「窓明かりのパレット」 #冬ピリカ応募
バイトをズル休みした僕は、その日は絵を描くはずだった。はず......というのは、結局こんな時間になっても僕はラフ画のひとつさえ描けていないからだ。グループ展まであと1ヶ月。出す作品は一向に進まない。
たかがグループ展じゃないか......気楽に描けばいい。どうせ一緒に出すのは基礎デッサンもなってない素人作家。良いも悪いも分からない客ばかりが来るに決まってる。濁った感情がぐるぐると頭を這うのが気持ち悪くて、深呼吸する。キンと冷たい空気を肺で感じながら、月を見た。.......さっと目で三日月をなぞり、色をのせ、頭の中で月をトレースする。次はあのアパートにしよう。そんなことを考えて目を凝らすと、そこに人影があることに気付く。
人影はゆっくり腕を伸ばし、アパートの窓明かりを摘んで何かに入れた。そしてまた腕を伸ばす。よく見ると、手元にあるのはパレットだった。そこに明かりを入れているのだ。いくつかの明かりを残し、くるりと向きを変えたのは、白い顎髭をたくわえた老人であった。今度は少し先のビルへ歩いていく。そして、また窓明かりを摘む。もういっぱいになったのか、三階端の窓明かりを摘んだ後、パタンとパレットを閉じ、今度は少し早足で歩き出した。
公園の芝生の真ん中に、リュックから取り出した小さな折り畳み椅子を置き、腰掛ける。パレットを開き、筆を握る。彼が筆先を置いたのは......夜空だったーー。
「君も絵を描くのかな?」
突然の問いかけに僕は固まる。
「私は星を描いているんだ。見ていくかい?」
柔らかい声に、僕は無言で歩み寄った。空を見上げる。
「この辺はもう少し、楽しい明かりで描こうと思うんだが、君はどう思う?」
「明かりに楽しいとか、悲しいがあるんですか?」
「そりゃあ、あるに決まってる。そのために集めてるんだから」
老人は朗らかに笑う。
「この明かりは、家族の明かりだ。何かいいことがあったのかな。ほら、ポカポカ温かい感じがするだろう? こっちは、一人暮らしの青年の明かりだ。故郷を思い出したのかな。少し淋しい感じがするだろう」
言われてみると、それぞれの色や輝きにはドラマがあるような気がした。
「なぜ、窓明かりで星を描くんですか?」
「星はいろんな人が見るだろう。いろんな思いで。空を見上げた時に、気持ちに寄り添う星があったら、素敵じゃないか」
「毎日描くんですか?」
「描くねえ」
「曇りや雨の日も?」
「そりゃあ、描くに決まってる。見えないから描かなくていいというのは、ダメだな。きちんとあるってことが大事なんだ」
僕は泣いていた。
「そうですね、あの辺りは楽しいよりも、優しい明かりで描いてみるのはどうでしょう?」
「ああ、それもいいねえ」
そう、嬉しそうに言った老人が筆先につけたのは、グループ展に誘ってくれた友人宅の窓明かりであった。
ほんのりオレンジが滲む優しい星が、空にトン、トン、と描かれた。
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ピリカさんの【冬ピリカグランプリ】に参加します。
私が大好きなメンバーが運営するこの企画。
しかもなんと!
今回は特別審査員にはあの小牧幸助さんが!
何だか緊張します。笑
よろしくお願いします〜
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