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余白を探求し、学び続けるプロセスの楽しみ方とは? (WDAインタビュー:栄前田 勝太郎さん)

ワークショップデザイン論を体系的に学び、現場で活きるファシリテーションの力を育む有料コミュニティ『WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)』では、会員専用の様々なコンテンツやオンライングループ内で交流を通じて、ワークショップデザインや周辺領域に対する学びを日々深めています。

本企画では、WDAメンバーの方が普段の生活やお仕事のなかで、どのようにWDAと関わり、学びを得ているのか、お話を伺っていきます。初回となる今回は、サービスデザインの領域を中心に企業と関わり続ける、有限会社リズムタイプ代表取締役・栄前田 勝太郎さんに、インタビューを行ないました。

プロフィール(敬称略)
栄前田 勝太郎/ Katsutaro Eimaeda(有限会社リズムタイプ 代表取締役・デザインストラテジスト)

栄前田さんプロフィール

映像制作会社、Web制作会社を経て2002年にフリーのディレクターとして独立、2005年に有限会社リズムタイプを設立。BtoB向けのWebサイトの企画・構築・運用に関わりつつ、2010年以降、Webサービス開発、サービスデザインに軸足を移す。現在は主にWebサービスのグロースハックやチームビルディングに関わりつつ、組織内の対話の場づくりにもコミットしている。青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラム29期生。著書として『Webディレクションの新・標準ルール』、『Webディレクションの新・標準ルール システム開発編』、『Webサイト、これからどうなるの? キーワードから探るWeb制作の未来像』、『できるところからスタートする コンバージョンアップの手法99』『UIデザイン、みんなで考えカイゼンする』がある。
Twitter: @katsutaro
note:https://note.mu/katsutaro

ー栄前田さんが専門とされているサービスデザインとワークショップデザインは、どのような点で結びついていると感じていますか?

栄前田勝太郎さん(以下、栄前田) サービスデザインという言葉自体は以前からあるものの、ここ数年で広く認知されるようになったと思うのですが、それが示す領域は幅広くいまだに共通言語にはなっていません。今の時代は本当に多様な生活/仕事のスタイルがあり、さまざまな考えを持つ人がいて、さまざまなサービスがありますよね。それは豊かさの証である一方で、何が正解かわからなくなってきているということだと思います。

その中で、手探りではあるけれども、何が正解かを考えながら進めていくというところに、サービスデザインとワークショップデザインとの共通項があると思っています。どちらも誰かから正解が与えられるわけではなく、対話をしながら、その場の中で生まれてくるものを大事にしていますよね。

サービスデザインの領域で改善を行なおうとする場合、サービスやプロダクトそのものだけを見ていても、結局何も解決しないことも多くて、やはりサービスに関わる人や環境にアプローチしていく必要があると感じています。いわゆるデザインシンキングのプロセスを用いて、「共感→問題定義→アイデア創出→プロトタイピング(試作品作り)→検証」のサイクルを早く回そうとするけれど、それだけで本当にユーザーが求めるものにたどり着いたり、イノベーションが起きたりするのだろうか、という疑問は以前からありました。単にフレームに当てはめて考えるだけではなく、それらに加えて、自分たちに対する問いかけや場づくりというものが必要になると考えています。

私は、目に見えていないものを形にしたり、可視化して人に伝えたりすることが“デザイン”だと考えています。たとえイノベーションというほど大きな変化ではないにしろ、視点や立ち位置をちょっと変えて必要な変化を起こすのが、サービスデザインが担う役目で、もう少し言うと、「何かをしたい」という熱量もちろん大切ですが、「変えること自体をどれだけ楽しめるか」というマインドセットの部分も同じくらい大事だと思っています。それがあればイノベーションは後からついてくるのではないか、と考えている節もあります。

なので、テクニカルな部分は他の人に任せてしまって、私自身はもっと人と人との場をつくることに力点を置きたい。そんなふうに思っている状態で、WDAに参加しました。だから、WDAの提供するイベントやコンテツが、思いのほか合致した感覚があって、嬉しかったですね。

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ーWDAが学習の場として特徴的だと思うポイントはどのあたりでしょうか?

栄前田 (講座の中で、ミミクリデザイン代表の)安斎さんが学術的裏付けのある理論や調査研究を踏まえたうえで、ワークショップという活動について説明してくれたのは印象的でした。ワークショップデザインやファシリテーションに関して、しっかりとした学術的研究に基づいた解説を受けた時は、自分の実践を省みて、腹落ちする部分がかなりありました。

あとは、WDAのコンテンツのなかでは研究会が一番好きで、東海大学の富田誠先生がゲストの研究会が特に楽しかった。研究会は、完成した内容が伝えられるのではなく、主宰やゲストの人から出たテーマや問いについてみんなで探求しながら場を作っていく雰囲気が大事にされていますよね。専門性や関心のある参加者同士がそれぞれの目線から意見を出し合って、予想しない展開にもなる。

はじめから、完璧に出来上がった知見やメソッドを使って考えるのではなく、完成度70%くらいのものを共有してもらって、「じゃあここからはみんなで考えてみましょう」というふうに、余白を埋めるように一緒に参加できる感覚があるのがすごく楽しい。自分で考えて自分で解釈する余地があるというのが、すごく良いですね。

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ーWDAに入る前と、入会して約1年半が経った今で、栄前田さんのなかで変化した部分はありますか?

栄前田 そもそも学ぶためにイベントに参加するということや、WDAで紹介される書籍や論文もそうですが、そういうものに対して「学ぼう」という姿勢で向き合えるようになったのは、WDAが起点だったなと思っています。学ぶ姿勢を学んだというか。学ぶことが楽しいと気づいたのは、WDAに入ったからですね。今までは、仕事でワークショップを実践するにしても、けっこう手探りで「あぁかなぁ、こうかなぁ」と言いながらやっていたのですが、書籍を読んだり他のイベントに参加したり、学ぶというマインドセットがつくられました。

ー「学びの姿勢を学んだ」というのは興味深いです。コミュニティのどのあたりからその影響を強く受けたのでしょうか?

栄前田 例えば、WDAの講座や研究会に来ている人たちは、本業以外にも肩書きを持っている人が多いじゃないですか。NPOとか、社団法人とか。それは(WDAを運営する)ミミクリデザインのメンバーも同じで、普段は大学院生として研究しつつ、ミミクリデザインにもコミットしているメンバーが多いですよね。だけど、その二つの肩書きでやってることが、独立しているわけではなく、相まっている。そこに影響受けたのは大きいですね。1つだけで完結するのではなくて、様々な所属で得られた学びを組み合わせて重ねられるように、そして学びと実践を行き来することを、より強く意識して考えるようになりました。

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ー毎週配信される動画やメルマガといった学習コンテンツについては、普段どのように受け取っていますか?

栄前田 WDAに入ったばっかりの頃は、やはりお金を払っていることもあるし、「見なきゃ」と思っていました。だけど、ある時から、楽しいというか、「あ!これ見よっと」と言う感じでさっと自然に見られるようになりました。通勤の時に電車のなかでスマホで見たり、動画は仕事の時に職場の大きいディスプレイに映しっぱなしにしておくとか。結構仕事しながらBGM代わりに流してますよ(笑)

最初の頃は動画を見て、疑問に思うところもあったのですが、別の講座や研究会に参加するうちに、たとえそれが直接関連するテーマというわけでなくとも、なぜか結びついて、「あ、そういうことか」と気づいたりする。そのあたりから、「学ばなきゃ」という気持ちは少しずつ薄れていったような気がします。「もうちょっとインプットすればもっと楽しめそうだよね」というように、興味関心が湧く。学ぶこと自体が楽しかったり、自分の力で結びつけようと思ったり、足りないものを埋めていこうとするのが、私自身が得られたと感じている学びの姿勢です。すごく楽しい。

ーなるほど、ありがとうございます。最後に、今後WDAに期待することを聞かせてください。

栄前田 やっぱり、実験的なやつが楽しいですよね。確立された手法をやるよりも、チャレンジングな内容の方が好きです。世の中にある手法をやってみるだけだと、そこまで興味が湧かないのですが、(実験的なものに対しては)これってあまり聞いたことがないけどちょっと参加してみないととわからないな、と思う。実験したものをそのままというよりは、実験したところで得られた種みたいなものを、自分が持っている物と紐付けて自分の形にしていくのが、研究会の醍醐味だと考えてるので、その辺りを期待しています。

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今回栄前田さんから改めてお話を伺うなかで、探求の姿勢を養うことの重要さ、また探求すること自体の楽しさが、繰り返し語られていたのが印象的でした。ただ与えられるメソッドや知識をただそのまま享受するのでなく、自分が持っている他のノウハウと結びつけながら、身体に馴染ませていく。そのような学びを自ら生成する力や、学びの生成を楽しいと思えるような価値観は、決して一朝一夕で身につくものではないでしょう。だからこそ、学習の促進を目的としたコミュニティを運営するひとりとして、そのような学びの姿勢が形成されるまでのプロセスにWDAが少しでも寄与できていたのだとしたら、これほど嬉しいことはありません。

WDAに所属する人たちの一人ひとりが、主体的に、かつ自分なりに学びを獲得できるコミュニティであるために、今後もある程度の余白を残しつつ、かつ頑張っている人の背中をグッと支えられるよう頑張っていきたいと、強く思わされたひと時でした。

ワークショップデザイン論を体系的に学び現場で活きるファシリテーションの力を育む会員制コミュニティ「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」では現在新規会員を募集しています。興味のある方は下記ウェブページより詳細・申し込み要項をご確認ください。2ヶ月間ご利用いただいてご満足いただけなかった際の返金制度も設けております。


<参考文献>
・山内 裕(2017)「ユーザー<脱>中心サービスデザイン 」, 『サービソロジー = Serviceology : magazine of Society for Serviceology』 2017, 3(4), pp.10-15, サービス学会.

・長谷川 敦士(2016)「サービスデザインの時代:顧客価値に基づくこれからの事業開発アプローチ」

インタビュアー・執筆・写真:水波 洸

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