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フジファブリックが連れてくる

ふとフジファブリックの曲が聴きたくなって、iPhoneに手を伸ばした。

フジファブリックの曲を聴くと思い出す人が一人いる。
中学の時の同級生だ。

彼女はフジファブリックが大好きだった。
いつも部室のピアノで「虹」の始まりのメロディーを爽快に奏でる。楽しそうに歌詞を口ずさむ。

そのおかげで一度も原曲を聴いたことがないのに、すっかりわたしはフジファブリックが好きになっていた。

彼女は不思議な人だった。
陽気でいたずら好きなのに、寂しがりやでいまいち掴めないような儚さもあった。

通学リュックの中身を部室の床にぶち撒けられた時は喧嘩したし、彼女の両親が離婚すると打ち明けられた時はなんと声をかければいいか迷ったものだった。


大学生になったとき、たまたま学校に行く電車の中で彼女と再会した。ショートだった髪の毛はすっかり伸びて、いたずらをしていたことなど彷彿させないくらい大人っぽくなっていた。

「久しぶり。元気だった?」とか、「どこの大学に行ってるの?」とか。他愛もない会話を少しして、またねと言って彼女は電車を降りていった。
その後、彼女と会うことは一度もなかった。

彼女を見た後は大体フジファブリックのことを思い出す。いつもフジファブリックは彼女と共にやってきた。

わたしは言わば「にわかファン」と言われる類で、曲自体は数えるほどしか知らない。ほとんどが彼女がよく口ずさんでいた曲だ。メンバーの名前も全員はわからない。

不思議と他の曲を知ろうという気にならないのは、おそらくわたしの「フジファブリックが好きだ」という気持ちが彼女との思い出の上に成り立っているからだろう。

彼女はどこかで元気にしているだろうか。
今でもたまにフジファブリックを聴いたりしてるのだろうか。

今度はフジファブリックがあなたのことを思い出させてくれたよ。わたしの元に連れてきてくれたよ。

たまにはあの日のことを懐かしんで、わたしのことも少しは思い出してくれてるといい。



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