楽器

シリアには多くの伝統楽器があり、そのうちのいくつかは民音音楽博物館にも所蔵されています。

ウード
シリアで演奏されている伝統的なリュート。クルミやバラ、ポプラ、黒檀、アプリコットなどの木で作られた洋ナシ型の共鳴胴を持ち、美しく豊かな音色が特徴。製作には25日間を要し、木材を硬化するまで乾燥させた後、耐久性を高めるために15日間かけて水と蒸気で処理される。ウードの製作と演奏は、2022年にユネスコによってシリアとイランの世界遺産に登録された。


カーヌーン
台形の箱に多数の弦が張り巡らされたアラブの伝統的な撥弦楽器。紀元前19世紀にアッシリア帝国で発明され、シリアやメソポタミアに広まったとされる。この楽器に影響を受けて、中国では古箏が、日本では琴がそれぞれ発展したと考えられる。


ダルバッケ
面に皮を張ったアラブ音楽の太鼓。数千年前から存在し、メソポタミア、シリア、古代エジプトの文化で使用される。

今回は、1995年に行われた民音公演「シルクロード音楽の旅《9》「遙かなる英雄の道」」より、「剣の舞」「おお恋人よ」伝統舞踊「ダブカ」をダイジェストでお楽しみください。

最後に、駐日シリア・アラブ共和国大使館が推薦する音楽家の演奏をお楽しみください。

1.Nahawand improvisation from Bahr 2021- Kenan Adnawi

2.Syrian Heritage musical tracks- Tanaghum Chorale

3.Chaãm - Lena Chamamyan

皆さん、シリアへの音楽の旅はいかがでしたでしょうか。
音楽の旅はまだまだ続きます。次回もどうぞお楽しみに。

協力、写真提供:駐日シリア・アラブ共和国大使館

Min-On Concert Association
-Music Binds Our Hearts-

ご案内

この記事は英文での提供もしています。
https://www.min-on.org/15237/min-on-music-journey-no-75-syrian-arab-republic/

民音は、ミュージック・ジャーニーをはじめ、様々な音楽コンテンツを発信しております。詳しくは、公式SNS、YouTube、WEBサイトをご覧ください。スキやフォローいただければ幸いです。

・公式YouTubeチャンネル 「民音 Min-On」
https://www.youtube.com/channel/UCpRUH9jeJvYVjef7tklWQ-Q
・サブYouTubeチャンネル 「みんなで音むすび」
https://www.youtube.com/channel/UCPZ_9drTre43tshiX2ZuiyA
・インスタグラム https://www.instagram.com/min_on_official/
・Twitter https://twitter.com/minon_official
・Facebook https://www.facebook.com/MinOnConcertAssociation/
・公式WEBサイト https://www.min-on.or.jp/