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あたらよ『新月がくる』

新月は道に迷ってしまう。
道標がひとつないだけで、わたしたちは簡単に迷ってしまうからどうしようもない。


満月の日は、少し気持ちが高ぶりやすかったり、心が大きくなったような勘違いをしてしまう。
なんか狼みたいだな、とか思ったりもして。

同じだけ訪れる新月の夜はどことなく静かで、
道標も星も見えない深い黒の空に、きっと動物たちもひっそりと大人しくなるんだろうか。

わたしの体調の変化も、月の満ち欠けと少し重なるところがある。満月も新月も、どちらも大きな波が来る。

けれどわたしは、新月が恋しいと思うときがある。
立ち止まりたいとき。
もう進みたくなくて、うずくまってしまいたいとき。
月が照り輝く夜空の下では、そんなわたしの姿を写してしまうし、
きみに見られてしまうと思うと「立って歩かなきゃ」って、見栄も意地も張ってしまうから。

月のない暗闇の膜を貼る中なら、うずくまってしまっても誰も見ないし、
自分に言い訳もできるでしょう。
「今夜は新月だから」


古から月と太陽は、生きるものの道標だったから。
満月の下で宴をしたり、陽のあるうちにたくさん頑張ったりして。
そして月の見えない日を恐れる。嫌う。
同じ月なのに。

わたしは、立ち止まるために新月というものは在るのだと思う。
だって疲れるじゃない。ずっと光を頼りに歩き続けるなんて。
生き物たちが静かになって、心地いい耳鳴りがするのがすき。
気温も風も少し違って、別の世界に誘われるような感覚がすき。
誰も見てないからって「さぼろう」って、足を止めて。弱い自分になる。

頑張っている自分とともに、弱い自分も共存しているものだから。
新月の夜更けは、自分に少しだけ甘くなっても良いのかなって思う。

好きなチョコレートをひと粒食べて。口の中で噛み砕きながら考える。

「この道は本当に合っているのかな」

甘い香りを飲み込んで、自分と相談する大切な時間。
きっとすきになると思う。

光のない闇夜を恐れないでほしい。
大丈夫、立ち止まってくつろいでいたらすぐにまた会えるんだから。

生きてれば、ちゃんと次に顔を出す月をみれるんだから。

『新月がくる』


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