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ちらんぱらん

『ピカソのぎょろ目は
 一度見たら忘れられないが
 あのひとはバセドウ病だったに違いないと
 つい最近になって気がついた』
と書いた詩人・茨木のり子は、
自分も同じ病気だと詩の中で言っている。

『敵らしきものが入ってくると
 からだは反応して免疫をつくるのだが
 敵が入って来もしないのに
 何をとち狂ったか
 自分のからだをやっつける誤作動の指令
 自己免疫疾患
 甲状腺ホルモンがどばどば出て
 眼筋までが肥大して眼球を突出させてしまうらしい』

かくいうあたしも同じ病で、
だが幸い複眼にもならず眼球の突出もなく、
薬さえ続けていれば、ふつうの暮らしをふつうに送れる。
が、同時に花粉症やら喘息持ちになったりもして、
これもやはり、『敵が入って来もしないのに』
要らぬ抗体を作った結果。

アレルギーといい、甲状腺といい、
あたしのからだは、やはり『とち狂っ』ているらしい。

ピカソは、
『ものみなずれて ちらんぱらんに見えた』から、
あの素晴しい絵が描けたのだと、詩人は言う。
ならばあたしも『とち狂った』ついでに、
優れた芸術でも生み出せればいいのだが、
それもできない。

できないので仕方なく、
『ちらんぱらん』に咲く花を、
日がないちにち、眺めるばかり。


 



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