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失なわれた夢

深い、深い森を走っていた。
青い植物の匂いが、まとわりつく。
柔らかな土。
朽ちた葉。

わたしは何かに追われているのだ。
誰かにずっと追われている。
それが何なのか 誰なのか、
まったく分からないのだけれど、
とにかく切羽詰まっている。

ふいに森が途切れる。
と、
そこは断崖絶壁だった。
のぞきこむと、
どこまでも深く、果てしない。
底は海なのか陸なのか、
それさえも分からぬ程の、
蒼褪めた空洞。

どうしよう。
立ち尽くしていると、追っ手の気配。
どうしようどうしようどうしようどうしよう。

どん。
背中に何かがぶつかって、
あ、
と思ったその刹那、
わたしは中空に舞っている。
ただただ落ちていく。
蒼褪めた闇の中を。


そこで、目覚める。
幼い頃から、繰り返し見た夢。

あまりに何度も見るもので、
ある日、自分から飛んでみた。
ここで崖から落ちれば、夢は終るのだから。


果たして、夢は終り、
わたしは目覚めた。
見事に夢から脱出したのだった。
そしてそれから、その夢を見なくなった。
二度と同じ夢は現れなかった。
跡形もなく消えてしまった。


いったい何から逃げていたのか。
それさえ定かではないというのに、
自ら土を蹴ってしまったわたしは、
ひとつの夢を失ってしまった。


だからなのだろうか。
今もまだ、蒼褪めた中空を、
舞い続けているような気がしてならない。



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