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文を書くことがすきなただの社会人

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最近の記事

パラレルワールドの自分を救え

パティシエになりたかった。メイクアップアーティストになりたかった。漫画家にもなりたかったし、イラストレーターにもなりたかった。 小学校の卒業アルバムに必ず存在する「将来なりたい職業は?」という項目。わたしはこれが大嫌いだった。”将来の夢”なんていうずっと先の未来のことなどわからなかったし、だからと言って嘘をつくのも苦手だったからだ。 それでも何かを書かなければならなかったので、当時ピアノを習っていたことから適当に「ピアノの先生」と必死の嘘を書いていた。 のちにそれを見た

    • 初めての親孝行

      6歳から14歳までピアノを習っていたことがある。 先生はとても怖くて、課題曲は全く聞いたこともないメロディーばかり。心底面白くないと思っていた。 しんとした教室に先生と二人っきりで、部屋に響くのはピアノの音、先生の声、正確にリズムを刻むメトロノームの音のみ。小心者のわたしにとってはドキドキして堪らない時間であり、レッスンの時間がはやく終わることをいつも願っていた。 習いたて当初の連絡帳には1ページ目から母親のコメント欄に「もう辞めたいと駄々をこねております。」と書かれてい

      • 物事は多方面から見よ

        このあいだ、仕事で街中を歩いていると涼しく心地よい風が吹いてきた。 あぁ、春が来たのだと思うと同時に「あれ、これはマッチングアプリをしていた時の季節と同じだなぁ」と、匂いで元カレを思い出すとか音楽で懐かしき青春を思い出すということがよくあると思うが、似たような感じでマッチングアプリをやっていた時のことを思い出した。 春の風でこんなことを思い出す奴は日本中探してもそういない。もっと他に京都で見た桜などを思い出せよ、と心底思う。 昨年の2月に元カレに別れを告げ、当時26歳のわ

        • 昔のビデオはエモい

          家に帰ってリビングでご飯を食べていると、テレビから母がわたしの名前を呼んでいる声が聞こえた。気になってテレビの方に目をやると、わたしが0歳、兄が2歳の時のビデオが流れていた。 どうやらビデオテープからDVDにデータを移している途中だったらしい。 ビデオの中のわたしはまだ歩けないので床をバンバン叩きながら笑っていて、兄は電車のおもちゃを一直線に並べて遊んでいた。 中身は本当に何気ない日常の様子を映したもので、「お母さんは小さい頃の写真が全然なくて、自分の子どもが産まれたら

        パラレルワールドの自分を救え

          勉強に宿す意味

          先日、SNSで「勉強をするのは何のため?」という問いに対して「誰かを傷つけないため」と答えているのを見た。 その人によると、勉強をすることで自分と異なるルーツや背景を持つ誰かの立場を想像して思いやったり、寄り添ったり、配慮することができるとのことだった。 勉強をする理由は一つじゃないので、その人が言うように人を傷つけないためというのは間違いではないし、わたしもそう思う。 でも、子どもに「なんで勉強しなきゃいけないの?」って聞かれて「誰かを傷つけないためだよ」なんて言ったと

          勉強に宿す意味

          愛しい人よ、ずっとおでこにキスをして

          何年かぶりに前髪を伸ばしている。 今の長さは少し鼻の先につくくらいだろうか。 元々顔立ちが幼いので、大人に見られたくて伸ばしているという理由が一応ある。 23歳くらいの頃、髪の毛の色が真っ黒で前髪が短いときがあった。その日は休日だったので、スナック菓子とお酒を買うと決めていた。履き古したジーンズとやっすいTシャツで近くのコンビニに行き、ハイボールの缶とポテトチップスをカゴに入れてレジに向かった。 すると、店員さんがお酒のバーコードを読み込もうとした瞬間にわたしのことをものす

          愛しい人よ、ずっとおでこにキスをして

          一日は24時間でいい

          このあいだ会社で菅田将暉と加藤茶が似ているという話から『8時だョ!全員集合』の話になった。普段からこういうわけのわからない話を同期と繰り広げている。 すると、その場にいた同期の一人が「昔はみんな8時にテレビの前に集合してたんかなぁ」と言った。言われてみれば確かに。当時は録画をして後から見るなんて行為はあまり主流ではなかっただろうし、今みたいに見逃し配信なんて便利なものももちろんない。みんながその時間に、オンタイムでテレビの前に集まって見ていたのだろう。 わたしの子ども時代

          一日は24時間でいい

          普通

          「普通の範囲が狭いよね」と言われたことがある。個人の領域でいえばイコール価値観みたいなものだが、その当時は「そう?」と気にも留めていなかったけれど、よくわからなかったそれが今ならわかる。 わたしは大多数の人間よりも圧倒的に経験というものが少ないと思っている。というのも、今も昔も未知な環境や場所が苦手だからだ。 学生の時でいえばクラス替えがお腹が痛くなるほど嫌いだった。人見知りが故に新たな関係を構築するのもめんどうだったし、なによりせっかく苦労して慣れたこの小さな世界が一瞬

          普通

          独りで死に向かって走りたくない

          今年で27歳になった。 時間が過ぎるのは無情にも速く、「大人になりたいなぁ」なんてことも思わなくなったということはわたしはそれなりに大人になってしまったということだろう。周りの友人たちは結婚し、子どもが産まれている。"そういう歳"になったのだ。 小学生の頃によく人生設計を書かされた。 将来どんな仕事をして、いつ結婚をして、いつ子どもを産むのか。しかしながら、小学生にそんな未来のことなどわかるわけがなく、適当に会社に勤めて24歳に結婚、26歳くらいには子どもの1人くらいは産

          独りで死に向かって走りたくない

          フジファブリックが連れてくる

          ふとフジファブリックの曲が聴きたくなって、iPhoneに手を伸ばした。 フジファブリックの曲を聴くと思い出す人が一人いる。 中学の時の同級生だ。 彼女はフジファブリックが大好きだった。 いつも部室のピアノで「虹」の始まりのメロディーを爽快に奏でる。楽しそうに歌詞を口ずさむ。 そのおかげで一度も原曲を聴いたことがないのに、すっかりわたしはフジファブリックが好きになっていた。 彼女は不思議な人だった。 陽気でいたずら好きなのに、寂しがりやでいまいち掴めないような儚さもあっ

          フジファブリックが連れてくる

          ほんのきもち

          コロナウイルスで世は自粛ムード。 遊びの予定もなくなっていき、暗いニュースばかりでさすがに気が滅入ってくる。 朝、いつものように会社に行って仕事をしていると長野にある仕入先から荷物が届いた。特に今お願いしていることもなく、荷物の中身に心当たりはない。不思議に思いながらも開封してみると、その会社が製造している可愛いテープの数々と一通の手紙が入っていた。 手紙には「コロナで大変な時期ですから、これを見て少しでも明るい気持ちになっていただければと存じます。」と書かれていた。

          ほんのきもち

          引き出しの鍵

          3月も残すところわずか数日となった。 3月といえば、中学3年生のときに教頭先生が亡くなった。交通事故だった。体育の教師から教頭先生になった人だったから、体育祭の練習や授業では時々接点があった。その程度の関係性だった。でも、当時ものすごく泣いたのを覚えている。 人には人を忘れる順番というのがある。最初に声、次に顔、最後に思い出だそうだ。 わたしの場合、先生の声や顔はなぜか鮮明に覚えている。通りのいい声、眉毛が濃い顔のことは今でも忘れられない。 わたしが初めに忘れたのは思

          引き出しの鍵