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写真展「border」徹底ガイドvol.8/ 30sec 風景のポートレイト

Wall_Bを見終わると、次はWall_Cとなります。4mの壁を一面使って一本の映像が繰り返されています。

#32 Ishinomaki, Miyagi 2012

■<30sec>
1827年にフランスのニエプスが写真技術を発明したとき、その露光時間は8時間だったという。目の前にある景色をそのまま写し取る…という魔法にも似た技術。その当時に自分が生きていたとすれば、それほど長い時間に感じなかったかもしれない。しかし画像をいかに定着させるか?という目標に向かって技術は1830年代に急速に進化する。ダゲレオタイプ、湿板写真と進化するに従って露光時間は短くなり、幕末の日本にもたらされた頃には30秒ほどで一枚の写真を得ることができるようになっていた。

写真は光の堆積物である。一定の時間に降り注がれた光の束をによって結ばれる画像は、時間が刻む風景の彫刻である。写真を表す古い言葉に「光画」があるが、それはまさに光の画だったと思う。

カメラ技術の進化はシャッタースピードを速くしていった。フィルム時代は125分の1秒とか250分の1秒で撮影していた写真は、デジタル時代になり、4000分の1秒や8000分の1秒という露光も当たり前に出来るようになった。同時にデジタル時代のカメラは「動画」を基本機能とすることで、別の形の「露光時間」を生み出す。カメラが被写体に長時間向き合うことが、100年ぶりに戻ってきたようにも感じる。
<30sec>と名付けたこのシリーズは、150年前の写真が必要としていた「光の束」を使い、新たなポートレートを生み出す試みである。カメラとレンズと30秒という時間を使って、現代のカメラは何を刻み、何を伝えられるのか。

■Ishinomaki, Miyagi 2012.9
東日本大震災でたくさんの人が亡くなった宮城県石巻市。特に甚大な被害を受けた門脇町を2011年の3月以来、繰り返し訪れて来た。今回展示させて頂いた43秒の映像作品は、震災から1年ほどが過ぎた2012年9月に撮影したものである。

人々の生活の痕跡は瓦礫の山となり、その山が少しずつ小さくなっていくと同時に住宅があった場所は緑に覆われた。地盤沈下によって海や川の水が流れ込み、住宅地であった場所はあっという間に大きな池のような空間になり初夏の風に吹かれて草が揺れていた。
この土地が数百年に渡って営み続けて来た「町」というレイヤーが流され、「自然」というレイヤーが(まるで有史以前はこうだったんだと言わんばかりに)それに取って代わった。
水はそれなりの深さがあって、どこから来たのか魚もいた。トンボが飛んで来て産卵をしている。新たな生態系が生まれようとしていた。人の手を離れると、ここまで急速に自然に覆い尽くされてしまうものなのか。

数百分の一秒では伝えきれない光の束を、43秒の風景のポートレートに焼き付けた。

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