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個別最適な学習のヒントはレゴにあった。

説明書の中で、世界一分かりやすいものはLEGOの組み立て説明書だと思う。

説明”書”とは、知識の伝達を目的に作られたツールです。

優れた説明書とは、知識の伝達を行う人がその場にいなくても、書を読んだ人が内容を理解し、自ら動けるような書だと考えます。

国を問わず世界中の4~5歳以上の子供が、LEGOの説明書を読み、自ら動いて、レゴを組み立てています。こんなに優れた説明書は他にあるだろうか。

■授業者の仕事は、優れた教材をつくること

個別最適な学習を行う上で、すべての生徒にとって分かりやすく、生徒自身のペースで学習でき、なおかつ生徒のレベルにあった難易度の教材を準備することが求めらます。

その教材作りの助けとなったのが、レゴの説明書です。この記事では、私が作っている教材を紹介するとともに、レゴの説明書から何を学んだかを記載しています。

教材づくりに磨きをかけたい教員の方には、ぜひ最後まで読みすすめてほしい。今年最後の この記事は、かなり力を入れて書きました。

■一斉授業は、限界がきている

脱線しますが、最も効果のある個別最適な学習方法は、教師と生徒で1対1で会話のキャッチボールを行いながら、学習をすすめる方法です。生徒が理解できないことを、生徒のタイミングで質問し、教師は理解できるまで、あの手この手で生徒に説明するという具合ですね。

残念ながら、この方法は日本の公立中学校では、実現不可能に近い。
教師1人に対し、30人以上の生徒を同時に相手にする構造だからです。

30人の意欲、能力もまちまちです。
勉強が好き、嫌い、好きでも嫌いでもない、得意、不得意、すでに塾で習っていてできる 、授業が簡単だと感じ退屈である、授業が難しすぎて苦痛であるなど 特色ある30人です。すべての生徒に刺ささるように一斉授業を行うのは至難の業だと考えます。

そのため、私は一斉授業というフィールドから降りて、個別最適な学習を授業で展開するという方向へシフトしました。

学習内容が分かりやすく伝わり、自分のペースで学習でき、なおかつ生徒自身のレベルにあった難易度の教材を作りたい。

そんな優れた教材を作る上でのヒントを見つけるべく、世界一わかりやすいLEGOの説明書を分析することにしました。

■なぜLEGOの説明書は分かりやすいのか

①文字ゼロ

文字がないため言語能力に劣りがあることは、説明書を読む上でまったく関係ない。どんな子供でもレゴで遊ぶことができるように作られているのだ。

もし仮に、LEGOの会社が「一定のレベルまで 特定の言語の読み取り能力がないと、遊べません」という理念だと、ここまでLEGOの名は世界に広がっていないだろう。

②実物と絵が同じ

カラー印刷の説明書であり、手元にあるブロックの色、形を完コピし、説明書でも再現している。故に、どのパーツを手にとって組み立てるのかを感覚的に理解できる。モノクロ印刷の説明書だとしたら、組み立て作業を指示する情報伝達度は劣るはずだ。

③余白があり、工程が細かい

伝えたい情報を精査し、シンプルに情報をまとめること自体はすばらしいことだ。ただ、紙1枚にまとめることを目的とするあまり、読み手が分かりにくいと感じる説明書が、この世には存在する。

例えば、通常2枚分の量のLEGOの説明書を1枚にまとめることだけを考えたら、その説明書は、

  • 絵のサイズが小さくなる 

  • 余白がなくなり、つめつめになる

  • 細かな工程が省かれ、スモールステップが崩れる 

ということになると思う。

レゴの説明書を見ればみるほど、人に伝えることにこだわりを持ったレイアウトだと感じる。

④どのように組み立てるかの動きを”矢印”で表現する

仮に、動画でレゴの組み立て方を見て、実際に組み立てを行うのは、けっこう簡単だと思う。
なぜなら、どのレゴパーツをどのようにくっつけるかを”動作つき”で見ることができるからだ。

この動きを紙面で表すために、説明書では”矢印”が多用されている。

細かなところだが、”矢印”がないと、読み手は「どのパーツをどのようにつけたのか?」の理解に時間がかかると思う。理解に時間がかかる説明書は読み手にとってストレスがかかるため、優れた説明書とは言えない。

⑤「今、脱線している」ということが分かりやすい。

人に何かを伝えるときに、意図して脱線することはよくある。
特に授業では、本線の内容を教えながらも、一旦脱線し、過去の学習内容を振り返り、その後また本線に戻ることがある。

授業では、口頭で伝えることができるので、生徒は説明についてきやすい。「いったん脱線します。」と言い、回り道をしたあと「脱線から戻ります」と伝えることで、生徒は説明をスムーズに理解することができる。

レゴはこれを紙面でやってのけるのだ。脱線したことを、薄黄色の背景と矢印で表現しているのだ。

■教材のゴールと目的

私の目指すゴールは、個別最適な学習方法を確立することです。文部科学省が掲げている”協同的な学び”や”主体的に探究すること”を目的とした教材ではありません。自ら課題を設定してどうこう、などもありません。

自分の授業を受けた全ての生徒が 中学数学で身につけてほしい知識とスキルを習得できることがゴールです。教師側から与えられた問題を解決できる能力を育てることが私の目的です。


もちろん、問題解決の能力だけではなく、課題発見の能力(課題を見つける能力)が重要なのは言うまでもありません。

この記事の内容を例に出すと

問題解決の発想:
「一斉授業が効果的でない現状に直面している。これを解決するために、より効果的な一斉授業の手法を考え、導入することが必要だ。」

課題発見の発想:
「一斉授業が生徒に適していないという現状が浮かび上がっている。この課題を解決するために、個別最適な学習への切り替えを検討し、生徒一人一人に合った学習環境や教材を提供することが求められている。」

このように、問題解決のアプローチでは既存の手法を改善しようとするのに対して、課題発見のアプローチでは根本的な問題を見つけ、新しい方向性やアイデアを模索しようとします。

しかし繰り返し述べますが、問題解決力(中学数学で身につけてほしい知識で問題を解くスキル)を育てることが私のゴールなので、それを目標にした教材をつくることにしました。

■教材のファイル形式は「PowerPoint」

レゴの説明書を分析して、私が考えるGIGAパソコンを用いた優れた教材(中学数学の教材)の方向性が決まりました。

PDF形式の教材は作らない。

PDF形式の紙面は一気に目に入る情報量が多いため、読み手にストレスがかかります。PC上で閲覧するとカラーで見ることができるのが利点ですが、現行のやり方(紙で解説を配る)と何ら変わりありません。

動画形式の教材は作らない。

他の業務も兼ねている現状、動画を作るのは時間がかかるため、持続不可能な取り組みだと感じました。また授業中に音声を出して動画を視聴することは他の生徒の集中の妨げになります。また教材にミスがあったときの修正は”撮り直し”であり、修正に時間がかかることが予想されます。ヒューマンエラーは起こるものです。

教材の形式をパワーポイントにする。

生徒の理解のスピードに応じて、生徒自身がクリックできるパワーポイントは、個別学習に最適なツールだと結論づけました。個人の理解のスピードに応じて、絵本を読むようにページをめくることができるのです。またアニメーション機能を用いることにより、思考の手順や式変形の手順に動きをつけることができるのもパワーポイントならではの機能であり、かなり分かりやすく伝えることができます。

■授業で使っているパワポ教材がこれ

▼スマホ用

※上の画像をクリックすると教材があるサーバーにアクセスでき、画面をタップすることでスライドをめくることができます。

▼PCまたはタブレット用

■授業で使っているプリント教材がこれ

下のような紙ベースのプリントを使って、従来通り問題を解き、生徒1人1人がGIGA端末を開き、パワーポイントのヒントや解説を見て、学習をすすめていくという流れです。

演習プリント 表
演習プリント②


答え合わせが終わり、スライドをクリックすると、下のような「問題演習」のスライドが表示されます。

このスライドが表示されたら、次の問題を取り組むという流れで生徒は学習をすすめていきます。

つまり、生徒は1問解いては、答え合わせ、という手順を繰り返していきます。問題を解くスピード、答え合わせをするスピードは、生徒によって異なります。

複数の問題を一気に演習し、一気に答え合わせをするのではなく、細かく細かく大問1つごとに自分のペースで答え合わせができるのも、個別最適な学習のうまみです。


■一斉授業は教師のペース

一斉授業では、問題が解き終わっていない生徒がいても、演習終了の時刻が来たら黒板を使って、30人の生徒に向けて答え合わせをします。

その解説の中の授業者の説明で 、少数の生徒が「なんでそうなるのかが分からない」という理解できない状況でも、授業者は大多数の生徒に向けて解説を続けます。
また、すでに問題を解けており、簡単だと感じている生徒も授業者の説明に付き合うことになります。

30人の生徒に刺さっていないという授業です。

悲しいかな、ALL一斉授業だと、授業の流れに追いていかれる生徒や、授業内容が簡単で退屈する生徒が生まれます。

■個別最適な学習は、生徒のペース

対して、個別最適な学習では、授業者の分身(GIGA端末の中の教材)が、生徒の隣にいるので、生徒のペースで学習をすすめることができます。

実際に、今年の2学期に実施した個別最適な授業では、問題をサクサク解けて、大問5まで答え合わせが終わっている生徒、単元の理解に時間がかかり大問1に取り組んでいる生徒など、1つの教室に、学習ペースがさまざまな生徒が混在していました。(算数や数学の授業では、よく見られる光景です)

僕(授業者)の役割は、教材を見ても理解できない生徒をサポートすることです。

授業プリント(課題)を早く終えた人は、他のクラスメイトに分かりやすく教えたり、ワークをすすめたりしています。(人に教えることが一番勉強になります)

■5年後、授業はなくなる

中学校教育は、どんどん個別最適な学習が主流になるでしょう。教員の仕事は授業ではなく、勉強の気持ち向かない生徒や苦手な生徒の対応に変わっていくと推測します。

個別最適を支える 分かりやすい教材を作るという仕事が、新たな価値になるでしょう。別の記事でも、研究と実践、生徒のフィードバックを重ねて得た個別最適な学習のノウハウを書いていこうと思います。

2023年も記事を読んでいただき、ありがとうございました。

早く帰る教師術


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