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どんな人にも語るべき物語が絶対にある。_INTERVIEW ABOUT INTERVIEW Vol. 2 松田紀子さん(後編)

場を温めるために「命」を使う

──松田さんは2019年10月から、出版業界から転じてファンベースカンパニーでお仕事をなさっています。今はどんなインタビューをされているのでしょうか?

クライアント企業のファンの方に、マンツーマンでインタビューしています。週に数回程度ですね。インタビュイーは一般の生活者の方です。外部の専門家にご協力いただいて、聴くべきことを事前に綿密に打ち合わせしてフォーマットをつくっておいて。それを基に、その方がどういう経緯で、その企業さんや商品のファンになっていったかを生い立ちから探っていきます。

──生い立ちまでさかのぼるんですね!

そう。「この時のこの出来事がここにこうつながったおかげで、この企業さんのファンになった」「このエピソードをきっかけに愛着が形成されていった」ということを根掘り葉掘り聴いていきます。

──お一人にどれくらい時間をかけるんですか?

1時間15分ぐらいですね。先方が疲れちゃうので、長くてもだいたい1時間半で終わるようにしています。

──その時間内に松田さんたち、ファンベースカンパニーの方々が知りたい、ファンが生まれるためのインサイトに、なるべく早くたどり着かなければならない。

おっしゃるとおりです。ただ、早くたどり着いてもインタビュイーが気持ちよく話せていなければあまり意味がないんですね。ファンの方が、自分の好きな会社や商品のことについてお話しいただくためのインタビューですから。だから今の仕事では、とにかく楽しく、気持ちよくしゃべってもらうことを心がけています。

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──今日もそうですし、過去にごいっしょさせていただいた取材の現場でもそうですけど、松田さんは本当に楽しそうに聴かれますよね、相手の話を。

ふだん自分の話をじっくり1時間、人が聴いてくれる機会ってなかなかないじゃないですか。自分がやってもらうと、これって本当にうれしいことだとわかります。インタビュアーはそのうれしい時間を共有しているし、インタビュイーは自分が熱烈に好きなものについて語れて、それを相手が熱心に聴いてくれる。その時間をいかに楽しんでもらえるかは常に考えています。

──今、松田さんがインタビューをされている方って、インタビューを受けた体験があまりない方ですよね?

そうですね。初めての方が多いと思います。

──私も経験があって、そういう方は「え、私なんかの話が役立ちますか?」とおっしゃるところから始まることが多い気がしますが、松田さんの場合はいかがですか。

そうですね。みなさん、だいたいそうおっしゃいます。最初は謙遜されているし、オンラインでの初対面で緊張もされているし。でもその壁を突破してしまえば、ワーッと話してくださいます。だから、場を温めることに対してはものすごく「命」を使いますね。

──命を使って場を温める。具体的には何をなさっているんですか?

それはね、いい相槌(笑)。さっき宮本さんもおっしゃってくださった、「楽しそうに聴く」ということに尽きると思います。私たちが話をうかがうのはインタビュー慣れしていない一般の方ですけれど、おもしろい話、聞きたい話をたくさんおもちの方々ばかりです。ご本人はさらっとおっしゃったことでも、自分の頭の中で引っかかったことは逃さず、必ず聴き返します。

──引っかかるのは、たとえばどんなことですか?

私のアンテナが反応するのは、独特な言い回しやふだん使わないユニークな単語なんです。話を聴きながら、そんなキーワードにピピッときたら、それをつかまえに行って、深く掘るイメージです。

具体的には「あ、それってどういう意味ですか?」「こうおっしゃいましたけど、じつはこういうことですか?」と投げかける。するとご本人は「え、どうだったかな……」と言いながらも、なんとか言葉をしぼり出して、こちらがわかるように噛み砕いて説明してくださる。コーチングの世界では「チャンクダウン」というらしいのですが、これをくりかえしていくと、だんだん話が深まっていく。こちらも求めていたインサイトにたどり着けますし、先方も楽しく話せたという印象をもってくださるみたいです。

──自分のアンテナに引っかかったキーワードを逃さず聴くわけですね。話が進んでしまっても、臆せず聴く。

そうそう。「お話戻りますけど」といいながら、けっこう前の話に戻すことはよくしますね。これはみなさんも今すぐ使えるテクニックだと思います。

──参加者からのご質問がきています。「インタビュー前に聴くべきことをまとめるフォーマットをつくるとき、どのようなことに気をつけていらっしゃいますか?」とのことです。松田さん、いかがですか?

私たちは、そのファンの方がどういうふうにその商品と出会って、どういう経緯でそれを愛するようになったのか、を聴くので、一番うかがいたいのは「愛の深まり」のポイントなんですね。そこにたどり着くために、こういう背景を聴いたほうが話が出やすいという項目をいくつかピックアップして。それを時間内にもれなく聴いていきます。

──もう一つ質問があります。「一度きりのインタビューの場合、限られた時間の中で、どのようにして壁をつくっている相手の心を開きますか?」とのことです。

最初に、相手が考えなくても答えられる質問を用意するといいと思います。たとえば、「今日、そちらはどんなお天気なんですか?」とか。「晴れてます?」「あ、雨なんですよ」というやりとりをして。「うちはこういう感じなんですよね」と、こちらの情報もちょこちょこ入れる。すると、ふつうに会話できる相手なんだなと安心していただけます。要するにアイスブレイクですね。最初の3分〜5分はそういう世間話をしてから、今日のインタビューの趣旨をお話しして、本題に入っていく。

今はとくにオンライン形式が増えたから、直接会ってお話しできないケースも多いです。画面越しで「初めまして」の挨拶からですし、最初はおたがい緊張していますし、ものすごく心理的距離があります。世間話をあえてするというのは大事だと思いますね。

──徐々に核心へと入っていくわけですね。

そうですね。相手のもっているリズムをつかんで、おたがいの会話のテンポを少しずつ合わせていく感じです。この人は口が重いとかシャイだなと思ったら、あまり煽らないようにしますし、答えを出すのに3秒ぐらいかかる人なら、その3秒を待つようにします。

映画「カメ止め」インタビューで編集者の常識が吹っ切れた

──松田さんはやはり、相手のテンポに合わせることをとても大事にされていることがよくわかりました。ところで、編集者時代でも最近のお仕事でもいいのですが、印象に残っているインタビューはありますか?

映画『カメラを止めるな!』のインタビューですね。私、2年前に『カメ止め』にどハマりして、ファンブックまで作っちゃったんです。その時期に「絶対に上田慎一郎監督にインタビューしたい!」って思って。

当時は『レタスクラブ』の編集長だったのですが、『レタスクラブ』は4カ月先まで目次が決まっている。それで、隣のフロアにある『ダ・ヴィンチ』編集部の仲のいい女性に「今度、上田監督のインタビューをやるから、書いたら記事を載せてほしい」ってお願いしたんです。まだ監督にお願いもしていないのに(笑)

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──掲載先を、先に決めたんですね(笑)

そこから上田監督に申し込みしてインタビューさせていただいたものが13,000字にまで膨らんでしまって。

──私も拝読しましたが、すごく熱量が高いインタビュー記事ですよね。今でも「ダ・ヴィンチニュース」というウェブサイトで読めます。

そう。作品が好きすぎて、好きな上田監督が目の前にいて、とても冷静にレポートできなかったですね。私は映画の評論家じゃないし、ここは“いちファン”として自分の映画への熱量そのままに、上田監督に会ってキャーキャーしている感じすらもう出してしまえ、と思って書きました。

──料理雑誌の編集長である松田さんが、こんなに『カメ止め』にはまっちゃって、なりふり構わず上田監督にインタビューしちゃいました! そんなドラマごと楽しむ記事になっていますね。

ありがとうございます。もちろん、インタビュアーが人間性を前面に出して書くことの良し悪しは編集者だからわかっているんですよ。記事を届けたい相手は『カメ止め』好きのファンですから、そこでインタビュアーがあまりにもキャッキャしてたら、しらけてしまうかもしれない。「いいよな、お前は」「俺たちが聴きたいのは上田監督の話なのに」って。

でも、インタビュアーが冷静で頭がいいだけの聞き手になっている記事は、私自身が魅力を感じなくて。共感や愛着がわいてこないからおもしろくない。それよりも、インタビュアーも『カメ止め』が好きで、ときおり私見もはさみながら、上田監督とワイワイしている記事のほうが、読者も自分が映画を見た感想と重ね合わせて共感しながら読める。

「インタビュアーは自分を抑えないといけない」というのは私の中にも編集者の常識としてあるのですが、一方で、インタビュアーの視点を通して、その目の向こうに映るインタビュイーのことを伝えるのもおもしろいんじゃないか、という思いもある。だから今回はもう、いちファンとしての熱量のままに出そうと吹っ切れたら、あっという間に文章が出てきた。

今ふり返ると、この時の経験は、今、インタビューをしてインサイトレポートを書く今の仕事に非常に活かされているなと思います。

「もっと主観で書け!」 目からウロコの編集長の教え

──今、お話をうかがっていて思い出したのですが、松田さんはリクルート九州支社時代に、当時の『じゃらん』の編集長から「もっと主観で書け」って言われたんですよね。

言われましたね。リクルートの前にいたタウン誌の編集部では、クライアントからいただいた広告記事を主観や私見を入れずに紹介する仕事をしていたんです。最初に勤めた会社がそういうスタンスだったから、ライターの仕事はそういうものだと思っていた。

そうしたら、その後に働くことになった『じゃらん』の編集長からすごく怒られて。「何のためにお前はいるんだ。お前の視点で書かないと、わざわざ取材に行っている意味がないじゃないか」そう言われて、目からウロコが30枚くらい落ちた。

──かなり落ちましたね(笑)

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そう。「主観で書いていいんだ。知らなかった!」と衝撃を受けて。そこから仕事がすごく楽しくなりました。

──「おもしろい!」と感じた自分の気持ちに素直になるということですね。今、松田さんがファンベースカンパニーでされているインサイト・インタビューでも、先方がさらっとおっしゃったことの中にじつは大事なキーワードが隠れている。松田さんがそれを「おもしろい!」と感じて取りにいかれる。その時、自分の感覚を信じられるかどうかは大きいですね。

そうですね。自分の中に「おもしろい」「おもしろくない」の軸がないと、すべての話をぼんやりとしかとらえられない。インタビューをする人は自分の「おもしろい!」という感覚を大事にしたほうがいいと思います。

取材前には“話が深まる”ための準備を

──松田さんはインタビューを受けるお立場としてのご経験も非常に多いと思います。こういうふうに聴くとインタビューを受ける側は話しやすいよ、というアドバイスがあればいただけませんか?

やっぱり事前にいろいろ調べて、資料に目を通してくださる方のほうが話が深まりやすいですよね。まったく事前情報を入れないで来られるインタビュアーさんだと、こちらが一から全部説明しなくちゃならないから、それだけで何十分も使ってしまいます。

──けっこうありますか? そういうこと。

時々ありますね。「忙しいんだろうな。調べる時間ないよね」と思っています。でも、宮本さんはインタビュイーの方の年表を作ってきて、それに沿ってお話を聴いてくださいますよね。それはすごく助かります。

自分のことでも、人って意外と覚えていなかったり、忘れてたり、勘違いしていたりすることはしょっちゅうあると思うんです。だからインタビューの骨子をインタビュアーさんがビシッと決めて、「ここはこうですね」と確認しながら進めてくれるほうがいいですね。こちらも頭の中が整理されて言葉が出るから、そのほうが絶対にいい話が聴けると思うんですよね。

──質問がきています。「松田さんや宮本さんにも失敗したインタビューがありますか? その失敗の要因も合わせて教えてください」とのことです。

では、私から。最近反省したインタビューなのですが、メリハリの付け方に失敗しまして。経歴もエピソードも豊富な方で、ご本人も話したいことが多くて、全部を丁寧に話していただいたんですけれども、書く時に迷ってしまったんですね。もっと強弱をつけて聴くべきだったなと反省しました。それで、次はやり方を変えて、今、その人がいちばん大事にされていることからお話ししていただいて、そこにひもづく過去のターニングポイントをいっしょに年表をさかのぼって選びながらインタビューする方法を試してみました。結果、そちらのほうがうまく聴けたと思っているんですが、もっといい方法があるかもしれない。松田さんはいかがですか?

私たちの取材対象の下調べが足りなくて、事前に想像していた方と違っていた、というインタビューですね。お会いしてみたら、こちらがうかがいたかったことについて語りたい思いや言葉をもっていらっしゃらない方だとわかって。ただそれはこちらの見誤りだから、最初の30分だけ粘って、あとはもう全然関係ない話をして、お菓子をいただいて帰ってきました。

■どんな人にも語るべき物語が絶対にある

──ありがとうございます。では、私から最後の質問です。松田さんが今、感じていらっしゃるインタビューの楽しみとは何でしょうか?

「私なんか、何も話すことないですよ」っておっしゃる一般の方でも、その人しかもっていない物語や視点が絶対にある。それをすくいにいくのがおもしろいなと最近よく思います。インタビューは、インタビュイーの本質を発見する時間、その人の本質を見に行く時間だと思います。

──そのために相手のペースやリズムに合わせたり、いろいろな球を投げたりされているんですね。松田さんのインタビュー術の真髄をたっぷりうかがえました。ありがとうございました。 (後編終わり)

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