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フルブライト奨学金:どんな支援が受けられる?選考プロセスは?

海外留学を実現するためにはさまざまなハードルがありますが、お金の問題は一番重要といってもいいかもしれません。アメリカの大学の学費は(学校やプログラムにもよりますが)かなり高額です。私が通っているニューヨーク大学院は、私立ということもあり、1年間で約5万ドル(500万円)。ニューヨークの家賃は高いので、ほとんどの学生がルームシェアをしていますが、それでも一人あたり月800〜1200ドルが相場です。たまに外食をしたり、映画や娯楽を楽しんだりしたければ、最低でも月20〜23万円ほどの居住・生活費が必要です。

私の場合、働いていた頃の貯金は少しありましたが、とても学費と生活費をすべてカバーできるほどではありませんでした。卒業後日本に帰ってもすぐ動けるように、貯金はある程度残しておきたいところです。奨学金プログラムに複数応募し、給付が受けられなければ海外留学は諦めようと思っていましたが、運よくフルブライト奨学金をいただけることになりました。

フルブライト奨学金の詳しい内容や選考プロセスについて事前にネットでリサーチをしましたが、まとまった情報があまり見当たらず苦労したので、私の経験を書きたいと思います。

フルブライト奨学金とは?

フルブライト・プログラムは、第二次世界大戦後の1945年に、アメリカと諸外国の相互理解を目的として発足した奨学金(詳しい経緯はこちらから見られます)。日本政府とアメリカ政府の資金で運用されています。大学院で学位を取得するプログラムのほか、研究員として派遣されるプログラムや、ジャーナリストを対象にしたものもあります。

出身国によって奨学金の内容は違うようですが、日本の場合、学費から生活費まで、1年目はほぼ全額カバーされるという、とてもありがたい奨学金です。「お金がないのでアルバイトが大変」「貯金を切り崩さなくては」という状況では研究にもなかなか手がつかないと思いますが、フルブライトのサポートのおかげで、学業に集中できています。

以下が、私の場合の1年目の給付内容です。

・学費        ・・・$40,000
・生活費       ・・・$2,093/月、$25,116/年
・書籍代       ・・・$1,200
・コンピューター費用 ・・・$350
・その他諸費用    ・・・$350
・生活補助費     ・・・$3,600
・引っ越し費用    ・・・$2,000
・航空券代カバー   

※プログラムごとの給付内容についてはフルブライトが公開しているので、こちらを参照

生活費補助は、住む都市によって異なります。ニューヨークのような大都市では生活費が高額なので、その分多めに支給されます。フルブライトの健康保険プログラムにも自動的に加入できますが、大学によっては、大学が指定する健康保険に加入する必要があります。ニューヨーク大学の場合、フルブライト健康保険の内容が十分ではないと判断されてしまったので、年間約3,000ドルを自費で支払って別途加入しました。そのほか、寮からアパートに引っ越した際の敷金・礼金、家具代、追加の書籍代、交通費などを含め、1年目は約80万円ほど自己負担しました。

2年目は、1年目の成績に問題がなければ更新され、生活費・学費を含めて上限$25,000までがカバーされます。そのため、2年目に足りない資金は自分で確保する必要があります。私の場合は、貯金を切り崩しつつ、現地でアルバイトを見つけてやりくりしようと計画していましたが、フルブライト奨学生OBの方々が設立した「日米教育交流振興財団」が、現フルブライト生のみを対象に奨学金を提供していることを知り、応募しました。運良く支援いただけることになり、2年目は$25,000の更新に加えて、月々日本円で18万円の生活費の給付があります。来年度以降も募集しているのかは不明ですが、チャレンジする価値はあると思います。

応募の際に考慮すべき「2年ルール」

フルブライト奨学金は、他の奨学金に比べても、金銭的サポートがとても充実しています。そのほかにもメリットはいくつかあります。

例えば、フルブライトが主催するオリエンテーションプログラムのほか、毎月開催されるイベント(ワークショップやアート展示、学術セミナーなど)に無料で参加できます。 世界各国からのフルブライターが集まる機会も年に数回あり、ネットワークを築けるのも魅力です。

また、希望すれば、米国各地で開催されるスタディーセミナーに参加できる機会が年1回あります。

(言うまでもなく、コロナウイルスのパンデミック以降は、残念ながらこうしたイベントやセミナーはすべてキャンセルされました)。

フルブライト ・プログラムの手厚いサポートには本当に感謝しかなく、断然メリットの方が大きいと思います。が、応募する際に考慮すべき点もいくつかあります。

同プログラムで渡米する場合、J-1ビザが必要になります。このビザには、いわゆる「Two-year rule (2年ルール)」が課されていて、プログラムの終了後、自国に2年間住んでからでないと、非移民ビザや永住権の申請ができません。つまり「アメリカに卒業後も留まりたい」「卒業後すぐにアメリカで就職したい」といった場合はそれが難しくなります。Jビザは学術交流を目的としているので、アメリカで得た知見を自国に持ち帰る、という理念のもとで2年ルールが設けられているようです(こちらのブログに詳しく書いてあります)。2年ルールの免除も不可能ではないようですが、卒業後に日本に帰るのか、それとも引き続き国外で 活動したいのかは、考えて応募したほうが良さそうです。

また、フルブライト奨学金は日米政府のサポートで運用されているので、政府による方針や決定に影響を受けることも念頭に置いておくべきだと思います。例えば今回、コロナウイルスの影響で日本に一時帰国し、秋タームに合わせて戻る計画を立てていた友人も多くいるのですが、外務省が米国への渡航勧告(危険度レベル3、渡航中止勧告)を出したことで、ビザを切り替えなければ再入国が難しい状況と聞いています。

選考プロセス:オンライン登録から書類審査まで

選考プロセスは、

1.オンライン申請
2.書類審査
3.面接

の3段階です。概要はこちらで確認できます。

まず、オンライン申請は、毎年5月末が締め切りです。なので今年は、すでに募集は終了しています。これを逃すと、次のステップには進めません。オンライン審査では、研究計画書を提出します。大学院で具体的にどういう研究を行うつもりなのかを説明するものです。研究計画書は、オンライン申請を通過した後の書類審査でより詳細なものを提出することになります。面接でもこの計画書をもとに質問されるので、この段階でできるだけ具体的に書いておくのが良いと思います。書類審査に進むかどうかは、メールで知らせが来ます。私の場合、メールを見返してみたところ、6月17日に「次に進むので書類一式を提出してください」と連絡がきていました。

次は書類一式の準備です。締め切りは7月31日だったので、準備期間は1ヶ月半くらいしかありませんでした。なので、オンライン審査は通過する!と信じて、出来ることは早めにやっておくようにしました。

主な提出書類は、

・Study/research objectives and bibliography(研究計画書:英語)
・Personal statement(自分史:英語・日本語)
・CV(履歴書:英語・日本語)
・英文成績証明書
・英文推薦状

です。履歴書の書き方や推薦状の依頼方法については、インターネットでわりと情報が手に入るので、割愛します。

研究計画書は、オンライン申請で書いたものを元に準備を進めました。Bibliography(参考文献)も付ける必要があり、論文のAbstractとIntroductionを合体させて書くようなイメージです。研究計画の妥当性、自分の研究分野についてどの程度知識を持っているのかが問われます。自分の研究がいまどうなっているのかや、主要な論文に言及して書く必要があります。単に「フェイクニュースの研究をしたい」といった曖昧な内容ではなく、「フェイクニュース時代に即したメディアリテラシー教育プログラムの構築」「2016年の大統領選で拡散されたフェイクニュースの定量化」といったような、リサーチクエスチョンを提示します。

自分史は、以下のような内容が求められます。

It "should be a narrative statement describing how you have achieved your current goals. It should not be a mere listing of facts. It should include information about your education, practical experience, special interests, and career plans. Describe any significant factors that have influenced your educational or professional development. Comment on the number of years of practical experience already completed in the field in which academic work will be done in the U.S. "

(あなたが現在のゴールをどう達成したか、自分史として説明してください。事実を挙列しないこと。あなたの教育、実務経験、興味、キャリアプランを教えてください。あなたの教育・仕事上、何が大きな影響を与えましたか。研究分野での実務経験年数も含めてください)

ここでは、求められている内容に加えて「なぜアメリカで勉強したいのか」「アメリカで学んだことをどうやって日本で活かすのか」について触れました。フルブライト ・プログラムは、日米の交流促進が目的です。つまり、なぜイギリスやドイツやフランスではなく、アメリカで学ばなくてはいけないのかを説明します。例えば、私の場合は「フェイクニュースの研究は、日本では遅れている。アメリカでは2016年の大統領選以降かなり進んでおり、特にXXについての最新知見がある。アメリカで学んだことを持ち帰り、日本でのXXに活かす必要がある」という理由で、アメリカを選んだことを説明しました。

すべての書類に関して、できるだけ内容の重複を避けることも意識しました。例えば、履歴書を見れば分かる情報は、わざわざ自分史でも触れる必要はありません。履歴書に書ききれなかった内容や、特に注目してほしい経験や実績について具体的に書くようにすると、より充実した内容になると思います。

私は、実際にフルブライト・プログラムで留学した先輩の方々につないでもらい、アドバイスをもらえたことが、とても役立ちました。

面接

面接に進む場合も、メールで連絡がきます。私の場合、書類を8月中旬に提出し、結果は10月16日に受け取りました。この時点で、面接日時はすでに設定されており、約2週間後でした。(ちなみに私は「ジャーナリズム」の分野で応募したのですが、その年は同じ分野での応募者が少なかったので、実質の書類選考はなく全員が面接に進んだようです)

面接官は、その分野の専門家(研究者やジャーナリスト)5人と、フルブライト事務局。すべて英語でした。緊張していてあまり覚えていないのですが、実質15-20分ほどだったと思います。

聞かれた内容は、ほぼ全てが研究に直接関連することでした。これは私の場合ですが、具体的には、

「フェイクニュースは問題だが、メディアもセンセーショナルな報道をしてお金を儲けている側面もある。それもフェイクだと思うか」
「ディスインフォメーションとミスインフォメーションの違いは」
「XX大学を志望しているが、具体的にこの教授に指導してもらいたい、というのはあるか。その人はどんな研究をしていて、どんな実績があるのか」
「現在のメディアにおける課題は何だと思うか」

など。その分野の論文や研究に触れながら答えていきました。なぜアメリカでこのテーマを研究するのかも聞かれましたが、提出した自分史の内容に加えて、なぜ自分の研究がユニークなのかも織り交ぜながら話しました。いわゆる圧迫面接のような質問は全くなく、終始和やかな雰囲気でした。

あくまで私の経験なので、もっと違う角度からの質問をされることもあると思います。ただ、自分の研究分野については、日頃から論文を読んでアップデートし、自分の研究計画についても熱意を込めて伝えられるように準備しておくのが良いと感じます。また、「完璧な英語」で話す必要は全くありません。あくまで自分の考えがきちんと伝わることが大切で、英語のスピーキング力を問われるわけではありません。

* * *

フルブライトの募集は、大学院の締め切りに比べてかなり早く始まりますが、後々、大学院に提出する書類にも役立ちます。出願プロセスについての私の個人的な経験は、こちらの記事で紹介しています。

フルブライト以外にもさまざまな奨学金があるので、応募資格を満たしているものはできるだけチャレンジしてみるのが良いと思います。国内奨学金は、こちらのサイトにまとまっています。




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