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映画『あん』



「あんを炊いている時の私は、いつも小豆の言葉に耳をすましていました。
それは、小豆が見てきた雨の日や晴れの日を想像することです。
どんな風に吹かれて小豆がここまでやってきたのか、旅の話を聞いてあげること。そう、聞くんです。
この世にあるものはすべて、言葉を持っていると私は信じています。
日差しや風に対してでさえ、耳をすますことができるのではないかと思うのです。」


監督:川瀬直美
原作:ドリアン助川『あん』(ポプラ社)

樹木希林主演で2015年に公開された作品です。


仕事中にたまたま映画の話になり、たまたま何か見たいなと思っていたタイミングでふとおすすめされて見たのですが、これから桜が咲こうとしているこの時期に見ることができて本当によかったです。
仕事、病、格差、差別、多様性……今、より一層自分事として考えていかなければならない、考えていきたいあらゆる事柄について見つめ直せる作品でもあります。


先に引用したのは、樹木希林さん演じる徳江さんの言葉です。
この言葉とともに映し出された映像を見た時、
思い出したのは、幼い頃に見た畑仕事をする家族の姿でした。
収穫した小豆を莢に入ったまま枝ごと乾燥させ、叩いて出し、選別していた曾祖父と祖父母の姿。あの、小粒なのに大量になるとうるさいくらいに細かい音を立てる小豆の音が鮮やかによみがえってきました。

人間の能力や活動時間では追いつけないほど、インプットしきれないほどの情報が、取りに行こうと思えばいくらでも手に入る時代。自分のモチベーション次第、やり方次第で、いかようにもできる時代。毎日、目ばかりが強い刺激を受けて、知識は定着せず頭の浅い部分を滑っていくような感覚。効率よく、無駄なく、最速で勝つ。そんな情報の濁流にのみ込まれそうな世界に身を置いていることを考えると、自然を感じ、本当の動植物に触れ、徳江さんのように感覚を研ぎ澄まして人間以外の言葉を聞くすべが、ますます遠いものになってきているのだろうと考えさせられます。離れていってはいけない、大切なものがあるということを改めて気づかせてくれる作品だと思います。



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