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夫の会社へのモヤモヤを言語化したら、自分の子育ての目標が見えてきた

ベトナム渡航まで3ヶ月を切り、夫の会社から分厚い封筒が届いた。ビザ準備や引っ越しのための手引き資料が、丁寧な挨拶とともにまとめられている。約2年前、アメリカにも帯同した経験のある私には驚きだった。

当時、私にはこんな資料は案内されていなかったのだ。

私は「駐妻」ではなかった。

駐妻とは駐在妻の略語で、夫の海外駐在についていく配偶者のことを指す。一方、私は夫の社費留学についていった妻であり、厳密にいうと駐妻ではない。言うなれば「留妻」だ。

ただ卒業後の現地法人勤務も決定していたため、転勤辞令も併せて受け取っていた。

「なら転勤は転勤だし、駐妻と変わらないでしょ」

私は簡単に考えていた。

甘かった。

インターネットに点在する駐妻ブログを参考程度に眺めていると「今日は帯同配偶者への説明会だった」「夫の会社の人事から書類を急かされている」「子供の学費補助金のための申請資料を確認」という記事がわんさかでてくる。

ない。うちにはそんな案内全く来ない。渡米まで半年を切っていた。

夫の会社のサポートはこんなものなのか?もしかして忘れられてる?

夫に確認すると簡単に謎は解けた。

「だって留学だから。」

夫によると、留学は駐在とは違って学費を会社にサポートしてもらっている立場だから、学費以外はすべて自分主導で進めるという建て付けなのだそうだ。

そうはいっても、右も左もわからない初海外移住。何をどうすすめればいいのか皆目見当がつかなかった。

そこで彼は一つの資料を手渡してくれた。「これから留学する後輩へ、留学虎の巻」

仰々しいタイトルのワード文書は、歴代の社費留学者たちが困ったことや役に立ったことをまとめ、代々、社費留学生間のみで受け継がれる資料だった。これがとても役に立った。歴代の留学者たちの助言に素直に従って事をすすめ、私たちは無事渡航した。

渡航後、基本給与は3分の2に減った。あの虎の巻に書かれていたから覚悟はしていたし、準備もできていた。一方、人事からは淡々と給与計算書が届いていた。

なぜここまで放置されるのだろう。夫は不満や疑問は感じないのだろうか。彼にそう問うと、「仕方ないよ、留学させてもらってるんだから」と変わらず一点張り。

その話題はケンカの際に持ち出されるものの、毎日の生活に追われ、私の心の奥のモヤモヤとして沈澱していた。

時は過ぎ、アメリカで最初のコロナ感染者が発見されると、あっという間にロックダウンが始まった。夫の現地法人勤務の話は無しになり、日本へと帰国する。そしてベトナムへの赴任辞令。

人事サポートの手厚さは想像をはるかに超えていて、私は「駐妻」ではなかったのだと改めて自覚した。

その情報の不均衡はどこから来るのか

なぜ立派な駐在員向けのテンプレートがあるのに、たった年間数人の留学する社員には資料が配布されないのか。なぜ歴代の留学者たちは人事にあの虎の巻を共有しないのか。

私は両者の間にうっすらと「学ばせてやっている側」と「学ばせてもらっている側」の主従関係のようなものを感じずにはいられなかった。

学ばせてやっている人たちが「金銭を出してやってるのだから、情報のサポートなしでなんとかしろ」ではなく、学ばせてもらっている人たちが「仕事を休んで社費を使っているのだから、情報を与えられないことに文句が言えない」ではなく、対等な立場で情報をシェアして相互利益としていくことはできないのだろうか。

そう考えていると、ふと親と子の関係にも同じような主従関係が成立しうることに気づいた。圧倒的経済力を持つ親とそれに支えられるだけの子供。

果たして私は「こんなにお金を工面して育ててやったのに」と思う日が来ないと言い切れるだろうか。思うだけならまだしも、万が一、思春期で荒れる子供に対して、つい口に出して叱責したりしないだろうか。

もし自分が全く理解できない分野を、彼、彼女らが素直な気持ちで学びたいと思ったら、「お母さん、知らないから教えてくれる?どんなところが素晴らしいと思ったの?」と聞けるだろうか。

私は子供とともに成長したい。誰も知りえない未来に羽ばたこうとする彼らの支えになってやりたいし、同じくらい彼らから学びたい。そんな関係性がお互いの人生をより豊かにすると思う。

***

夫の会社へのモヤモヤはまだ消えないけれど、子育てにひとつの指標を与えてくれた会社に少しだけ感謝もしている。

駐妻としてまだまだ成長途上な私の、ささやかな抵抗をこれからも綴っていこうと思う。

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