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1ヶ月後にリストラされる社畜の僕と明日面接がある就活生の彼女|創作

僕は今日リストラが決まった。
いや正確には今日ではない。覚悟をしていたのは1ヶ月前だ。

僕が勤める会社は大きくもなく小さくもない、いわゆる中小企業。
IT系のよくある会社だ。

しかし、最近のご時世もあり、業績は徐々に悪化していった。
僕はこの会社に新卒で入社して、やっと1年が経ったというのに、こんな風になるとは思っていなかった。

僕はこの会社の理念に共感して入社を決めた。
入る前から従業員がそんなにいないことも知っていたし、業務量が多そうなのもわかっていた。

だから、僕はきっと社畜になる覚悟で覚悟で志望していた。
それでもよかった。若いうちはいろんな経験をして、どんどん成長したかった。

それなのに。


…………………


23時。1人で帰っていると、こんなことを考えてしまう。
夜にSNSをやってはいけないって誰かが言っていたのは正しいな。

リストラが決まったというのに、この真面目な性格のせいでなんだかんだ、しっかり仕事をしてしまう。

「リストラされるんだから、別に適当に仕事をしてもいいだろう」という同期ももちろんいる。

でも僕はそれができない。変なところで真面目なんだよな。


そんな自分に嫌気がさしていると、突然電話がかかってきた。


あれ、なんだろ。珍しいな。
電話に出ると、一言目。

「就活不安なんだけど」

こいつはいつも唐突だ。
そういえば院生は今が就活か…と思い出す。

「ふふ、はは、らしくないな」

唐突にこいつから不安という言葉を聞いて、なぜか面白くなってしまった。


「ねえ、不安なんだって!ほんとに!私明日の面接が第一志望なの!」


そういえばこいつの就活について最近聞いてなかったな。

年明けまではたまに電話して、お互いの近況話して、どうでもいい話して、こいつのおかげで社畜人生に華があった。(本人に言ったら調子に乗るから言えないけど)


「自己PRとかさ、志望動機とかさ、心配なの。一回聞いてよ、人事様?」


そう言えば人事もやっていたんだった。新卒採用に少しかかわっていただけだが、もう前の話だということは黙っておこう。

「いいよ、志望動機はなんですか?」

「私が御社を志望する理由は———」

こいつの志望理由は、悔しいけど、自分が面接官だったら確実に合格を出すくらい熱意があった。
サービスの良さ、その良さをもっと宣伝するための方法、その会社で働きたいという意思など、全部がよかった。

自分が就活をしていたときも、確かこんな風に熱意を持っていた。
なのに、なのに、?

働いているうちにどこに置いてきたのだろうか。

仕事が作業になり、お客様を人と見れなくなる。
1番なりたくなかったビジネスマンに、俺はなっている。

悔しい。悔しいのか?
いやそんな気持ちで済ませていいものではない。済ませたくないだけか?


「どうだった?」


「あ、うん、すごいなって、単純に。うん。何を心配してるのかわからないくらい、すごい。」
「これで落ちたら、ほんとに人間不信になるわ〜〜〜笑」

「人事はさ、結局人間だから。その人に一緒に働きたいと思わせたら勝ちなんだよ、って俺は思う。
自分が人事だったら、自分のこととって損はないって思う?そう思えるなら大丈夫。普通の人事は、会社に害がある人間は確実に取らないと思うからさ。」

「…とか言って、人事みたいなこと言えてた?」


「ふふ。いや、いい考え方、今知れてよかった。」
「ありがとうね」

数分お互いの近況を話をして、電話は切れた。


……………….

会社に害のある人間。
僕は確実に害はなかったはずだ。むしろ真面目に働いて、ちゃんと売り上げを出して、会社に貢献していたはずだった。

でも、リストラをされなかった同期もいた。
ミスをしながらも、先輩に、社長に好かれていた同期。

彼は会社にとても貢献していたわけではない。
しかし、確実に、「一緒に働きたいと思わせる力」はピカイチだった。

俺は無駄に人事の知識をやったせいで、頭でっかちにホムンクルスになっていた。知っていたのに、わかってたのにな。


今さら言っても仕方ないが、あいつには後悔のない就活をしてほしいなと、心から思う。

まあ、あいにくあいつは「一緒に働きたいと思わせる力」は、俺の数少ない知り合いの中で1番だ。あの同期よりも何よりも。

あいつはすごい。本当に。
何もやましいことなく、心から親友だと言える友達だ。

清々しくてさっぱりしてて、大学時代から周りに人が集まるタイプなんだよな。
俺とは正反対。でも何故か俺と仲良くしてくれるいいやつ。


精神的にキツくなったときは、何故か偶然あっちから連絡が来る。
変な糸で繋がってんのかと錯覚したこともあるが、ただあいつがいいやつなだけだった。


はあ、まだ次の会社に切り替える元気もない。エネルギーがなくなってしまっている。MP不足ってやつだ。

でもあいつが少し笑ってくれたから救われたな。



「1ヶ月後にリストラされる社畜じゃーん、はは、漫画でも書いてみたらバズるんじゃない?笑」
「ていうかあたしも出してね、社畜を励ます明日最終面接の私って役でね。」



ノンフィクションとフィクションの間のはなし。

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