おっさんだけど、仕事辞めて北海道でチャリ旅するよ\(^o^)/ Vol,32 視点
2024 0813 Tue
あれは、18歳の夏でしたかね…?
わたしは友人と2台で、四国の最西端である佐田岬に向かってバイクを飛ばしていました。
いまGoogle mapで調べてみると、幾つかの道路があったりするのですが、遠い記憶のなかでは、佐田岬に行く道路は、延々と海岸線を走る1本のみ。左手に広がる海は、やがて彼方で雲一つない空の青と同化し…。初夏の浜風を全身に浴びながらフルスロットル! アルミ集合管が奏でる4気筒エンジンの咆哮に酔いしれました。
と…。アスファルトのはるか彼方にゆらゆらと揺れている、なにやら数珠つなぎの一団が…。自転車です。トレインを組んだ自転車が走っています。
彼らの姿が次第に大きくなっていき、そして…。
シュバン!
速度を緩めることなくわたしは彼らを追い抜きました。
佐田岬に到着し、片道20分歩いて灯台や景色を満喫。また20分歩いて駐車場に戻り、そしてバイクの前で地図を広げながら一服。
ボチボチ行きまっかと、ようやくバイクに跨りました。充分に熱を持ったままの空冷エンジンは、即スタートOK。2度3度、エンジンを大きく吹かしながらわたしたちはまた走り出しました。
今度は右手に澄み渡る海と空を眺めながら、視線はコーナーの出口を探ります。
そうして走ること数分…。アスファルトのはるか彼方にゆらゆらと揺れている、なにやら数珠つなぎの一団が…。さっき追い抜いた自転車トレインです。
彼らの姿が次第に大きくなっていき、そして…。
シュバン!
一瞥し、速度を緩めることなくわたしは彼らを彼方に追いやりました。
“みんなして汗かいて…。ご苦労なこっちゃで、ホンマ…”
当時、完全にスピード狂だったわたしは、次のコーナー出口を睨みつつ吐き捨てました。
…でも、ふと、こうも考えました。
“でも、あいつらあんな時間かけやがって…。佐田岬に着くまでえらい長いこと楽しめるんやな…”
それから10年以上のときを経て、わたしは自転車を購入するのです。
北海道を自転車で旅していて、すれ違うバイクからよく手を振ってもらいます。そんなとき、笑顔で手を振り返しながら、ときどきわたしは考えます。
“でも、彼らとオレとでは、見てる景色が違うかもな…”
景色、それ自体は同じです。変わるはずがありません。もちろん季節や天候で景色は全然違ってきますが、手を振ってもらった瞬間の景色は、完璧に同じはずですよ。でも、彼らとわたしとでは、決定的に、スピードが違うのです。スピードが違うということは、景色の流れ方が違ってくるし、目線なんかも変わってきます。たぶん心拍数も違うでしょうし、体温なんかも全然違うでしょう。彼らバイク乗りが寒さに身体を震わせながらアクセルを回しエンジン回転を保持しているとき、わたしが汗だくの可能性だってあるのです。
どちらがどうこうとか、そういう話ではありません。同じ北海道で、同じ瞬間を、同じ二輪の乗り物を操縦しながら共有しているのに、違う景色を見ている。その事実を、伝えたいのです。
北海道に来て、1つ、“あれあれ” と思ったことがあります。それは、山岳渓流の少なさです。
『トラウト王国、北海道』
その言葉に嘘はないでしょう。淡水魚の王様、イトウが唯一生息する北海道。野生化した巨大なニジマスが釣れる北海道。
でも、それって高低差が少ない湿原に流れていたりする、曲がりくねった川に生息しているんですよね、多くの場合。ほら、アマゾンの写真とかでよく見るアレですよ。川の両岸には灌木が生い茂り、容易に竿を振ることができない。かといって、流れのなかを遡行するには深すぎる。基本的に濁っており、流れのなかを見通すとこができない。
藪漕ぎを重ねてポイントにたどり着き、ウェーダーを履いて腰上まで水に浸かりながら、ポイントめがけて何度もキャストを繰り返す。
想像するに、北海道の渓流釣りは大物釣りなのではないでしょうか? それって、わたしの好む渓流釣りじゃないんですよね。
っていうか、本州にはそんな渓流は無いのです。
本州にある渓流は、そのほとんどが山岳渓流です。大岩がそこいらじゅうに転がり、飛沫をあげながらそれらの隙間を流れる水は限りなく透明に近いブルー(笑)。高低差のある流れは、遡行に非常な危険がともなう代わりに、淵や溜まりなど渓魚の居着くポイントを生み出す。釣れるか釣れないか、1つのポイントにつき勝負は3キャストくらいまで。それで釣れなければ次のポイントまで遡行する。それが本州人の渓流釣りなのです。
しかし、海岸線を中心としてなだらかな地形が多い北海道には、山岳渓流が思いのほか少ないんですよね。北海道に上陸後、真夏の山岳地帯に出向き、その上りの厳しさや暑さ、そしてアブの猛攻に耐えかね、海岸線に降りてきたわたし。海沿いを走りながらそこに流れる川をすべてチェックしていたのですが、少なからず落胆していました。
“これ、オレのスタイルじゃ湿原系の川では釣りにならんな…”
釧路から厚岸、霧多布を経て根室に到達。しかし、標津を過ぎて羅臼に着く頃には、違う考えが頭に浮かび始めました。
“えっ? これ、海でなんぼでも釣れるんじゃないの? デカい魚…”
海釣りは門外漢。ですから完全に素人考えなのですが、その辺にいくらでもある漁港の防波堤を歩いてみると、めちゃくちゃイイ感じなのです。こんなの、関東近郊だったら釣り人で溢れかえっているような…。でも、誰も釣りなんてしていないのです。
これは…。
“釣れないから釣り人がいないんじゃなくて、単純に釣り人が少ないからなんじゃないの?”
北海道の海沿いの町は、基本的に漁師町であることが多いです。大海原が仕事場である漁師は、趣味としての釣りなんてしないんじゃないの? 素人のわたしはこう思うのですが、いかがでしょうか?
知床峠を超え、ウトロから斜里町に到着したわたしは、そこのキャンプ場で有力な情報を得ます。
「さっき、港でサバが爆釣でしたよ」
なに!? さっき!? 港!? 爆釣!?
「今日の夕方、つい2時間前くらいですよ。そこの漁港で釣りしている人を見てたんですけど…。いやもう、投げるたびに釣れるっていうか…」
さっそく翌日その漁港を訪れてみると…。やはり、釣り人なんて誰もいないのです。想像するに、潮の流れを熟知した地元のガキとかが、1時間くらいふらっと来て竿を振り、それで爆釣をカマしているのでしょう。
網走から紋別、浜頓別から稚内に到達したわたしは、勢い込んで礼文島に渡ります。そして…。
“やっぱり…!!”
釣りをしている人など、ほとんどいないのです。礼文や利尻の漁師はコンブ漁やウニ漁が中心で、魚を獲るという感じではないのですが、それにしたって…。わたしは心のなかで叫びました。
“この島で、サカナ釣れないわけないだろうが!”
北海道を走っていて、少しでも良さげな渓があれば必ずチェックしていたわたし。釣れるかどうかの情報など無いままに、ウェットウェーディングスタイルで渓を遡行し竿を振っていたわたし。ヒグマにアタックされ、ビビりまくりながらも釣りを続けるわたし。川を視るだけでテンションが上がる渓流釣り師のわたし。
ふと考えます。
“これ、海釣りしてる奴からしたら、北海道ってどう視えるんだろう?”
海釣りが好きな旅人が北海道に来たら、いくら時間があっても足りないんじゃないか? 行く先々で漁港はあるし、磯もある。しかも、ライバルとなる他の釣り人がほとんどいない。
これ、アレですね…。海釣り、始めるしかないですね。
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