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おおかみを受け入れるてぶくろ


 ウクライナの民話の絵本『てぶくろ』を最近、うちの3歳が気に入っていて毎晩読んでいる。私自身も子供のころ好きで、記憶に残っている絵本だ。

てぶくろ (世界傑作絵本シリーズ)


おじいさんが落としたてぶくろに、ネズミがやってきて住み始めると、カエル、ウサギ、イノシシ…と次々により大きな動物がやってきて一緒に住み始める。
おじいさんの手袋は、いつの間にかドラえもんの四次元ポケットのように明らかに入らない大きさのものを内包している不思議なてぶくろになっている。



やってくる動物には、嫌われ者のおおかみも含まれる。

おや おおかみが きました。

「だれだ、てぶくろに すんでいるのは?」

「くいしんぼねずみと ぴょんぴょんがえると はやあしうさぎと おしゃれぎつね。あなたは?」

「はいいろおおかみだ。おれも いれてくれ」
「まあ いいでしょう」



すんなりと、おおかみもてぶくろの住人に受け入れられる。
てぶくろの懐(なんか変な日本語)の深さに感服する。
その、いつの間にか拡大していく「てぶくろ」は他者を受け入れる心のように感じられるのだ。

 物語において、おおかみは悪役である場合が多い。
彼らはヤギや子豚や赤ずきんを騙し、喰らう。
そして最後にはコテンパンにやつけられる。
グリム童話の『おおかみと七匹のこやぎ』の終わりは壮絶だ。
こやぎたちはおおかみの腹の中から救出され、腹に石を詰められたおおかみは井戸に落ちて死んでしまう。
福音館書店出版のフェリクス・ホフマン作の絵本では、「おおかみ死んだ」と井戸の周りでこやぎたちが踊るラストが印象深い。というか怖い。
また『三匹の子ぶた』では子ぶたの住むレンガの家に煙突から侵入したおおかみは煮え滾る鍋の中に落ち、死んでしまう。そのおおかみを子ぶたたちが食すと言う終わり方もあるらしい。
おおかみは嫌われ者で、やつけるためにはどんな手段も厭わない、こちらに危害を加えてくる存在には何をしてもいい。と、いう結末に引いてしまう。


 嫌われ者のおおかみを、残酷な方法でやっつけるより、暴力に暴力で返すより、一緒に収まるのが、好きだなぁ、と思う。
心に、おじいさんの不思議なてぶくろを持っていたいと思う。
他人を許容して生きていきたい。
一人では生きていけないし、きっと一緒だったら、あの雪にまみれた手袋はもっと暖かいと思うから。少し、狭いかもしれないけれど、それはきっと不快な狭さじゃない。だって、絵本の動物たちの顔は最後までみんな穏やかだから。入った分、手袋は拡がっていくのだ。
他人のことを受け入れた分、世界が拡がっていくように。

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