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【短編】冷凍庫の住人が増えた

ぼくのおばあちゃんの家の、古い冷蔵庫の冷凍庫には氷の人魚が住んでいる。

最初はぼくが仲良くなったけど(ほんとうは仲がいいか分からない。人魚はぼくに、いばっているから)、今ではおばあちゃんも仲良しだ。

ある日曜日におばあちゃんの家に行ったら、おばあちゃんは何かわくわくした顔をしていた。
「ゆずき。ニュースよ、ニュース!」
ぼくは最近はいつも、おばあちゃんの家に行くとすぐ台所へ行き、冷凍庫を開け、氷の人魚にあいさつをする。今日もその台所に入ったところで、人魚に合う前におばあちゃんの「ニュースよ」攻撃にあったのだ。
ぼくは冷凍庫を開ける手を止めた。
「どんな?」
おばあちゃんは目をきらきらさせたまま言う。
「開けてごらん」
ぼくはよく分からないけれど、人魚が教えてくれるのかと思い、古いタイプなので上のほうにあるドア式の冷凍庫を開けた。

「やあ!」
さばさばした男の人のようなあいさつを人魚がした。
ストロベリーという可愛い名前に似合わないあいさつだ。でも顔はいつものように可愛いし、おばあちゃんがストロベリーアイスクリームを食べさせてくれるのでほんのりイチゴアイスの色をしている。
「やあ!」
別の声が続いた。
見ると人魚の横に、人魚と同じくらいの大きさのシロクマがいた。
「ぼく、シロクマの白です。よろしくね」
シロクマの白の挨拶の方が可愛らしかった。
「ぼくはゆずきです。よろしくおねがいします」
ぼくは白に頭を下げて挨拶した。白もぺこりと頭を下げた。
「地球温暖化のせいで住んでいた氷の海がなくなったので、ここに住まわせていただくことになりました。
氷が溶けてしまって(もうだめだ…)と意識がなくなり、目が覚めたらここにいたのです」
白の説明はていねいだった。横で人魚のストロベリーは腰に手をあててえらそうなポーズをして、コーチのように白を見ている。
「というわけで、いっしょにここに住んでるの。好きな食べ物は練乳のかき氷よ。分かった?」
「え!シロクマなのにかき氷?」
ぼくが大きな声をあげるとストロベリーはぼくをきつく睨んだ。
二秒ほどそうして睨まれていて、ぼくはやっと理解した。
もう白は魚とか食べられないんだ。冷凍庫に住む小さな小さなシロクマになったのだから。
「わかった」
ぼくがそう言うと
「挨拶が終わったね。じゃあみんなでアイスでも食べようね」
おばあちゃんがそう言って、みんなに用意してくれた。
氷の人魚とぼくにはレディボーデンのストロベリーアイス、シロクマの白にはカップに入った練乳かき氷アイス。
おばあちゃんはハーゲンダッツの抹茶アイスで、器に移して少し牛乳を掛けて混ぜて食べる。ぼくとおばあちゃんはテーブルで、人魚と白は、冷蔵庫の扉を少しあけて冷気をあびる場所におばあちゃんが用意してくれた小さな箱にすわって食べた。

この日はこんなふうに、みんなでアイスを食べて終わった。
とても小さくて風変わりでも、一緒にアイスクリームを食べるメンバーが増えるとうれしいな、とぼくは思った。
おばあちゃんも、もういつでもこの二人がいるからさみしくないな、と思った。二人がいつまでも溶けないで、おばあちゃんちの冷凍庫に住んでいられますように。

(了)

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